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物流危機は国家の有事、自動運転で共に支える ベンチャー企業T2・森本社長が描く未来

クルマの未来 更新日: 公開日:
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「社会課題」の解決目指し設立

――森本さんが社長を務めるT2社は、高速道路におけるトラックの自動運転を目指していますね。

トラックによる運送のうち、「高速道路上の『幹線輸送』の完全無人運転化」を目指しています。現実的なスケジュールで無人運転を実現するために、一般道路での運送は対象とせず、高速道路に直結した拠点間を走るトラックに限定した物流サービスを考えています。

2027年の中ごろくらいに、高速道路で走るトラックにおいて、自動運転の「レベル4(特定条件下における完全自動運転、特定条件下においてシステムがすべての運転タスクを実施)」を実現したいと考えています。

その前段階として、物流会社としてのオペレーションと自動運転に対する社会の受容性も高めていく必要があります。2025年には、まずは「レベル2(特定条件下での自動運転機能、運転主体は人)」で、小規模でもいいから物流サービスを始めようと思います。

2025年の夏ぐらいのサービスインを目指して、まずは物流会社として足腰を鍛えていく。それで1年半から2年ぐらいかけて実際に事業をおこないながら、徐々に完全無人のレベル4へ移行していくというかたちでステップを分けて考えています。

さらに利便性の高いサービスにするべく、最終的には高速道路出入口に近い物流センターまでは低速で走るといった工夫を加え、安全面を確保した上で一般道でも自動運転を実現できればと考えています。

(T2提供)

――「T2」という社名の由来は何でしょう。

「トランスフォーミング・トランスポーテーション」ということです。事業を正式にスタートさせる前に、三井物産とプリファードネットワークスというAIの会社のメンバーでPOC(Proof of Concept、概念実証)をやっていたタイミングで考えていたと聞いています。

物流(トランスポーテーション)のかたちを変えよう(トランスフォーム)というような思いが込められています。

僕が三井物産から出向して社長になったのは2023年の9月末です。それまでは三井物産の社員として、リテールファイナンス(個人や自営業者など小口のユーザーを対象とした金融サービス)を全世界に展開している部門の責任者をしていました。

――T2の事業は、どのようにして始まったのですか。

2020年に、三井物産がプリファードネットワークスに出資をしたところがスタートになります。

プリファードネットワークスの技術と、三井物産のビジネス知見やネットワークを使って、何かしらの社会課題を解決できないか、という議論が始まりました。

その中で、いわゆる2024年問題、特に物流ドライバーが不足しているという課題が挙がり、では物流をやりましょうと。さらに、物流でプリファードネットワークスの技術を使うとすれば、やはり「自動運転」ですよね、というふうに事業の方向性を決めていきました。

自動運転の対象には乗用車と商用車があります。乗用車は、自動車メーカーをはじめとしてすでに数多くのプレーヤーが存在していて、あえて今から我々がやる必要はないと判断しました。

一方で、商用車はまだこれからという状況でしたので、ではここに挑戦しましょうというかたちで事業が始まりました。

――自動運転への挑戦は、三井物産としてはもちろん初めてだと思いますが、プリファードネットワークスとしても初めての試みだったのでしょうか。

一部の乗用車OEMとの取り組みや、工場内といった閉じられた領域においての限られた車両での自動運転の開発ということであれば、彼ら(プリファードネットワーク)はすでに経験していたと思います。

しかし、トラックでの試みとなると、プリファードネットワークスとしてもこのときが開発のスタートだったはずです。

「社長業」の経験、畑違いの分野でいかす

――森本社長自身は、この事業にどのようにして関わるようになったのですか。

社長に就任することを聞かされたのは、2023年7月末ごろですね。当時は自動運転の経験もなかったですし、そもそも物流分野の事業に関わった経験もない。まったくの畑違いでした。正直、「大丈夫かな?」と思ったのも事実です。

でも一方で「社長業」ということであれば、それなりに経験を積んできているという自負もありました。タイで500人規模を、インドネシアでは1万人規模の会社のマネジメントもやっていましたので、マネジメントとして期待されている部分にはこたえられるのではないかと思いました。

それまでの過去十年間は企業への投資と事業再生の仕事を中心にやっていて、そこは結構、得意分野だと思っているんです。事業再生という仕事は、出向した会社で必ず修羅場のような場面があるんですよね。そういう修羅場も何度もくぐり抜けてきました。

T2はスタートアップ企業で、他社からお金を集めてゼロから作り上げていく会社です。資金調達も進めていかなければならないし、将来的にIPO(新規公開株)へ向けて色々と実績を示していかなければならない。

