身近にある製品の代表例が、時計の文字盤や針に使われた夜光塗料だ。現在では、ダイバーズウォッチなど一部の特殊な時計を除いて放射性物質を含む塗料は使われていないが、20世紀初めに夜光塗料が発明された当初は、毒性の強い放射性物質ラジウムが使われていた。1960年代ごろから放射線量が少なく、より安全なプロメチウムやトリチウムに代わった。20年ほど前からは、安全性や、廃棄された後の環境汚染への配慮から、放射性物質を含まない塗料に切り替わっていった。
放射性物質を含まない夜光塗料で現在、世界屈指のシェアを持つのが、「根本特殊化学」(東京都杉並区)だ。同社が93年に開発した「N夜光」は、放射性物質を含まず、それでも一晩中明るく発光し続けることから、スイスや日本の高級腕時計ブランドなど世界的なメーカーの多くで採用されているという。
このほか、日本国内ではほとんど使われなくなっているが、火災を検知するための煙感知器にはアメリシウムという放射性物質が使われているものがある。
19世紀から20世紀半ばにかけて世界各地でつくられたのが「ウランガラス」だ。ウランで黄色や緑色に着色したガラスは、紫外線を当てると蛍光色を発することから骨董(こっとう)品としても人気がある。
セラミック製品には原料となる鉱物由来のトリウムやウランが含まれることがある。御影石のテーブルトップや建材からも放射線が出ている。たばこの葉には大気中や地中のラドンが変化してできる放射性物質ポロニウムが付いており、燃やして煙を吸い込むと、わずかだが被曝(ひばく)する。
放射性物質は、がん治療や検査など医療分野でもよく使われる。だが日本はそのほとんどが輸入頼みで、需要が高いにもかかわらず、供給が不安定なことが問題になっている。背景には、日本には医療用の放射性物質をつくる研究用原子炉がないことがある。
日本アイソトープ協会(本部、文京区)によると、たとえば、がん検査薬の原料になる放射性物質「モリブデン99」は現在、全量を欧州やオーストラリア、南アフリカなどから輸入しているが、製造する原子炉の老朽化などで世界的に品薄となり、価格が上がっている。また半減期が66時間と短いため、製造国から空輸して医薬品に加工して国内各地の医療機関に届けるまでを大急ぎで行う必要がある。
放射性物質はまた、工業分野でタイヤの耐久性を強めたり、高温の鉄の厚さを計測したり、農業分野で品種改良や、じゃがいもの発芽を抑制したりすることにも活用される。
普通の暮らしでも、自然界から出る放射線によって被曝している。宇宙や空気中のラドン、食物からも出ており、1人あたりの年間被曝量は世界平均で2.4ミリシーベルトという。地域によっても差があり、日本の場合は年間被曝量は平均2.1ミリシーベルト。放射性物質を含む花崗岩(かこうがん)が地表にむき出しの西日本の方が、富士山などが噴火した際の火山灰で地表が覆われている東日本より高くなる傾向があるという。
動植物の生命維持に欠かせないミネラルの一種カリウムにも、放射線を出すものが一定の割合で含まれている。食品では特にバナナや南米産のブラジルナッツ、乾燥昆布や干しシイタケなどが多いとされる。
日本アイソトープ協会の二ツ川章二常務理事は「医療や産業や研究分野で使われる放射性物質は、私たちの豊かな生活になくてはならない存在。自然に受ける放射線の範囲では健康への悪影響は報告されておらず、過剰な心配はいらない」と話す。