1. HOME
  2. World Now
  3. 眉毛整えもブラジャー着用も禁止 理不尽校則、子どもを管理対象とみなす日本の危険性

眉毛整えもブラジャー着用も禁止 理不尽校則、子どもを管理対象とみなす日本の危険性

ニッポンあれやこれや ~“日独ハーフ”サンドラの視点~ 更新日: 公開日:
iStock / Getty Images Plus

先日、福岡県久留米市の公立中学校が「眉毛を整えていた」という理由から女子生徒に対して3日間の別室登校を課したことが発覚し、市議会で「行き過ぎた指導ではないか」と問題になりました。

同じ女子生徒が、ある日ポニーテールをして登校したところ、先生から「はねた髪の毛が後ろの人の目に入る危険がある」と髪形についても注意を受けたといいます。

今春には、都立高校の話ではありますが「新年度から下着の色の指定や頭髪に関する校則が撤廃される」というニュースが話題になったばかりで、筆者は「日本の学校も少しずつ多様になっていくのだな」と思っていましたが、そうとは言い切れないようです。

なぜ日本では長年にわたり理不尽な校則が問題視され、定期的に話題になっているにもかかわらず、全面的な見直しについて一進一退なのでしょうか。

在日外国人らに衝撃 最高裁「頭髪指導に違法性なし」の判断

理不尽な校則は、地域を問わず日本全国で見られます。

大阪ではかつて府立高校に通っていた女性が「地毛の茶髪を黒く染めるよう強く指導されたことが原因で不登校になった」として、大阪府に損害賠償を求める裁判を起こしていました。

一審で、大阪地方裁判所は、女子生徒の机の教室からの撤去、座席表や名簿からの氏名の削除といった学校側の対応は許されないとし、府に対して慰謝料など30万円あまりの支払いを命じたものの、指導自体に関しては「学校の裁量の範囲内であり、頭髪指導が違法だとは言えない」と判断しています。

二審の大阪高等裁判所も同じ判断であったため、女性側は上告をしていましたが、最高裁(菅野博之裁判長)は今年615日付で「学校側の黒染め校則や指導に違法性はない」とし、元生徒側の上告を退けました

ある都立高校の地毛証明書。「地毛が明るい」「天然パーマ」などを届け出る=2021年2月、朝日新聞社

この高校はかつて、原告の女子生徒の代理人弁護士に対して「たとえ金髪の外国人留学生でも規則で黒染めさせることになる」と説明しており、日本に住む外国人や外国にルーツのある人から「あまりにも差別的」と非難の声が上がっていました。

今回、最高裁が学校の黒染め指導について違法性はないと判断したことで、司法までもが多様性に否定的だということが明らかになり在日外国人の間で動揺が広がっています。

 「小学生らしさ」「中学生らしさ」とは?

昨年、ある小学校の「体操着の下に(ブラジャーも含む)肌着を着てはいけない」というルールが理不尽だとメディアで話題になりました。

小学生が肌着をつけることに反対する理由として「運動時の皮膚の鍛錬」「汗でぬれた下着を着たままだと風邪をひく」という声があります。

しかし成人した女性に対して、たとえその女性が身体を動かす必要のある仕事に就き、汗をかくことが想定されていても、「風邪をひくからブラジャーをつけるのは禁止」といったルールが課されることはありません。

もしそのようなルールがあったら、セクハラだと言われてしまうことでしょう。

では、なぜ大人の女性に対して課さないルールを、女児に課しているのでしょうか。そこには「小学生の女の子なら、身体がそこまで発育していないはず」「小学生ならブラジャーなど必要ではないはず」といった、ルールを作る大人側の「子供とはこうあるべきだ」という思い込みがあるとみてよいでしょう。

小学生であっても胸の発育した子はいますし、ブラジャーが必要な子もいます。そういったことを考慮せずに「子供にはこうあってほしい」「子供には子供らしくあってほしい」「だから子供にブラジャーはそぐわない」というような大人側の願望がこのルールからは見て取れるのです。ルールを作った側に「間違った前提」があったといえるでしょう。

眉毛に関する校則についても、「眉毛を整えるのは中学生らしくない」という考えに基づいてルールを作ったのだと想像します。しかし、相手に「らしさ」を求めることで幸せになる人はいません。

「女性だから女性らしくふるまうべき」「男性だから男性らしくふるまうべき」…そういったことが近年「時代遅れ」だと見なされ見直しが行われつつあるのに、なぜ学校現場では子供に対して昔ながらの「小学生らしさ」「中学生らしさ」を求め続けるのでしょうか。

校則がないドイツの学校

ドイツでは外国籍の子供にも就学の義務があるなど、就学に関する規定が厳しく、病気を除いて「学校に通わない」という選択肢はありません。

不登校になった子供についても、学校が医師からの診断書を求めるなど、大変厳しいものとなっています。

その一方で、ドイツの学校には日本の学校でいう「校則」は存在しません。基本的に髪形も服装も自由です。

筆者が10代のころ、ひざに穴が開いているジーンズがはやっており、多くの同級生が穴だらけのジーンズで授業を受けていました。アクセサリーも自由で、同級生の耳元には大ぶりのイヤリングが揺れていました。今思い返してみても、生徒が自由な格好をしていたことが勉強に支障をきたしていたとは思いません。

前述のように、ドイツでは「学校に通うこと」は重視されますが、「学校でどんな格好をしているか」については基本的に自由です。

教育関係者も含むドイツの大人の中に「子供といえども、人間には好きな格好をする自由がある」という共通認識があるからです。日本では一部の教育関係者の「子供は管理をしなければいけないもの」という認識が目立ちます。

「自由を奪う」以外にもある 校則の重大な弊害

校則には「子供の自由が奪われる」ということ以外にも弊害があると筆者は考えます。

たとえばブラジャーの色を規定する校則があると、先生はそれに違反した生徒を指導するわけです。長年の学校生活のなかで「下着などの女性のもっともパーソナルなことについて、他人が言及しても仕方ない」と子供たちに思わせてしまうことは大きな問題です。

世界経済フォーラム(WEF)による今年の「男女格差(ジェンダーギャップ)報告書」で、日本は146カ国中116位でした。

日本で女性の地位が低いのは明らかです。そんな状況を変えるためには、生徒(特に女子生徒)が将来社会に出たとき積極的に様々なことに取り組めるように学校で子供に自信をつけさせることが大事であり、細かい校則で生徒を縛り付けるのは根本的に間違っていると言わざるを得ません。