多分、うまくいかないこともたくさんあると思うんです。それに対して、乗り越えられるだろうということと、年齢的にもその期間一緒に走れるだろうということで選ばれたのではないかと思います。言ってみれば「体力採用」かもしれないですね。

でも、そういうところがある意味「強みである」とは言えると思います。突破力と、あとは打たれ強いという点でしょうか。

森本成城・代表取締役CEO
T2の森本成城・代表取締役CEO(撮影・松本敏之)

――畑違いの分野ではあるものの、とにかくやってやろうということですね。

はい。僕が社長に就任したころは、ちょうど資金調達についての交渉を進めているタイミングだったのですが、最初は三菱地所、三井物産、プリファードネットワークスの3社だったんです。

そこに8月末にはプラス9社、10月にプラス2社と、計11社が新たに入ってくるという話を聞いて「あ、これは大変なことになるな」と。

これは面白そうだ、というのと、これは大変だろうな、という両方が一度に来たような感じでしたね。

三井物産もそうなのですが、商社って最初に出資したら、その後は同じ陣容・顔ぶれで事業を進めていくパターンが多いんですよね。

ところがこの事業は、仲間やお金をどんどん集めていく、どんどん増やしていくという、あまり経験することがない珍しいケースだなと。

多分、商社の立場としては誰もやったことないような経営をしていかないとダメなんだろうなと。面白みと同時に不安もある。難易度が高い経営になるんだろうなという予感はありましたね。

「チームジャパン」で乗り越えたい

――自動運転の実現というのは1社だけで実現できるものではなくて、様々なプレーヤーの知恵を集めていく必要があるということですね。

そうですね。これまでの事例でいうと、自動運転をやるというと、システムだけを開発している、というケースが多いと思うんです。

でも、我々はシステムだけじゃなくて、ちゃんと物流サービスを実現するところまでカバーしようとしています。ただ、そうするとものすごく広い範囲で専門性が求められることになります。

そういう意味でも、それぞれの機能を持った株主に入ってもらわないとダメなんですね。ナショナルプロジェクトというか、チームジャパンみたいな感じにしていきたい。

物流問題というのは本当に大きな課題で、それぐらいやらないとやっぱり解決できない。戦っていけないと思っています。

(T2提供)

――事業を進めていくうえで、まず解決しなければならない課題はどこにあると考えていますか。

社会における自動運転の受容性をいかに高められるかということが、まずは重要なポイントになってくると思います。

トラックが自動運転をするというのは、現状では多くの人は「想像するわけでも怖い」となると思うんですよね。

でも、冷静に考えてみると、人間が運転している場合はよそ見をすることもありますし、居眠り運転をしてしまうのもやはり人間です。

その点、自動運転はそういった問題は発生しませんし、技術的な観点でも、十分に安全性を確保できるレベルに達することができると考えています。しっかりやれば安全なんですね。自動運転が普及すれば、逆に事故の数も減らすことができると思います。

まずはしっかりと実証実験を進めること、そして成果を出すことを繰り返していき、社会に対して共有していく、知ってもらうことが大事だと思っています。

あとは高速道路のインフラ面もしっかり整えていかなければいけません。政府や官公庁の方々ともしっかりコミュニケーションを取りながら、一体となって進めていくことも大事です。

自動運転車両を「量産」して、数字として積み重ねていくことも、我々に課されている課題です。2031年には2000台の規模でオペレーションをしようと考えています。それを実現するには、やはり安全で安心な車両を構築しないといけない。

トラックというのは乗用車に比べると、電子制御されている部分はまだまだ少ないわけです。油圧での制御など、いわゆるメカの部分が数多くあるので、自動車業界でいうOEMやTier1(自動車メーカーに直接納品する企業)、Tier2、Tier 3(それぞれTier1、Tier2に納品する企業)といった企業としっかり連携して、安全なトラックを量産していかなければならないと考えています。

専用駐車場に止まるダブル連結トラック
専用駐車場に止まるダブル連結トラック=2023年8月23日、浜松市北区、撮影・朝日新聞

――自動運転を社会に認めてもらうこと、そして乗用車にはないトラック特有の問題の解決。息の長い、大きなチャレンジになりますね。

我々が目指す「高速道路上の『幹線輸送』の完全無人運転化」を実現して物流サービスを実際にスタートさせることをゴール、山の頂上の十合目だとしたら、今はまだ三合目くらいのところだと感じています。

