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暖房もPCもないへき地校から9割が大学進学 その大半は女子生徒

ニューヨークタイムズ 世界の話題
アフガニスタン・バーミヤン州のヤカウラン郡にあるルスタム校から2019年5月19日、帰宅する女子生徒たち=Jim Huylebroek/©2019 The New York Times。

少女たちは、朝7時ごろから姿を見せ始めた。その数は増え、遠くから見ると、荒れた褐色の山腹を細く青い線が曲がりくねって動いているようだった。みんなほこりっぽい道を歩いて、谷底の小さな学校を目指していた。

淡い青の制服に、白いヘッドスカーフ。7歳から18歳までの少女の多くは、登校するのに1時間以上も歩いてきた。別グループで着いた少年たちは、人数がもっと少なく、制服姿はほとんどなかった。

7時45分に、朝礼が始まった。

アフガニスタンの中央高地、バーミヤン州ヤカウラン郡のへき地にあるルスタム校。1年生から12年生までの一貫校に、女子330人と男子146人が在籍している。全国平均の女子の就学率が3分の1であることを考えると、驚くべき数字だ。

朝礼で、校長のモハマド・サディク・ナシリ(49)は、いつものように生徒を督励した。

「今年は例年以上に大学進学が難しくなりそうだ。だから、これまで以上に頑張るように」

ところが、学校は、およそ大学への夢を育む環境にあるとはいいがたい。

石造りの教室が七つ。足らないので、大きなテントが六つ張ってある。それでも、生徒を一度に収容することはできず、午前と午後の4時間ずつの2部制になっている。

電気も暖房もない。使うことができるパソコンもコピー機もない。一時はあった外国からの援助も届かなくなり、教材の多くは先生が手書きで作っている。自分が持っている本は、生徒より少ないという先生もいた。

コンピューターについて教科書で学ぶ生徒=2019年5月19日、Jim Huylebroek/©2019 The New York Times。学校には、コンピューターが1台もない

校長によると、両親ともに読み書きができるのは、生徒の5%に過ぎない。ほとんどの家庭は零細農家だ。

それでも、2017年卒業の生徒65人のうち60人(92%)が、国内の公立大学に進んだ。その3分の2が女子だった。数年前には、大学進学率が97%だったこともある。

他の国内の学校と違って、ここでは共学制をとっている。「男女の頭に違いはないから」と校長は話す。

「男の子にも女の子にも、『男女で区別はしない。大学は共学なので、今から互いに相手を尊重することを学ぶように』といっている」

春の学期も終わりに近づいたある日。バダン・ジョア(28)は、テントからあふれるほどの4年生を相手に算数を教えていた。12人の先生のうち、5人いる女性の一人だ。

大きなボール紙を黒く塗り、黒板代わりにしていた。簡単な数式が書いてある。生徒のほとんどは女子で、「好きな学科は」と尋ねると、「算数」という大合唱が返ってきた。

これは、驚くようなことでもなんでもない。大学入試の設問の4割は数学で、どの教科よりも比率が高い。当然、重点科目になり、ルスタム校では女子の成績が秀でている。

11年生の数学で成績が最もよいのは、シャールバノ・ハキミ(17)。コンピューターの学習クラスでも成績は一番で、この日はウィンドウズについて教科書で学んでいた。生徒60人のうち、自宅にパソコンがあるのは1人だけ。「世界で最も欲しいものは、ノートパソコン」とハキミはいう。

自宅で両親と幼い弟、めいとくつろぐシャールバノ・ハキミ(17)=左端=2019年5月19日、Jim Huylebroek/©2019 The New York Times。数学とコンピューターの各教科で、11年生では一番の成績を修めている。医者になるのが夢だ

今は反政府勢力であるイスラム主義組織のタリバーンがこの国を支配していたときは、女子の教育は禁じられていた。女性は家庭に閉じ込められ、当地のようなバーミヤン州の片田舎ではそれが顕著だった。

その反動として、今の教育熱がある。とくに、女子がそれを象徴していると先生たちは語る。先の算数の先生ジョアは、11歳になって初めて学校に行った。タリバーン政権が倒れて可能になった。それまでは、学校といえば、縫いもの教室のことだった。

読み書きもできず、「ゼロからの出発だった」とジョアは振り返る。「だから、タリバーンが何をしたかを説明し、今のあなたたちにはチャンスがあるのだから、それをつかんでほしいと訴えている。私の話だけではない。みんな、家でも母親や叔母からそう聞かされている」

