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全身スキャンは予防医療の革命?セレブ盛んにインスタ発信…専門家「エビデンスない」

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
全身スキャンのイメージイラスト
セレブたちが推すプレヌーボのような会社は、予防医療に革命をもたらすと言っている。しかし、専門家らは、それが正しいアプローチではない可能性があると警告する=Cristina Spano/©The New York Times

Prenuvo(プレヌーボ)は、2499ドルであなたの未来を予想してみせる。この会社が提供する約1時間の検診コースは、MRI(磁気共鳴画像法)で全身をスキャンし、がん、動脈瘤(りゅう)、肝疾患、さらには多発性硬化症の初期兆候を調べるのだ。

ここ数カ月、つややかな円筒形のMRI装置の前でブランド物のスクラブ(手術着)を着てポーズをとる有名人やインフルエンサーの画像が、かなりの頻度でSNSに登場し始めている。

キム・カーダシアン(訳注=リアリティー番組出演などで知られるタレント)は8月、3億6400万人のフォロワーと共有した投稿で、スリッパを履き、プレヌーボが「私の友人たちの命を本当に救ってくれた」とキャプションに書いた。テレビ司会者のマリア・メノウノスは5月、プレヌーボによるスキャンで腫瘤(しゅりゅう)があると警告され、その後、それがステージ2の膵臓(すいぞう)がんだと判明した。

プレヌーボの創業者でCEO(最高経営責任者)のアンドリュー・レーシーによると、同社は製品の販売促進のために誰にもカネを支払っていないが、インフルエンサーやウェルネス業界の著名人らに無料でスキャンを提供し、「見返りに、この検診を素晴らしいと思うかどうか、任意で正直な評価をしてもらっている」。また、スキャン費用を数百ドル割引するクーポンをSNS上で受け取り、フォロワーに提供する人もいる。

同社は、魅力的で洗練された受診者を求めている。ファッション広告会社ルシアン・パジェスによると、9月初めのニューヨーク・ファッションウィークの期間中、プレヌーボは同社と連携し、ファッション界で影響力のある「少数の」人たちの予約を入れた。

そのなかにはフランスのファッション編集者オリビエ・ザームもおり、彼は9月20日、ファッションショーの合間にスキャンを受けに行ったとインスタグラムに書いている。デザイナーのザック・ポーゼン、モデルのリリー・オルドリッジ、「ヴォーグ」誌の編集者ガブリエラ・カレファ・ジョンソンもMRIスキャンについて投稿している。

多くのセレブが、SNSで自分の健康について語っている。たとえば、マンモグラフィーの写真を共有したり、腸内洗浄や点滴など怪しい健康法を宣伝したりするのだ。しかし、全身スキャンについてほぼ同じ構図の写真を添えて投稿する人たちは、セレブの健康志向をコストの面で新たなレベルに押し上げた。

著名な推進派が、一般的に保険でカバーされていない全身スキャンを提供する企業群のなかで、プレヌーボを最も名高い会社にした。Ezra(エズラ)やsimonONE(サイモンワン)、そしてストックホルムに拠点を置くNeko Health(ネコヘルス)といった企業もある。

「がんの早期発見を望む理由はまったく理解できる」と米カリフォルニア大学サンフランシスコ校の放射線医学成果研究所(RORL)の博士レベッカ・スミス・ビンドマンは言い、こう続けた。「間違いなく、がんを制御する感覚を得られるだろう」

彼女は、ほとんどのがんは早期に見つかれば治療できると言う。だが、それらの多くは通常保険でカバーされる、医師が推奨するがん検診などの方法で検知される。

そして、全身スキャン(スクリーニング)によってかなりの害が生じる可能性があると彼女ら専門家は指摘する。米国放射線学会(ACR)は2023年4月に声明を発表し、「全身スクリーニングは費用対効果が良いとか、あるいは長寿化に効果があることを示す実証化されたエビデンス(科学的根拠)はない」と指摘、スキャンが広範で高価なフォローアップ(追跡調査)を必要とする「非特異的な所見」を導く可能性があるとして懸念を表明した。

乳房腫瘍(しゅよう)学者で、メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターのエブリン・H・ローダー・ブレストセンター医療ディレクターの医師ラリー・ノートンは、がんの家族歴がある人であっても、健康な人が全身MRIスクリーニングをすることを「支持するエビデンスはない」と言っている。スミス・ビンドマンは、自身にがんの家族歴があるが、プレヌーボのような全身スキャンを受けようとは考えていないと話した。