今はとにかくしっかりと開発をやっていかなければならない。一方で、少なくとも今考えているかたちで営業を開始できるということに対しては、ある程度の確信を持っています。

僕らの強みのひとつは「物流を共に支えていこう」という大義をしっかりと掲げていること。その結果、多くの株主が集まってくれています。様々なかたちで提携したい、支援したいという企業からの問い合わせも来ています。

大義をぶれさせることなくやっていければ、この先どんな困難があったとしても、誰かが助けてくれる、パートナーと一緒に乗り越えられるのではないかなと思っています。

いわゆる「物流の2024年問題」を解決するために、いろいろなプレーヤーがいろいろなことをしているわけです。

荷待ちや荷揚げ、荷下ろしのところの効率化であったり、2つのトレーラーを連結した「ダブル連結トラック」であったり、あとは国家プロジェクトとしてやっている(複数のトラックがリアルタイムで情報を共有しながら車間距離を取り、隊列を組んで走行することで安全性を高める)隊列走行、など。

このまま何の手も打たずにいれば、2030年ぐらいに30~35%の荷物が運べなくなるということがわかっているわけですから、みんなで様々な取り組みを進めるべきだと思っています。

だから僕は、そういった取り組みを「競争相手」だという捉え方はまったくしていないですね。むしろ、それぞれ分散するよりもみんなで力を合わせて、一つになってやっていきましょうと。そういう考えですね。

我々自身も、物流業界に参入するからといって既存の運送会社の競争相手になるつもりはまったくなくて、どちらかというと運送会社さんに対して「庸車(ようしゃ=他の運送会社などに業務委託して荷物を運んでもらうこと)として使ってください」という、サービスを提供する側ですよね。

「物流会社」へのこだわり

――運送会社にシステムを提供する、ということですか。

いいえ、そうではなくて、我々はトラックドライバーも含めた物流会社としてサービスを提供することを目指していますので、わかりやすくいうと「下請けとして使ってください」ということになります。

今、高速道路を使った「幹線輸送」のほとんどが下請けなんです。大手の運送会社さんは、この部分は下請けを使っているんです。そのひとつとして、我々を選んでください、ということですね。

もちろん、システムだけを売るというビジネスモデルもあるとは思うんです。 ただ、例えば何か事故が起こった時に、それはシステムの問題なのか、車両の問題なのか、それともオペレーターの問題なのか、責任というのはけっこう切り分けにくいんですよ。

その切り分け問題をきっちりと解決できるようなかたちになるまで待っていると、2024年問題の対処には間に合いませんし、それ以降も物流の状況はどんどん悪化しかねません。

それだったらもう全部、一時的には我々がリスクを取ってやっていきましょうと。そういう意味で、サービスまですべて行うというかたちを目指しています。

ただ、我々が目指す2000台のオペレーションを実現したとしても、幹線輸送全体の5%くらいにしかならず、2030年に足りないとされている30~35%には残念ながらまったく届きません。

だから、いろんな努力をされている様々なプレーヤーの方々も頑張ってください、共に日本の物流を支えましょうと、そうならざるを得ないわけです。僕は社長になってから、この「共に」という言葉を強く意識するようにしています。

物流業界では、既存の企業のみなさんはすでにものすごく努力をしてきているわけです。それで、日本の物流のクオリティーというのは、海外から見ると信じられないくらい高いと思うんですね。

いろんな産業がある中で、日本の物流というのは誇るべきものだと僕は思っていて、それは運送、倉庫、車両作りといったそれぞれの分野の企業の方々が、血のにじむような思いをされてきたうえで成り立っているものなんですね。

そういう中で作り上げられてきたクオリティーの高い社会、サービスを将来的に損なってしまうというのは、本当にもったいないんですよね。経営者としてはもちろんですが、消費者として、国民としてそれを維持していきたい。そのために事業に取り組んでいきたいと思っています。

(Getty Images)

――「物流会社」を目指すというスタンスは、関係者にはすんなりと理解されているのでしょうか。

物流会社を目指すというと、驚かれる方も多いです。私たちの会社を知ってくださった方は、初めはまあ物流会社になるとは思っていない人のほうが絶対多いですね。だからいろいろ取材を受けた際や、投資家の方と話をするときは、誤解のないようにきちんと説明するように心掛けています。

取材や投資の検討で話を聞きに来られる方は、やっぱりこういう会社なので技術についての話を聞きたいと思っておられる方が多いです。

でも、この事業が成功するかどうかのカギは、半分は確かに技術ですが、半分は物流会社としてやっていくためにどんなオペレーションを作るか、という点にあると思います。

「幹線輸送の荷物はリスクも含めて全部引き受けます」「荷物はここで受け取り、ここでお渡しします」という、そういうかたちのサービスを提供できる会社にしたいと考えています。

