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始まりは素朴な疑問 世界に伝わった「#KuToo」石川優実の問いかけ

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かつてアルバイトをしていた葬儀場で、ハイヒールをはかされて足を痛め、「なんで足怪我しながら仕事しなきゃいけないんだろう、男の人はぺたんこぐつなのに」とツイートしたのが、#KuTooを始めたきっかけです。職場では男女平等なのに、女性と男性で義務づけられる服装が違うのはおかしい。それが素朴な疑問でした。だから、女性が好んでハイヒールを履くのは否定しません。

同じような問題意識を持つ女性が多かったようで、19年1月にツイートしたら大きな反響がありました。半年で1万8000以上の署名が集まり、ジェンダーハラスメントなので法律や規制で対応してほしいという要望書とともに厚生労働省に提出。法規制には時間がかかりそうなので、まずは企業(雇用者)に向けたパワハラに関する小冊子に、このような事例が「パワハラ」に当たると記載してもらうことを目指しています。

私が怒りを込めて声を上げたことに「怒ってもいいんだと気づいた。ありがとうございます」という女性からの反応もありました。運動を通じて、非正規として働く多くの若者たちが労働者の権利を知らず、何が問題か分かっていない実態も見えてきました。どんな人も一人残らずよくなったと思える成果を目指さないと意味がないと思っています。

職場では謎のビジネスマナーがたくさんあります。男性がネクタイや革靴を強制されている場合があるなら、変わっていくといい。男性も困っているなら声を上げてほしい。「こうしなければ」ではなく「こうしたいからこうする」が当たり前の世の中にしていきたい、そう考えています。

署名集めを手伝ってくれた人やパンプス着用で大変な思いをした女性、実際に女性の靴をつくっている人など男女12人で「#KuToo Wave of Action」というチームも立ち上げました。正直この1年はバッシングも1人で受けて精神的にもきつかったのですが、チームができてすごく助かっています。みんなで話し合っていろいろな計画が動きだそうとしています。

■世界が伝えた#KuToo

アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)のリッチ・素子・東京支局長は、昨年12月10日付の東京電で「ハイヒールの専制と闘う反逆者」の見出しで石川優実さんの活動をインタビューを添えて報じました。女性社員にメガネの着用を禁じたり、ストッキングの着用を求めたりする会社があることや、男性もスーツ着用などのドレスコードを強いられることもある、と日本の状況を紹介しています。記事の邦訳版を以下にお届けします。

ニューヨーク・タイムズ(NYT)東京支局長のリッチ・素子さん=NYT提供

日本人のモデル・女優で、非正規労働者でもある石川優実さんが、雇用主が女性にハイヒール着用を命じることを終わらせるよう、ソーシャルメディアで呼びかけを始めたとき、彼女のツイートは約3万回シェアされた。「なんで足怪我しながら仕事しなきゃいけないんだろう、男の人はぺたんこぐつなのに」。そんな職場のルールにある、露骨な性差別を強調したツイートをしたのは、(2019年)1月のことだ。

ソーシャルメディアで共感が広がり、彼女は1万8000の署名を集め、雇用主が女性にヒール着用を強制することを禁止する法律の制定を求めて、要望書を厚生労働省に提出した。32歳の石川さんは、日本の#KuToo運動(「靴」と「苦痛」の語呂合わせ)の顔になった。

働く女性が日本の雇用主に求められることがある服装のルールは、ハイヒールの着用だけではない。接客をする女性に眼鏡の使用を禁じる会社もあれば、ストッキングの着用や化粧を求める会社もある。男性もまた、スーツの着用といったドレスコードの対象になりうる。

石川さんの要望書に対し、厚生労働省はこの問題の認識を高める必要があるとしたが、その方法については言及していない。一方でハッシュタグ「#KuToo」が急速に拡散すると、携帯電話大手のソフトバンクとNTTドコモはドレスコードを緩め、ハイヒールのない靴の着用を女性に認めるようになった。ただ、ドコモは#KuToo運動とは無関係の変更だ、としている。

石川さんは、ハイヒールを彼女のトレードマークになるような問題にするつもりはなかったというが、その話題で一番注目されたことに驚いてはいない。「なぜそこまで大事なことか、理解するのはとても簡単です」と彼女は言った。

私たちは運動を始めた石川さんについてもっと知ろうとコンタクトを取った。彼女が東京でのインタビューの際に履いてきたのは、お察しの通り、スニーカーだった。やりとりは以下の通り。

――子どものころ、学校の制服のような、厳格な性別によるドレスコードに抵抗しましたか。

小学校では、スカートをはくことが本当に好きではありませんでした。男の子と同じような服を着て、同じような話し方をすることができればと思っていました。私はとても乱暴な話し方をしたので、よく両親にしかられました。女の子らしくないことだと思われていたのです。男の子になりたかったのではありません。ただ、「どうして男の子と同じような話し方ができないのだろう」とずっと思っていました。

中学校では校則に言いたいことがたくさんありました。冬にスカーフを巻くことは禁止で、生徒はたった1種類のコートかジャケットを着ないといけませんでした。冬に女子がタイツをはくことも禁止でしたし、三つ編みもダメでした。でもその時は先生たちのことがとても怖く、対決しようとは思いませんでした。高校入試の時に、中学校の評価を見て、従わない生徒だと思われたくありませんでした。

――同級生が同じように感じているかどうか、話をしましたか。一緒に声を上げたいと思ったことはありませんか。

中学校から高校まで、私たちは自分の意見を言うべきではないという感覚をずっと持っていました。私は、女性に対する暗黙の圧力のようなものを感じていました。女性は男性ほど声を上げる存在ではなく、むしろ男性を尊重することを期待されています。さまざまなメディアやテレビ番組を通じて、そうしたメッセージが伝えられました。

――あなたはモデルとして働いています。日本のモデル業の文化はどうですか。

ビデオや雑誌の水着モデルとして初めて働いた時、女性モデルは十分に尊重されていないという印象を受けました。編集者やディレクターは私たちの意見にまったく耳を傾けませんでした。身体的な暴力はありませんでしたが、エージェントや編集者は、モデルたちが泣くまで、やりたがらないことを強制したでしょう。私が合意しなかった画像も結局出版されました。彼らは私の希望以上に体が露出する水着を着させ、その写真を掲載しました。

当時は、モデルとしてはやむを得ないことなのだと思っていました。周りにいた大人たちは「これをやらないと売れない」と言っていました。ほかの女性モデルたちも「それを受け入れないといけない」と言ったでしょう。しかし、2017年の(セクハラの被害を訴える)#MeToo運動の後、これは犯罪になりうることで、こうした要求に憤ることは極めて当然なのだ、ということに気付きました。

――あなたはハイヒール着用義務の禁止を唱えることだけが闘う理由ではない、と言っています。日本の女性にとって重要だと考える問題は、ほかにどんなものがありますか。

女性が性的なことに進歩的だったり強引だったりすると批判されます。私はそうした姿勢を変えたいと思います。例えば、ヌードのポーズをとると批判され、やり込めようとする人もいます(この年、石川さんはフェミニストのエッセー・写真集でヌードを披露した)。

時に女性が性的な話題について話すことはタブーであり、性犯罪につながる恐れもあります。誰とでも寝る人だと思われるでしょう。女性は誰とセックスをしたいか決めることができないといけません。ヌードモデルだから、セクハラや性暴力は我慢しないといけないとよく言われます。セクシーな服装をしているから、痴漢やセクハラの被害を受けるのは当然だ、と言っているようなものです。それは間違っています。(構成・太田航)