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瀬奈じゅんさんと千田真司さん 特別養子縁組で2人目を迎え入れ「普通の家族」として

World Now 更新日: 公開日:
瀬奈じゅんさん(右)と千田真司さん夫妻

――どんなきっかけで特別養子縁組をされようと思ったか教えて下さい。

瀬奈さん 私は不妊治療をして、合計7回体外受精をしました。最初の2回で授からなかったとき、夫が「こういう制度で救える命がある。それも新しい家族の形だと思う」と提案してくれました。最初はあなたの子を授かるために頑張っているのに」と思ってしまった。でも、夫の提案がなければ息子とも娘とも出会えなかった。だから、本当に感謝しています。

千田さん 最初に伝えてから半年後、妻からもうちょっと制度について知りたいと言われました。ぼくも詳しくは知らなかったので、一緒に説明会に行きました。最初は未知な世界で、不安も少しあったのですが、説明会では、先輩のご家族が二組いて、実際に赤ちゃんも抱っこさせていただきながら交流できました。一緒にお昼ご飯を食べながら話す時間もあったのですが、そのご夫婦たちも、説明会を一緒に受けている方々も、どこにでもいる夫婦だった。特別養子縁組されているご家族は普通の家族に見え、家族の雰囲気がとても似ているので、すごく安心感を感じました。いろいろ考える前に一歩飛び込んでみることはすごく大事だなと思いました。

瀬奈じゅんさん

瀬奈さん 新たに娘を迎えたのは、1人でも救われる命があれば、という思いからでした。それから、きょうだいがいたら心強い部分があるんじゃないかとも考えました。また息子を育てる経験から、血のつながりは関係ないと、実家の家族も実感していた。だから、2人目を迎えたいというと、母は私の体力のあるうちに。面倒をみたいから早くしてと。いま、みんなで溺愛しています。

千田さん 長男も赤ちゃんが好きで、妹か弟がほしいというのを聞いて、夫婦で決めました。長男のときから5年たって、親せきのめいやおいも大きくなって、赤ちゃんの面倒をみられる年齢になっています。協力してくれる、頼もしい家族が増えていました。

瀬奈じゅんさんと千田真司さんと長男の食事の様子=「ちいさな大きなたからもの」瀬奈じゅん、千田真司著(方丈社)より、長谷川美祈氏撮影

ーーご長男の反応はいかがでしょうか。

瀬奈さん 長男は、私たちが家にベビーベッドなどを準備していくのをみながらワクワクしていました。長男にありがとうねって言われて、ああ(長男の認識では)私たちが手伝っている側なんだなとも思いました。

千田さん 長男と一緒に長女を迎えに行きました。自分のときは、パパとママとおばあちゃんが迎えにきてくれたのはわかっているので、今回は長男が迎えにいくという形をとりました。5歳だから、しっかり記憶に残るでしょう。

ーー真実告知はいつから始めていたのですか。

瀬奈さん 息子への真実告知は、生後3カ月のころ、始めました。ママのおなかはちょっとこわれちゃって、あなたを産んであげられなかった。もう1人、お母さんがいて産んでくれたんだよ。2人ともお母さんだよって。それから何度も伝え、自然とわかるようになっていきました。

千田さん 長男が3歳ごろ、ぼくと2人だけで車に乗っていたら、ぼくは●●ママから生まれたんだよねと。長男からその話題を直球で話しかけてきたのは初めての経験でしたが、そうだよと答えました。(ママ(瀬奈さん)から生まれたかったなって。そういう気持ちを言葉にできる年齢になったんだな、そしてやっぱりそういう思いがあるんだなと感じました。そのころから(母親の着ているTシャツなどを頭にかぶせて出す)産み直しの遊びをやっていたのですが、その後にもやりました。

ーーいまご長男とご長女のご様子はいかがですか。

瀬奈さん 長男は、長女を迎え入れるときに、守らなきゃねって言いながら、コットに入っているところに会いに行ったので、この命を守らないとと思ってくれているのかもしれません。この間は、私が洗い物をしていたら、リビングで息子と一緒にいた娘が、ぎゃって泣いた。どうしたのと聞くと、息子が紙切れを見せてくれた。妹が紙を食べてしまっていたのを出そうと、口に手を入れ、出してくれていました。

千田さん 実はその前に長男は一回、思いきりかまれたことがあったんです。(赤ちゃんは)遠慮がないから相当痛い。それで一回大泣きしていたのに、痛い、怖いということよりも、お兄ちゃんだからちゃんとやってくれたのです。

千田真司さん

ーーインスタグラムなどでもほほえましいお子さんたちのご様子を発信されています。

瀬奈さん「特別養子縁組だけど、ごく普通の家族だよと思ってほしくて、インスタグラムで発信しています。一方で、それは日常のほんの一部。子どもはぐずぐずする時期もあるし、忍耐が大事。自分、ちっちゃいなって、へこむ毎日です。

最近、自分に余裕があれば、子どもの反応も変わってくると気づきました。ずっと自分の足で生きていると思ってきたけど、そうじゃなかった。自分の甘さにも気づかされた。子どもを通じて、いろんなことを勉強させてもらっています。

千田さん 血がつながっていれば、親子で似てくる部分があるのかもしれませんが、そうではないからこそ、息子がやりたいことや好きなものを探し、少しでも引っ掛かりそうなものはやらせています。その分、向き合う時間も長くなっている気がします。いま、息子は粘土が大好きで、家には、粘土で作った人形が500体もあります。作品だから捨てられないのです。

瀬奈じゅんさんと千田真司さんが息子を迎え入れた特別養子縁組の体験を書いた「ちいさな大きなたからもの」(方丈社)

ーー特別養子縁組制度について感じていることがあれば教えてください。

瀬奈さん 特別養子縁組で息子を迎えたと発表したとき、えらいねすごいねと言われました。それが今年、娘のことを公表すると、「おめでとうと。社会の価値観は変わってきていると思います。次は、実親さんへの偏見を減らしていきたい。(養子に出すということは)子どもの命を救う選択をされたわけですから。

千田さん 僕たちは、子どもが生きていく未来がいい環境になればと特別養子縁組について発信を始めました。ただ、授かって、自分たちも救われましたと言うかどうかは1年間くらい悩みました。これは子どものための制度なので。でも、どれだけ幸せを子どもと共有できているかを伝えないと意味がないと思いました。

そして、養子縁組に出された生みの親や近しい立場の方が、僕たちの発信を見てこの決断は正しかった子どもが幸せになるかな」と感じてもらえればと思っています。そこも伝えたい核の部分です。

海外だと生みの親さんと養親が交流するのが普通に当たり前にある。それが素敵だし、それが当たり前であるべきだと共感もしています。

瀬奈じゅんさんと千田真司さんと長男が歩く様子=「ちいさな大きなたからもの」瀬奈じゅん、千田真司著(方丈社)より、長谷川美祈氏撮影