ルスタム校の周辺に、タリバーンはもういない。治安の乱れも、さほどない。他の地域では、女の子を通学させることに家族はまだためらいがちだ。人里離れたところを長時間かけての通学となると、なおさら消極的になる。

ところが、この学校では女子の意欲が極めて高い。「正直いって、女の子の方が男の子より優秀で真剣だ」と校長も認めざるをえない。「教育のある人間を、奴隷のようにしてしまうことはできないとみんな分かっているようだ」

1年生の屋外授業を見守るルスタム校の校長モハマド・サディク・ナシリ(49歳=右端)=2019年5月19日、Jim Huylebroek/©2019 The New York Times

イスラム学を除いて、どの教科も成績が一番なのは女子だ。

もうすぐ18歳のアミーナは、全校一の成績をあげている。母親は読み書きができないものの、父親は知識人という点で恵まれている。

8人きょうだいの中で、学校を卒業するのは初めてになる。大学受験に備えるため、首都カブールのマウードアカデミーに進むことを希望している。ここで最近、自爆テロがあり、学生40人が犠牲になったのを承知してのことだ。

好きな教科は数学で、将来は医者になりたいという。

算数と数学を教えるバダン・ジョア(28)=2019年5月19日、Jim Huylebroek/©2019 The New York Times。自分自身が学校に通えるようになったのは、タリバーンのイスラム政権が倒れた11歳のときで、読み書きから覚えねばならなかった

先のハキミの夢も、医者になることだ。母親が視覚障害に苦しみ、65歳の父親の耳がほとんど聞こえなくなっていることも大きい。両親とも、読み書きはできない。

土壁の家の近くには、かんがい用の水路がある。水車が小さな発電機を回し、夜でも勉強するのに必要な電気をかろうじて確保している。

「自分は学のない農場労働者に過ぎない」と父親のグラム・フセインは話す。「同じ人生を送ってほしくはない」という11人の子供のうち、息子1人と娘2人がすでに大学に進んでいる。 「とても誇りに思っている」とハキミの母親ゼナトがいい添えた。

その家族のあり方は、なぜ学校に通う男子が少ないかを示してもいる。9歳の息子アリは家にいて両親の手伝いをしている。12歳の息子レザは、畑仕事に出ている。「アリはすごく学校に行きたがっているので、もしかしたら、来年はかなえてあげられるかも」とゼナトはいう。娘たちは、みんな学校に通っている。

生徒があふれ出るほどのテント教室では、教科書が共有されていた=2019年5月19日、Jim Huylebroek/©2019 The New York Times

ある日、校長のナシリは、朝礼で他の女子の後ろに隠れるようにしているフリバ(13)を見つけた。制服を着ていなかった。家が貧しく、買えないのだ。

校長は、最寄りの市場で見本になっていた青い綿布を買った。算数の先生のジョアが、それを長めのゆったりとした上着に縫い合わせた。タリバーン時代に身につけたことが、ここでは役に立った。

ナシリは、布代を借金して工面した。月給は、200ドルにも満たない。

この6年間、校長を務めながら、妻ロヤ(45)とともに4人の娘と2人の息子を育ててきた。結婚したのはタリバーン時代。妻には、自分が読み書きを教えた。

「夫婦で話し合って、ロヤには学校に行ってもらうことにした。母親に学があった方が、子供にもよい」

長女は4年前、母親より一足先に学校を卒業した。ロヤが卒業したのは、今年になって。来年は、大学入試に挑むことにしている、とナシリは誇らしげだった。「子供を6人育て、今度は自分を高める番だ」

ルスタム校と向き合う山の斜面を数百フィート(1フィート=30センチ強)上がったところでは、羊の群れが草を食(は)んでいた。岩に覆われたような山肌には、数人の羊飼いの姿があった。その一人、ニークバフト(13)と名乗る少女は、制服に似た青い服を着ていた。

ルスタム校と向き合う山の斜面で羊の世話をするニークバフト(13)=2019年5月19日、Jim Huylebroek/©2019 The New York Times。この日は家には誰もおらず、学校を休んで羊飼いをしていたが、手にはペンとパシュトゥー語(国語)の問題集があった

服はほこりにまみれていたが、手にはペンと公用語の一つ、パシュトゥー語の問題集があった。「学校が好きだけれど、今日は家には誰もいないので、家畜の世話をしているの」

パシュトゥー語は必修だが、あまり好きではない。この子も、「好きなのは算数」だった。(抄訳)

(Rod Nordland)©2019 The New York Times

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