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自称すれば女性?トランスジェンダーへの誤解 マジョリティーは想像で語らないで

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車道のデモの様子。先頭は「TRANS PRIDE」の横断幕。水色、ピンク、白のストライプの旗を掲げている参加者。
トランスジェンダーの人権を訴えるイベント「第2回東京トランスマーチ」で、街頭を行進する参加者=2022年11月12日、東京都新宿区、瀬戸口翼撮影

トランス女性の権利と女性の安全が対立?

近頃ネットやSNSを中心にトランスジェンダー、特にトランス女性に対してのヘイトスピーチが溢れている。「トランスジェンダーの権利を認めると女性の安全が脅かされる」という主張で、具体的には「女子トイレや女湯に、トランス女性だと名乗る男性が入ってきて、性犯罪が増える」「男性が『心は女だ』と言えば女湯に入れるようになり、これを拒むと差別になるらしい」というものだ。

「性犯罪が増える」と聞けば瞬間的に「それはダメだ」と思うし、女湯に「男性」が入ってくるとなると一瞬「怖い」とも思う。まるで、トランス女性の権利を認めると、女性の安全が脅かされるような議論だが、ほんとうにそうなるのだろうか。

「性自認の『自認』という言葉にひっぱられがちですが、そう自称しただけでその性別扱いになるというわけではありません。大多数の人は、現に生活しているトランス女性の経験や現実を知らないので、そう誤解するのだと思います」

西田さんによると、統計上『LGBTQ』と言われる性的マイノリティーは人口の3~8%。なかでもトランスジェンダーは多く見積もっても0.7%程度と言われているという。圧倒的なマイノリティーなのだ。

では、そもそもトランスジェンダーとはどういう人を指す言葉なのか。

「一般的には『出生時に割り当てられた性別と性自認が違う人』や『出生時に割り当てられたとは異なる性別で生きている人』という説明がありますが、それはつまり、『割り当てられた性別の集団側 には帰属感覚を抱けない人』と言うことができます。トランスジェンダーは、そうした人を説明する言葉なのです」

西田さんは特に「帰属意識」を強調する。「それは、アイデンティティーの確立に関わることなんです」。

人は出生時に外性器で「男性/女性」という性別が判定され、それに従って育てる上での性別も「男性」「女性」のどちらかに割り当てられる。そうやって社会的に割り当てられた性別が、本人が実感している性別とずれている人がいる。

「男性」として割り当てられているが、帰属を実感する性別の集団は女性側であり、女性として生きている人、生きようとしている人をトランス女性、逆に「女性」と割り当てられたが男性だという帰属を実感している人はトランス男性だ。また、男女どちらの性別にも帰属意識がもてない「ノンバイナリー」の人もトランスジェンダーのなかに入るという。

トランスジェンダーの対義語は「シスジェンダー」だ。

シスジェンダーは「生まれたときに割り当てられた性別側のままに生きていられる人」で、大多数を占める。例えば筆者のように、割り当てられた性別が「女性」で、自分を「女性」であると思いながら生きてきた。つまり、「割り当てられた性」と「性自認」が一致している「シス(ジェンダー)女性」となる。

自己肯定感を育めない幼少期からの経験

トランスジェンダーの人たちの体験で共通するのは、自分にとっての「自然な振る舞い」を家庭や学校、社会で否定されながら成長することだという。

「自分は『女の子』たちに共感し、同調する気持ちがあるから、女の子の一員として遊ぶ。『男の子』として素直に何かを選んだり行動する。でも周りの家族や学校からはことごとく逆の性別の振る舞いを要求されます」

「幼少期からあらゆる場面で自分の好きなことや振る舞いを否定されるため、自分はだめな存在だと、自己の性別の在り方に対しスティグマ(否定的な意味付け)を植え付けられる。こうしたことで、安定した自己を確立できない状態におかれるわけです」

西田さんは「このようなトランスジェンダーの人たちの生育過程や経験は、マジョリティーには完全には理解できないもの。ましてやトランスは自ら見えないようにしていることもあって、身近にトランスが『いない』人がほとんどでしょう」。

その結果、マジョリティーであるシスジェンダーの人たち は、トランスの人たちを自分の経験の範囲ないで「理解」した気になってしまうと指摘する。

例えばトランス女性と聞いて「女装した男性」をイメージしてしまうことがそうだ。または「ボーイッシュな女子」が「女の子らしく」と言われて反発するといった経験から、トランスの人たちの「気持ち」を想像してしまうことなどだ。