2019年のあるメタ分析は、がんなどの病気の症状はないが、全身MRIスキャンを受けた5千人以上を対象にした12件の研究を調べた。このうち完全なデータを持つ6件について、研究者らはスキャン受診者の16%が偽陽性にされたことを突きとめた。スキャンで何かが見逃されたことを意味する偽陰性が観察された研究は1件だけで、受診者の約2%に発生した。MRI検査を受けた約32%の人に病気に結びつく可能性のある異常が検知されたが、そうした異常が病気や死につながったかどうかは不明だ。

「さらにスキャンをすれば、もっと検知される」と医師のトーマス・C・クウィーは言う。オランダのフローニンゲン大学医療センターの放射線科医で、メタ分析の論文筆者の一人である。

「患者にしているこの検査が、本当に患者にとっていいことなのかどうか、疑問に思うだろう」とクウィーは話していた。

SNSでのプレヌーボの存在感は異例だ、と医療経済学者のジョシュア・コーエンは言う。骨折のX線やアルツハイマー病のPETスキャンといった診断スキャンは、評価後に医師が処方するのであって、インスタグラムの口コミで広まるのではない。

その存在感が、全く健康だと感じている人でもスキャンの予約に走らせるのだ。セントルイスに住む44歳の女性ジェニファー・ジョーンズもその一人で、彼女は最初にSNSでプレヌーボのことを知った。姉妹が肺がんを患っているという事情もあって、彼女はスキャンを受けたいと思ったのだという。

ジョーンズは、多くの医師が健康な人のスキャンに懐疑的なことを承知しているが、「それが合法であることに疑いの余地はない」と言うのだ。彼女にすれば、(受診の)価格は、将来病気になった時の経済的その他の潜在的コストと比べれば十分見合う価値がある。「文字どおり、予防的な選択肢のためなら、何でもするつもりだ」と話していた。

誤検知のリスク

私たちの体は、通常、異常性を内包している。臓器のしこり、腫瘤、傷痕などだが、それらはMRIで検知できる。スミス・ビンドマンは、それらを皮膚のほくろに見立てた。

MRIだけでは、所見が良性なのか、やっかいなモノなのかを常に判断できるわけではなく、患者はしばしば追加の検査を受けなければならない。ワシントン大学の放射線科長で医師のドゥシャント・サハニは、そう指摘する。

プレヌーボの代表者の一人は、プレヌーボのスキャンを受けた人の5%が「命にかかわる可能性のある所見」を警告されていると言っている。

同社の創業者レーシーによると、誤検知に関する理論上のリスクはプレヌーボのテクノロジーを反映しておらず、プレヌーボの検査は多くのスクリーニング研究の中心になっているCTスキャンよりも正確だという。

しかし、スミス・ビンドマンは、「問題はテクノロジーとは無関係だ」と言っている。

「問題は、私たちの体の深遠で正常な変化と関係があるのだ」と彼女は指摘し、非常に感度の高い機器が結節や異常を発見する可能性があると言った。

スミス・ビンドマンが言うには、予防的なスクリーニングは初期のがんを見つける可能性が高いものの、がんの症例がすべて深刻な病気に発展するわけではない。また、何らかの異常が検出されれば、医師はそれを追究する。彼女によれば、これは決して本当の健康リスクには至らなかったかもしれない初期がんのために、「大がかりな手術と放射線や化学治療」を受ける結果につながりかねないのだ。

少数の患者にとって、早期のがん発見と治療は多大な利益をもたらすだろうが、「良性腫瘍の件数は悪性腫瘍の件数を大きく上回っている」とスミス・ビンドマンは言う。

追加の検査は、PETスキャンやCTスキャンのような検査を通じて新たな合併症や潜在的に不必要な放射線被曝(ひばく)につながる可能性がある。

「誰だって、やみくもに人々にX線を浴びせたくないのだ」。医師のマイケル・ピグノーニは言う。テキサス大学オースティン校のデル医学部内科長で、米国予防医療専門委員会の元メンバーである。彼によると、追加検査は侵襲的で高い費用がかかる可能性もある。

「MRIによる全身スキャンを行った後、PET/CT由来の放射線がどれだけのがんを引き起こすか」とスミス・ビンドマンは問う。

ピグノーニは、彼の言う「opportunity cost(オポチュニティーコスト=機会費用)」を懸念している。つまり、健康診断の推奨スケジュールに従ったり予防医療の他の側面に力を入れたりする代わりに、MRIの所見による経過観察の画像に労力をつぎ込むことを心配しているのだ。どのスクリーニング検査が最も効果的かを見極めるために豊富な研究が行われており、それらは一般の人たちに推奨されている、とピグノーニは言っている。(抄訳)

(Dani Blum and Callie Holtermann)©2023 The New York Times

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