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大麻の「使用罪」創設は世界の流れに逆行 厳罰化は犯罪組織を潤わせる?禁酒法の教訓

World Now 更新日: 公開日:
大麻草のイメージ写真
写真はイメージです=gettyimages

大麻所持、若者の摘発相次いだが…

先日、大麻所持で懲役6月(執行猶予3年)の有罪判決を受けた俳優が、実は中学生のころから大麻を吸っていたと告白し、大きな問題になっていた。

最近も佐賀で16歳の男子高校生が、また沖縄では14歳の男子中学生が大麻所持で逮捕されている。「逮捕」という文字がどうにも哀れでならない。

おそらくこの国では、未成年がアルコールやタバコを手にするより、大麻を手にする方がはるかに簡単なことなのだろう。

私たちは子どもたちを守るために、社会全体としてなんとかしたいと思っている。薬物に関していえば、多くの人は子ども守り、子どもの健全育成のために薬物の流通を罰する必要があると考えている。

しかし、子どもたちが実際に薬物を使用し始めると、教育や福祉への関心は薄れ、刑事法が最優先される。悪さをした子どもを親がきつく叱るように、国が親に代わって問題行動を起こした子どもたちにきつい罰を与える。

他害行動を起こした場合はともかく、身体に悪い物質を自ら取り入れた子どもに対して、かれらを「犯罪者」として罰することがはたして最良の選択なのだろうか。

厳罰化が招いた逆説、禁酒法の教訓

もしも酒が法禁物だったらどうなるだろう?

犯罪組織が密造酒の製造に精を出し、それを地下の秘密バーで提供し、路地裏でこっそりと販売する。ときには少量でも十分に酔えるように強い工業用アルコールを混ぜるかもしれない。

実際、アメリカ禁酒法の時代には粗悪な密造酒や混ぜた工業用アルコールをごまかすために美しいカクテルが考え出され、多くの人が不純な酒で命を落としたり、失明したりした。

これはすべてギャングが酒を管理していたからである。かれらの頭には品質管理や品質表示も、まして公衆衛生への配慮などなく、もっぱら金儲けしかない。売れるものなら、売れる相手に何でも売った。

1920年に始まった禁酒法の時代は、1933年に国家がアルコールの管理をギャングから取りあげて終わった。それとともに多くの家庭内暴力、健康被害、治安の悪化も抑えられていった。今では、薄暗い路地裏で怪しい人物から密造酒を買う者は皆無であるし、酒の密輸もなくなった。

禁酒法の時代を解説する動画=動画制作メディア「WatchMojo」(カナダ)のYouTubeチャンネル

今薬物がかつての酒そのものである。公衆衛生や青少年保護に無頓着な犯罪者が薬物を管理している。酒やタバコで成功しているように、大麻についても、国は犯罪者から管理を取り上げるべきである。

大麻規制、見直す国が相次ぐ

そもそも現在の世界的な薬物統制は、1961年の「麻薬単一条約」に始まる。国連のほとんどの国が賛成したこの条約は、「医薬品」の利用を確保する一方で、「薬物」の非医療的使用を加盟国の抑圧的監視下に置いた。大麻はこのときに確たる科学的根拠もなく、ヘロインやコカインと並んでもっとも厳しく規制すべき違法薬物リストに加えられた。これにどのような処罰を行なうかは、各国のオプションだった。

しかし、現在は世界保健機関(WHO)の勧告によって大麻の危険性についての評価は下げられた。そもそも当初の決定は、相対的な健康リスクについての十分な科学的検討にもとづいたものではなかった。「医薬品」と「薬物」という、この恣意的な二元的区別こそが条約の本質的欠陥だった。なぜなら、世界はすぐに薬物に対する懲罰的執行に重点を置くようになり、それがその後の何兆ドルを投じて世界を巻き込んだ熾烈な「麻薬戦争」に発展したからである。

消費者を「犯罪者」とし、ブラック市場を渡り歩かせ、犯罪集団を太らせた。結果的に犯罪集団に薬物の管理を任せた恰好になったのである。その結果、闇組織に巨額の金が流れ、低所得国の人びとの、鎮痛、麻酔、緩和ケアなどのための医薬品へのアクセスが不十分になった。世界中の無数の人びとが治療されない痛みに苦しんでいる。

最近になってようやく、この条約の規範的枠組みこそが有効な薬物政策への転換を阻む大きな障害となっていたことに多くの国が気づきだし、新たな薬物政策が始まっている。カナダは2018年に大麻を合法化して国の厳格なコントロール下に置いたし、アメリカのバイデン大統領も2022年に同じ方向を目指すことを表明した。ドイツも大麻の娯楽利用を認める法案を閣議決定し来年初頭の施行を目指している。大麻の懲罰的禁止に疑問をもった多くの国々が国際条約から事実上離反しているのである。

カナダ・トロントの公園で大麻を吸う男性。娯楽用大麻が解禁された2018年10月当時、公園には解禁を祝う人たちが集まっていた
カナダ・トロントの公園で大麻を吸う男性。娯楽用大麻が解禁された2018年10月当時、公園には解禁を祝う人たちが集まっていた=2018年10月18日、西村宏治撮影

重要なのは、大麻が安全だから世界が解禁の方向に流れているのではない。流れを変えたのは、大麻に対して厳罰で対抗することが間違いだったからだ。

他方、日本は相変わらず数十年前の「医薬品と薬物」という二元的区別にしがみついてる。

政府(厚労省)は2023年8月、「薬物乱用防止五か年戦略」を発表し、医療用大麻を解禁するとともに、乱用防止のために、この秋にでも現行の大麻取締法を改正して「大麻使用」を処罰する条文を新設するという。

「戦略」の基本構想は、違法薬物に手を出す者は、成年であろうと未成年であろうと、厳罰に処して二度と大麻に手を出さないように懲らしめなければならないという、不寛容主義に基づく懲罰主義そのものである。

薬物やその使用方法について、そのリスクは低いものから生命に危険がある深刻なものまでさまざまだ。しかしどんな薬物であろうと、規制のない環境で製造・販売・消費を許すと、その危険性は必然的に増大し、社会に大きな被害を及ぼす。

大麻取締法の改正について議論した自民党の厚生労働部会
大麻取締法の改正について議論した自民党の厚生労働部会=2023年9、東京・永田町、藤谷和広撮影

大麻合法化(非刑罰化)の主張は、よく誤解されるのだが「無秩序な自由化」、つまり「野放し」を意味しない。リスクのある物質や製品の規制(管理)は、国家の重大な任務である。たとえばアルコールやタバコも合法だが、厳格な国の統制下にあり、それは上手く機能している。一般の医薬品や食品に対する規制も厳しい。大麻をこれと同じ規制のシステムに入れてほしいというのが私の主張である。なぜ、それで不都合なのか。

世界レベルでいえば、かつて大麻は医療的価値のないもっとも危険な薬物とされてきた。それが最近では科学的見地からそのリスクが再評価され、従来の懲罰的対応にも反省がなされている。それなのに、日本はなぜ今更「使用罪」を創設して、この世界の流れに逆らおうとするのか。

東京電力福島第一原発の「処理水」は科学的分析を尽くして安全だと宣言され、太平洋に放出された。大麻についても科学的分析を行なって、厳罰以外の選択肢がないほどそのリスクが高いのかを冷静に判断してほしい。