「レベル4」を目指して

――会社が提供するサービスとして、自動運転の「レベル4(特定条件下における完全自動運転、特定条件下においてシステムがすべての運転タスクを実施)」を目指すことを明言されています。これはどうしても譲れない点、ということになるのでしょうか。

そうですね。レベル4の完全無人化というところを実現しないと、ドライバーが足りないという問題の根本的な解決にはならない、というのが大きなポイントです。

これが例えばレベル5(完全自動運転、常にシステムが全ての運転タスクを実施)、しかも乗用車よりも大きくて重いトラックでそれを実現することを目指す、となると、まだまだ技術が追いついていませんし、現実的ではありません。もっと先だと思います。

一方で、当然ですが、「安心安全」というところは絶対に譲れないポイントで、万が一にでも事故を起こすなどしてしまったら、それまで積み上げてきたものを一気に失ってしまいます。

さらに僕ら以外にも自動運転に挑戦している方々、ひいては自動車や物流といった産業全体にも影響を与えかねません。だから、少しずつステップを積み重ねて安心安全を最優先する。ここは絶対に外せないと思っています。

(T2提供)

――歴史と伝統、そして技術力もある自動車メーカーであっても現在、レベル3(条件付き自動運転)にようやく手が届き始めた、というのが現状です。T2がレベル4を実現できると考えている理由は何でしょうか。

我々が提供するサービスは、ここからここまでが対象ですという「限定領域」である、ということが大きいと思います。いつ誰が乗っても機能を実現しなければならない市販車とは、そこが根本的に異なります。

例えば、我々が対象としているのは高速道路なので、そこには人は入ってこないという大前提がある。それだけで、開発工数を大幅に少なくすることができるんです。高速道路に限定しているというところが、やはり大事なのかなと思います。

我々はもちろん、自分たちの技術に関しては誇りを持っています。しかし、我々しか持っていないような飛び抜けた技術がたくさんあって、それで勝負しようとしている、というわけではありません。

現時点ですでに世の中で知られている技術であっても、それを「高速道路に限定する」「トラックに応用する」「物流サービスとして成立させる」といった条件のもとで組み合わせることで、この事業を実現させようとしています。

株主さんからよく聞くのは「ドリームチームを作りたいね」という言葉です。1社じゃできないことを、それぞれの企業がプライドをかけて、みんなで集まって実現する。

物流危機というのは、やはり国家の有事じゃないですか。それに対して企業が手を取り合って、「物流を共に支える」という大義に共感してもらい、一緒になって問題解決を目指す。

この「座組」と「考え方」が、やはり我々の魅力であり、ユニークなところなのかなとは思っています。

最大の強みは「座組み」

――多くの企業が株主として出資しているメリットは、どんなことがあるのでしょうか。

僕らのサービスは、まずは高速道路での完全自動運転を実現することを目指していますので、一般道路は走りたくないわけです。ですので、高速道路上の拠点整備は大きなテーマになります。

2027年に京都府の城陽と神奈川県の上瀬谷に、高速道路直結の次世代幹線物流センターが作られます。これを主導した三菱地所はT2の株主でもあるため、 我々もこの拠点を最大限利用できる。

我々にとっては大きなメリットですし、三菱地所にとってもセンターを利用してくれる企業を確保できることになる。ウィンウィンの関係が成立するわけです。

有人から無人、もしくは無人から有人に切り替える拠点を、高速道路の出口周辺で確保しなくてはいけませんが、三菱地所がパートナー企業としていてくれることで、用地の目利きや取得の面でも大きなメリットがあります。

ほかにも、ガソリンスタンドを展開している宇佐美鉱油が株主にいることで、高速道路のサービスエリアやパーキングエリアのガソリンスタンドを利用して、メンテナンスや給油のほか、有人・無人の切り替え拠点として使わせてもらうといったことも考えられます。

あとは、自動運転で重要なのが通信。遠隔監視とかそういった技術についても、通信会社であるKDDIがパートナー企業としていることで様々な技術支援を受けることができます。物流を専門にする三井倉庫ロジスティクスや大和物流といった企業にも、様々なサポートをいただいています。

会社としてこういう機能が必要で、それに対していちばん適切と思われる企業が株主として入ってくれている。こういう状況って、なかなか作れないと思うんですよ。

株主の顔ぶれと、各企業が担っている機能をみれば、我々がどういうことを考えて、何を目指しているのかということもよくわかっていただけると思うんです。この「座組み」こそが 我々のユニークなポイントであり、最大の強みだと思います。

