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英難破船の真実は スコセッシ、ディカプリオのコンビで発刊前に映画化決定の話題作

Bestsellers 世界の書店から 更新日: 公開日:
『The Wager』=関口聡撮影

無人島で軍律崩壊、殺人も起きる

ニューヨーク・タイムズ紙が毎週発表するベストセラーリストにはロングセラーがよく入る。ベスト10に5冊以上ということも珍しくない。

今回のノンフィクション部門にも、すでに邦訳が出ている『身体はトラウマを記録する』(米国での発刊は2014年)、『植物と叡智の守り人』(同2013年)などがランクインしている。政治家の著作や著名人の回想録などは、発売当初にリスト上位に入っても1カ月もすれば消えていくことが多い。ロングセラーは、綿密なリサーチや研究に基づいた著者の洞察や見解が評価されているのだろう。

今回紹介するのは前作『花殺し月の殺人』(同2017年)とともにランクインしたデイヴィッド・グランの新作『The Wager』。マーティン・スコセッシ監督とレオナルド・ディカプリオのコンビで前作が映画化されたばかりだが、こちらも同じコンビでの映画化が発刊前に決まって注目を集めていた。

本作の舞台は18世紀。チリの最南端沖で遭難した英国の戦艦ウェイジャー号(本書のタイトルとなる)にまつわる謎に迫るノンフィクションだ。

1740年、英船団の一隻として祖国を出航したウェイジャー号は約8カ月後、財宝を積んだスペインのガレオン船を追跡中、パタゴニア沖の嵐で座礁した。

出航時250人ほどいた乗組員のうち100人以上がけがやチフス、当時は原因不明だった壊血病、そして飢えによって既に命を落としていた。難破船から逃れた145人の生存者は荒涼とした無人島に数カ月間、取り残された。

厳しい寒さと飢えの中、食物の奪い合いが始まる。船長は海軍の厳格な規則や罰で崩壊を防げると信じていたようだが、計画通りにはいかなかった。男らは互いに敵対し合い、不毛の荒野の支配権をめぐる派閥争いの間に殺人も起きた。乗組員たちは無政府状態に陥っていった。

1742年1月、ボロボロの船がブラジルの海岸に漂着した。ウェイジャー号の残骸を寄せ集めて作った船で、生存者30人が乗っていた。彼らは過酷な長旅の末に生還したと説明し、英雄として迎えられた。

6カ月後、別の船がチリに漂着する。漂流してきたのはウェイジャー号の船長ら3人で、ブラジルに上陸した男たちについて「英雄ではなく、反逆者だ」と語った。

告発飛び交う軍法会議、帝国主義を問う著者

生還者たちはスペインで数年拘束された後、英国に送還される。

島での出来事について両者の見解はまったく異なり、互いに相手を反逆罪で告発した。裏切りと殺人の告発が飛び交うなか、軍法会議が開かれる。説得力ある話をしなければ反逆罪で絞首刑だ。軍法会議は帝国の理念を問うものでもあった。生還者たちは虚栄心や自己保身の入り混じった、それぞれの真実を語り始める。

生還者たちの記録は当時ルソーらの哲学者に、後には自然科学者ダーウィンや『白鯨』の著者メルヴィルなどにも影響を与えた。しかし、300年近く経ち、世間の記憶からはほとんど消えていた。

著者は記録集、手紙、日誌、軍法会議での証言、提督や政府の記録など、膨大な資料をもとに、当時の状況を生き生きと再現していく。綿密な調査には驚かされる。アウトドアが苦手にもかかわらず船が座礁した島まで船旅をし、周囲の厳しい自然やウェイジャー号の残骸も見てきたという。

船の難破とその後の出来事は単なる冒険物語ではなく、欧州の帝国主義についての物語でもある。歴史がどのように構築され、誰がそれを書き、何がゆがめられ、何が省かれるのか。著者は読者に事実を突きつける。何が真実だったのか。結論は読者に委ねられている。

米国のベストセラー(eブックを含むノンフィクション部門)

827日付The New York Times紙より
『 』内の書名は邦題(出版社)

American Prometheus 『オッペンハイマー 「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇(上・下)』(PHP研究所)
Kai Bird and Martin J. Sherwin カイ・バード&マーティン・シャーウィン
世界初の原子爆弾を開発した理論物理学者ロバート・オッペンハイマーの伝記。

Killers of the Flower Moon 『花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』 (早川書房) 
David Grann デイヴィッド・グラン
1920年代に米オクラホマ州で起きた、先住民を狙った殺人事件の物語。

 Outlive
Peter Attia with Bill Gifford ピーター・アティア&ビル・ギフォード
老化と長寿に関する最近の科学的研究を紹介。革新的な健康ツールを提供する。

 The Wager
David Grann デイヴィッド・グラン
18世紀中頃、英国とスペインが海上の覇権を争う中で難破した英軍艦生存者たちの物語。

The Body Keeps the Score 『身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法』(紀伊国屋書店)
Bessel van der Kolk ベッセル・ヴァン・デア・コーク
トラウマによる脳の改変の仕組みを解明し、回復のための様々な治療法を紹介。

I’m Glad My Mom Died
Jennette McCurdy ジェネット・マッカーディ
元女優で映画監督の著者が、摂食障害と母親との困難な関係を振り返る。

Everything I Know About Love
Dolly Alderton ドリー・アルダートン
人気テレビシリーズの元となったエピソードや見解を、英国人ジャーナリストが語る。

Braiding Sweetgrass 『植物と叡智の守り人』(築地書館)
Robin Wall Kimmerer ロビン・ウォール・キマラー
米先住民の植物学者による動植物への感謝と自然と人間との関係性への洞察。

The In-Between
Hadley Vlahos ハドリー・ヴラホス
ホスピス看護師が、終末期ケアをめぐる社会の考え方に疑問を投げかける。

10 Beyond The Story 『BEYOND THE STORY ビヨンド・ザ・ストーリー―10-YEAR RECORD OF BTS―』(新潮社)
BTS and Myeongseok Kang カン・ミョンソク、BTS
デビュー10周年を迎えたK-POPグループのオーラル・ヒストリー。