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女子校は時代に逆行?勉強に集中できて才能開花?女子校をめぐるドイツの賛否の議論

ニッポンあれやこれや ~“日独ハーフ”サンドラの視点~ 更新日: 公開日:
写真はイメージです
写真はイメージです=gettyimages

先日、日本で女子大が減っていることが取り上げられました

報道によると、ピーク時の1998年には98校あった女子大が、現在は国公私立合わせて73校に減りました。時代の変化とともに、人文系が中心の女子大ではなく、就職につながりやすい学部がある共学の大学を受験する女子学生が増えたとのことです。

ドイツで再評価されている女子校

 ドイツに日本でいう女子大はありませんが、大学につながる教育機関であるギムナジウム(大学進学を希望する子供たちが通う8年制の学校)には、近年数が減ってきているものの、女子校はあります。20225月の時点で、ドイツ全土の女子校の数は120校です。

かつて女子校というと「カトリック」のイメージが強くありました。そのため、教会離れが進んでいる今のドイツでは女子校を称賛すると、けげんな顔をされることがあります。その一方で、女子校を見直す声もあるのです。

南ドイツ新聞にインタビューされたある女子校の生徒は「ここでは、女の子として見られることはない。性別が関係ないのが女子校のよいところ」と話しています。「見られる側の性」という立場から解放された空間での居心地のよさについて語る女子生徒は多いのです。

写真はイメージです
写真はイメージです=gettyimages

メディアでもたびたび取り上げられている私立のカトリック系女子校であるドイツ南部フライブルクのSt. Ursula Gymnasiumでは、サッカーをする生徒、地元の企業とフライブルク市が連携して行っているエンジニア・アカデミーに参加する生徒、ワークショップでソーラ―カーを作る生徒、数学コンテストで賞を受賞した生徒、そして学校の楽団でドラムをたたく生徒などがいます。

近年、ドイツで女子校が見直されてきている背景には、多くの人が男女平等に賛成しつつも、実際の活動分野や職業の選択において、完全に男女平等が達成されているわけではないという「現実」と「理想」の間のギャップがあります。

男女平等がうたわれている今、「女性のドラマーがいること」は「当たり前」であるはずが、実際にはドイツでは男性のドラマーのほうが今も多いのです。

つまり男性と女性が両方いる場では、「男性が従来の分野で活躍するのが当たり前」という雰囲気になりやすく、そういった中で「女性がドラマーの座につくこと」自体が難しいのです。

これはドラムに限った話ではなく、ドイツの共学校では、物理の授業で実験をする際、男子生徒が実験の主導権を握り、結果として女子生徒が実験を観察する側にまわってしまうケースの多いことが報告されています。

女子だけの環境は「非現実的」という指摘

女子校のギムナジウムの生徒から「男子がいないほうが、好きな分野に打ち込みやすい」という声があると同時に、教員からも「共学の学校よりも、女子校のほうが、授業中の問題行動が少ない」という意見が聞かれるなど、近年女子校の利点にスポットが当たっています。 

写真はイメージです
写真はイメージです=gettyimages

その一方で、懸念の声もあります。

前述のSt. Ursula Gymnasiumで長年校長を務めていた男性は、南ドイツ新聞のインタビューで「男女別学は子供たちの人格形成において大きなチャンス」と述べる一方で「女子校は、気を付けないと、外の世界を知らない孤島のようになりやすい。在学中だけでなく、学校を卒業した後にも、自信が持てるようにすることが課題だ」と話しました。

ドイツでは女子校に反対する意見として「大人の社会では、今の時代、男女が完全に分かれた状態で仕事をすることが一般的ではなくなってきているのだから、女子校は時代に逆行する」という意見を聞きます。

女子校にどんな利点があろうとも、社会に出た後、「女子校のような世界」に身を置くことは現実的ではないことから、思春期の時期を「女性だけの世界」で過ごすよりも、最初から共学の場に身を置き、社会全体で「全員が才能を発揮できるよう目指す」べきだという声も強いのです。

「女子校では才能を発揮する生徒が多い」という結果を別の視点から分析することが必要だという声もあります。

ドイツの教育学者のJürgen Budde氏は「ドイツの女子校は私立であることが多い。よって、女子校を選ぶ家庭というのは、比較的裕福で、(学歴や教養といった)文化資本を重視しているため、子供にどういった教育を受けさせるかを吟味する傾向にある」と語っています

つまり、単に女子校だから才能を開花させることができるということではなく、その背景に「教育に力を入れる家庭環境がある」ということです。

両親の反対でかなわなかった女子校進学

筆者はドイツ南部ミュンヘンで小学校4年生だったころ、女子校のギムナジウムに進学することを希望しましたが、両親に反対されました。 

両親いわく「ギムナジウムには9年間通うのだから(現在は8年間)、今は同級生が女子だけでも良いと思っていても、思春期になったら異性に興味を持つかもしれない。そんな時に、学校に同年代の男の子がおらず、身近にいる唯一の異性が"50代のラテン語の男性教師"だというのは不自然。10代なのにラテン語の先生が恋愛対象になるのは困る」とのことでした。

筆者は共学校に進んだせいか、ラテン語の男性教師が恋愛対象になることはありませんでした。でも思い返してみると、両親の考え方も極端だったかもしれません。女子校だからといって、若い女子生徒が全員、男性の先生に興味を持つわけではありません。ただ、筆者自身は共学校に通ったことで同年代の男の子を間近で見ることができ、良くも悪くも現実を知ることができたのは良かったと感じています。

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