「『女の子は女の子らしく』『男の子は男の子らしく』という、男性と女性がどのような外見で、どう行動すべきかというジェンダー規範への違和感や反発だろうと結論づけられがちです。しかしそれは、当事者が帰属を実感する性別がどちらなのかという問題とは、全く異なる話なんです」

「性別移行」は年単位のプロセス 体を変えることが目的ではない

トランスジェンダーの人たちは第二次性徴を迎えると、自分が帰属意識を持てない性別に変化していく身体への拒否感がさらに大きくなる。

「これを身体違和と言います。幼少期に自分が属していると思っていた集団から引き離され、自分の身体が『違う何か』に変化していくという体験です」

だがこれも、世間一般は「思春期には誰でも変化に戸惑うもの」「よくあること」と矮小化されて語られがちだ。「トランスジェンダー自身も、それをどう表現すれば良いのか分からないのもあって、ついそういう説明で理解されがちなのです」と西田さんは話す。

トランス女性やトランス男性の多くは、出生時に割り当てられた性別で生きてみようと努力するという。

「でも、『これじゃない感』や『生きづらさ』がつきまとう。その一方で、帰属を実感する性別側でいると安定する。こうした経験の積み重ねから、様々な形で『割り当てられた性別』を一致させていきます」。これを「性別移行」という。「社会的にも身体的にも性別を割り当て直そうとするわけです」。

「性別移行」はどのようなプロセスなのか。

「誤解されるんですが、トランス女性なら、性別移行によって『男性から女性に変わる』わけではない。自分の帰属を実感する性別は一貫して『女性』で、変わっていないんです」
「そうではなくて、周囲からの扱われ方と、自分のその帰属を実感する性別を一致させ、素直な自分のまま人生を送るために性別移行をするのです」

性別移行には外見の変化、医療的な性別移行、そして社会的な性別移行という三つの面があり、数年単位の時間をかけて徐々に移行していくものだという。

外見では、トランス女性ならメイクをしたり、女性ものの服を着る、髪を伸ばすなどを通して容姿を変える。シスジェンダーの女性でも、メイクが好きな人もいればそうでない人がいたり、スカートよりパンツを好む人がいたりするなど多様であるように、トランス女性の好みも様々だ。

医療的な性別移行の効果は大きい。トランス女性ならホルモン治療を受けると、髪や肌の質が変わったり、皮下脂肪が付きやすくなったり、外性器が著しく萎縮したりする。トランス男性なら、ヒゲが生えたり、声が低くなったり、筋肉が付きやすくなったり生理が止まったりする。

ホルモン治療には副作用もある。身体に不可逆の変化をもたらし、生殖機能に著しいダメージを与えるので、医師の診断のもと重大な決断が求められるものだ。

だが、治療によって本人が苦しんでいる性別違和がかなり解消されるという。

性器の形を変えるなどの性別適合手術を受ける人もいるが、受けないままの人も多い。

手術を受けるハードルが高いこともあるが、ホルモン治療による身体の変化によって、帰属を実感する性別での社会生活が持続的に安定し、メンタルバランスが大きく改善する人もいるからだ。

誰でも「男女どちらか」にぼんやり判断されて生活

「非当事者は『性器の有無や形』に囚われがちですが、日常的に下着の中を見せて歩くわけではないですよね」(西田さん)

男と女という二つの性別のみで築かれている社会に生きる私たちは、シスであれトランスであれ、誰もが街や電車、トイレなど様々な場所で目に入る人を「見た感じの特徴や印象からそう見える方の性別」と判断(ジェンダリング)したり、されたりしながら生活してる。

「トランスジェンダーの苦しみは、あらゆる場面で、帰属を実感しているのとは違う性別としてジェンダリングされること。髪形や服装を変え、ホルモン治療などの結果、女性あるいは男性として自然にジェンダリングされる場面が増え、日常生活が成り立っていけば、リスクのある手術を受けなくても安定して生きていける人もいるのです」

家族、友人、学校や職場の人間関係を築き直していくことや、名前を変えたり、戸籍の性別(続柄)など自分の情報を変更することとも、性別移行の一側面だ。

日本で戸籍の性別を変更するには、まず2人の医師による確定診断を受けた上で、18歳以上で結婚しておらず、未成年の子どもがいないこと、生殖腺の機能を永続的に欠くこと、外性器の見た目の変更という五つの要件を満たす必要がある(性同一性障害特例法)。