国は、2025年までに高速道路での自動運転を了承するための環境作りとして、2024年に新東名高速道路で自動運転車用のレーンを設置し、深夜の時間帯に自動運転トラックの実証実験をおこなうとしています。

もちろん我々も参加するわけですが、僕の考えとしては、もっとみんなで一緒にやってもいいかなと思っています。

そうじゃないと、2024年問題と物流危機は乗り越えられないと思うし、乗り越えるためには技術的に早く間に合わせないといけない。我々のような企業が、分散してそれぞれ同じことをやるのではなくて、固まった方がいいと思っています。

トラック運転手の時間外労働時間の上限規制導入まで1000時間を切ったことを示す時計
北海道内物流を考えるシンポジウムでは、トラック運転手の時間外労働時間の上限規制導入まで1000時間を切ったことを示す時計が表示されていた=2024年2月19日、札幌市、撮影・朝日新聞

――高速道路上の完全自動運転というのは決して夢物語ではなく、物流危機という目前の問題に対処するための、きわめて現実的な解決策だということがよくわかりました。そのためにT2として今、まず乗り越えなければいけないものは何でしょうか。

トラック特有の問題として、電動化できていない「メカ」の部分がたくさんあるということ。そして、今後は自動運転車両の「量産」を考えていかなければならない、という点かと思います。

今は、ベースとなる車体部分はOEMメーカーから買ってきて、ライダー(レーザー光を使って距離などを測定する技術)などのセンサーやカメラなどの取り付けを架装会社さんと一緒になってやっている、という状況です。

今後、特に制御を行う部分に関し、安心安全な車両を作っていくためには、先ほどお話ししたOEM、Tier1、Tier2といった企業の協力が絶対に必要になります。

さらにそういう車両を、目標とする2000台とかそういう単位で製作するとなると、架装会社だけでは作りきれないという部分も出てきます。そこをOEM、Tier1、Tier2といった企業の力を借りながら、いかにして量産し、かつメンテナンス・整備していく態勢を構築できるか。そこが現時点での大きな課題ですね。

あとは、例えば災害が起きて緊急停止しなければならないといった事態に陥ったときに、どうやってそれを検知して、どういうふうに遠隔監視していくか、という問題もあります。

少し技術からは離れてしまいますが、緊急停止したけど荷物は運ばないといけないとなったときに、トラックがある場所までドライバーを運んでもらえるような提携を、どんな企業とどんな条件で結べばよいか、そういったことも考える必要があります。

さらに我々は企業として事業をおこなっているわけですから、当然、ビジネスとして成立しなければいけません。運ぶ荷物も往復できちんと確保して積載率を上げていく必要があるわけです。

そのためには、事業の実施主体というよりはむしろ「荷主」の立場に近いような企業にも、ぜひ株主として参加してもらいたいと考えています。

トラックの自動運転の技術だけを開発している企業はいくつかあるようですが、物流会社として考えている企業は、少なくとも私が知っている範囲では世界でもまだないと思います。

競合他社がないといえばそうなのですが、参考にするべきモデルケースもない。まさに前人未到の領域での挑戦になります。

まだまだ様々な課題が残っています。事業としても技術としても、まだまだ三合目といったところだと思っています。

「道路の安全」ひとりの人間として何とかしたい

――自動運転が切りひらいていく未来について、森本社長はどんな展望を持っていますか。

高速道路での大型トラックの重大事故は、以前に比べてかなり減っているとはいえ、今でも月10件以上は起きていると言われています。

これをできるかぎりなくしていきたいというのは、ビジネスマンとしてだけじゃなくて、ひとりの人間として強く思います。せっかくこういうポジションにいるわけなんで、やっぱりそこに光を当てて、何とかしたいなという思いは常に持っています。

私たちが提供するのはあくまで物流サービスですが、そこで得られたデータを別の分野に応用し、活用することで、事故が減らせるかもしれない。もちろん、自動運転そのものについても技術を向上させることで、数字のうえでも安心安全だということを社会に認めてもらえるように、努力し続けなければいけません。

自動運転というと、技術や効率とかコストとか、そういうところに焦点が当たることが多いと思います。でも、自動運転が普及していくことで実際の数字として事故が減っていって、不幸な事故で悲しむ人も減っていくということを社会に認めてもらう。そういう未来を作っていきたいと思っています。

(撮影・松本敏之)