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大麻解禁、何かと比較される「アルコール」という薬物

World Now 更新日: 公開日:

カナダや米国の各州などで、娯楽用の大麻使用まで合法化する動きが進んでいる。その背景には、娯楽用の大麻使用が違法にもかかわらず広がったうえ「合法とされている薬物に比べて危険が少ないのではないか」という認識が広がってきたことにある。大麻に比べられる合法な薬物。その代表が、アルコールだ。

「ビールを買うには身分証明書がいるのに、マリフアナは闇市場で身分証明書なしで買える」「考えてみてください。ビールに闇市場がありますか」――。

カナダのジャスティン・トルドー首相は、今年10月に始まった娯楽用大麻の合法化の目的を説明するにあたって、繰り返しアルコールを例に持ち出した。

カナダでは、娯楽用大麻の合法化が始まる前でも、人口の4割以上が大麻を経験していた。

そこで、むしろ合法化して規制をかけ、未成年の使用などを防ぐ方向にかじをきった。さらに、犯罪組織などが利益を挙げることを防ぐ狙いもあった。つまり「アルコールと同じようなものと考える」というわけだ。

精神状態に影響を与える物質の中で、麻薬以上に世界に広がり、各国が向き合ってきた薬物がアルコールだ。「最悪の薬物」という見方をする医療関係者も多い。酔ったうえでの事件や事故が多いうえ、脳や内臓に悪影響を与えるからだ。

アルコールがほかの薬物に比べてどれぐらい影響があるかについては、さまざまな議論がある。特に依存については、使っているひとの環境や体質によっても影響が変わる。それでもアルコールの危険性を示す研究は少なくない。たとえばコロンビア大学の研究者らが米国のデータにもとづいて2011年に発表した推計では、アルコールの使用から依存に陥る人の割合は、22.7%。タバコは67.5%、大麻は8.9%だった。

麻薬と同じように、飲酒を犯罪としている国もある。おもにイスラム圏の諸国、サウジアラビアなどだ。

米国では1920年代、禁酒法のもとで、飲酒を取り締まった歴史もある。しかし犯罪組織が酒の密売で勢力を伸ばす結果を招いた。さらに酒税収入への期待もあり、10年余りで再び解禁された。

とはいえ、米国では現在でも、ほとんどの州で酒類の購入にあたって身分証明書の提示を求められるし、公園やビーチ、路上など公共の場所での飲酒も禁止されている。

世界保健機関(WHO)によると、アルコールが原因で亡くなった人は、2016年に世界で約300万人。全死因の5.3%を占める。うち3割は交通事故やけがが原因で、このほか胃などの消化器、心臓などの循環器の病気がそれぞれ2割ずつを占める。アルコール中毒で亡くなった人は、約15万人いた。

アルコールによる障害を抱える人は、推計で2億8300万人と15歳以上の人口の5%ほど。その半数(2.6%)が、最も深刻な障害である依存とみられている。

依存者の割合が多いのは、ベラルーシ(11%)、ラトビア(10.4%)、ハンガリー(9.4%)、ロシア(9.3%)、そして米国(7.7%)など。地域的にみると、南北アメリカが4.1%、欧州が3.7%と続き、最低は中東の0.4%。日本は1%ほどで、世界平均の半分以下だ。

飲酒に寛容と言われる日本だが、厚生労働省研究班の2013年の調査の報告によると、アルコール依存に陥った経験のある人は推計で約107万人。調査時点で依存の状態にあるとみられる人も、57万人にのぼったという。

国際的に見て依存者の割合が少ない理由のひとつは、もともとアルコールを受けつけない人が4割程度いるとみられることだ。ただ、それを踏まえても国際的に低いレベルにあるのは、女性が問題が出るほど飲むことが少ないからという。

一方で研究班の報告書は、日本では1回に大量の酒を飲む飲み方が多いことも指摘。さらに医療機関を受診するひとの少なさを挙げ、健康診断などをきっかけに、指導を進めるべきだとしている。