だが世界保健機関(WHO)などは2014年、「手術の強制は人権侵害」との見解を発表し、海外では近年、こうした要件を撤廃する流れになっている。

「繰り返しになりますが、生まれたときに割り当てられていた性別を、帰属を実感する性別に合わせて社会的に割り当て直すことが性別移行です。幼少期から性別違和を抱かされる様々な体験、そして性別移行してゆくなかで心身ともに性別が合致してゆく適合経験、そうした人生を通して様々な経験とともに確立していく自己、そこで語られるものこそが『性自認(ジェンダー・アイデンティティ)』なのです」(西田さん)

このような過程を経て、ようやく自分を社会の中に位置付けることができるようになるという。「性自認は『今から女』というようなものではないことが、分かるのではないでしょうか」。

「トイレ」「女湯」問題のおかしさ

西田さんはそもそも、トランス女性の全員が女子トイレを利用できているわけではない。むしろ、問題なく利用できているのは少数だと指摘する。

「性別移行の途上でホルモン治療を受けているトランス女性でもトイレの利用はできない人が多くいるのに、女装しただけの男性が自由に女子トイレに入ってこれるようになるというのは、飛躍しすぎています」

机の前で記者会見に臨む女性の写真。首から下のバストショット。
経済産業省職員のトランスジェンダー女性が、職場でのトイレの使用制限は違法だと訴えていた裁判で、最高裁は国側の対応を違法と判断した。複数の裁判官が、自認する性別に即して社会生活を送ることは「切実な利益」「重要な法益」と指摘した。=2023年7月11日、東京・霞が関、遠藤隆史撮影

トイレで盗撮などをしているのは「性犯罪者」であり、「トランス女性」ではない。

そして、「男性」が「心が女だ」と言って女子トイレに入ってくることへの恐怖や不安は、トランス女性にとっても同じなのだ。

「トランス女性は『性自認が女』だから女子トイレを使うのではなく、性別移行するなかで女性としてジェンダリングされるようになり、女性の一人として暮らしを確立しているから、帰属する性別側のトイレを使うのはごく自然な選択にすぎないのです。この選択を奪い、問題なく利用してきた施設利用を女性の中で一人だけ禁じられてしまうと、『アウティング』となりますし、安定した自己同一性を保持することも奪ってしまいます。その結果、生活や人生が破壊されてしまうことになるのです」

「まだ性別移行過程にある人、身体的な制約により本人が望むようには性別移行を果たせない人や、ノンバイナリーの人などは、男女どちらも利用できないうえ、安心して利用できる多目的トイレも少ないので、日常的に困難を抱えているのが実情です」

トイレとは違い、公衆浴場における「男女別」の前提は、全裸になった時の外見から判断される性別のことだ。厚生労働省は6月23日、都道府県など宛てに改めて通知を送っている

「説明したようにトランス女性にとっては『男性』とミスジェンダリングされるのは辛いこと。わざわざ裸になる必要がある場所でリスクをとって公衆浴場を利用したいという人がどれだけいるでしょうか」

トランスジェンダーの人々は、すでにこの社会で共に暮らす人たちだ。あなたが知らされてないだけで、女友達や同僚の女性かもしれない。「女性や子どもの安全」 と言うとき、その中には女性として日常生活を営んでいるトランス女性、トランスの女子も含まれているのだ。

「スマホの画面に向かって『トランス女性は女子トイレに入らないで』と書き込めても、女友達や同僚女性に面と向かって『もし貴女がトランス女性だったなら、女子トイレに入らないで』と言えるのでしょうか」

西田さんは「トランスジェンダー」という言葉は「他人を勝手にジャッジするための言葉ではなく、当事者が自分の状態を主体的に語るためのもの」だと言う。

「いま、SNSでは様々な理由を並べて『トランス女性は如何に排除されるべき存在なのか』ばかり語られています。しかし、実際には多くの当事者が幼少期からいじめや性暴力被害にあい、非常に高い割合で登校拒否や不登校、休職を経験しています。自死を考えたことがある人の割合も有意に高く、街なかでは安心して使えるトイレも少ないなど、社会的に排除されているのです」

「そうした主体性を奪われている当事者のほうが圧倒的に多いという現実において、マジョリティの人たちは、抑圧下にいる人たちの経験している日常や現実を知り、どのように包摂し、対等に生きられる社会を作ることができるのかこそが語られるべき問題だと思います」