――世界の原子力において中国やロシアの影響力が増しています。
原発は、非常に高価な長期プロジェクトであり、途上国には負担できないと言うのは簡単だ。しかし彼らは求めている。ときには国家の威信のために欲しがっており、まるで国を代表する航空会社を持ちたいのと同じだ。様々なエネルギーを比較して判断する経済合理性よりも、ほかの理由で決めている。
このような地域で原発が増えれば、原子力に関係する国際的な規制や監視の枠組みが変化し、いまの安全基準を適用できるのか、基準を修正すべきなのかなどを検討する必要が出てくる。もちろん中国やロシアも事故は起こってほしくないから、安全を軽視はしていない。だが民主的なシステムで運営しなければ、規制当局と政権、つまり中国なら共産党、ロシアなら(大統領の)プーチンらとの関係は、先進国とは別のものになる。興味深いのは、原子力エネルギーを増やす国には強力なガバナンス、特に独立した専門機関がないことだ。米国は、原子力に関心を持っている国々の計画や経済分析、安全規制などを支援するべきだろう。
――米国でも開発されている小型モジュール炉(SMR)は、「ゲームチェンジャー」になるでしょうか。
その国によるだろうし、投資が得られるか次第だろう。アイダホ州には12基のSMRができる計画だが、問題はコストだ。大型炉であれば巨額の初期投資が必要で、長い建設期間がかかる。新型の小型炉では、建設期間を縮める必要がある。なぜなら100億~200億ドルの融資を低金利でできる余裕のある国はほとんどなく、日本にも米国にもできない。初期費用を投資可能なものにする必要がある。
――米国では原発の運転期間を80年に延ばす動きもあります。
そうだ。運転期間が60年でも、原発はとても役に立つ。まだ使える原子炉を閉めれば、それに代わる発電所を建設しなければいけない。天然ガス(による火力発電)で置き換えれば、二酸化炭素の排出は増える。再生可能エネルギーを増やせば、コストは膨らむ。再生エネの長期的なコストがどれぐらいになるのかまだわかっていない。私には風力のタービンや太陽光発電のパネルが60年持つとは思えない。原子力と再生エネのコストを比べるのは無理がある。だが多くのエネルギー政策は、短期的な視点で決められている。一方で、気候変動に対応するには、エネルギーの脱炭素化をはかる必要があり、石炭などの化石燃料による発電を広げるわけにはいかない。
原子力の大きな役割を代わることができるエネルギーはあるだろうか。ドイツは原発や石炭をやめ、再生エネをのばすと決めたが、天然ガスが増え、(輸出する)ロシアへの依存が高まるかもしれない。米国には望ましくない事態だ。
再生エネで目標を達成するのは、原発ほど簡単ではない。海上の強い風を利用した風力発電や南部の太陽光発電が頼みとなるが、送電システムなどで問題も抱える。これは極めて重要な問題になっている。現在、多くの国が液化天然ガスを増やしているが、よりきれいなエネルギーを使いたいなら、原子力にも目を向けるべきだ。低炭素でありながら、石炭や天然ガスと同じようにベースとなる電源として使えるからだ。
中国やロシアは、原子力に可能性を見いだしている国々の人材育成や研究に資金を投じ、今後の原発輸出につなげようとしている。米国にも、かつては「アトムズ・フォー・ピース」(原子力の平和利用)のプログラムがあり、人材育成や研究炉の建設を支援した。私が昔、米政府で働いていた頃は、どこの国に行っても、アトムズ・フォー・ピースのプログラムに参加した役人に会ったものだ。日米の原子力協力は長い歴史を持つに至ったが、政府レベルだけでなく民間、研究レベルでも協力していくことが重要だろう。
――第2次大戦後、米国は原子力の平和利用を進め、各国との関係を深めました。現在は中国やロシアが、米国がつくってきた核や原子力を巡る新たな規範を作ろうとしているようにも見えます。
確かに、米国の影響力や国際原子力機関(IAEA)などでの米国のプレゼンスにおいては懸念がある。建設中の原発もとても少ない。これは恥だ。中国で4基の(新型炉の)「AP1000」を建てたが、恐らくこれに続く建設はないだろう。
一方でロシアのシステムは、チェルノブイリを除けば長年にわたってある程度うまくいっており、ハンガリーなどでの(原発の)運転も上々だ。だが新たな世代の原子炉に対応する安全規制の問題がある。これまでと異なる核燃料や安全系を持つ新世代の原子炉に対応するには、新たな安全の枠組みの構築に早く取り組む必要がある。
■特集「核の夢 二つの世界」に登場した世界中の原子力専門家たちに、核のいまと未来を聞いたインタビューは明日の第8回が最終回。核不拡散や原子力に詳しい米ジョージ・ワシントン大のシャロン・スクアッソーニ特任教授に、核エネルギーと人類の未来を聞きます。