2021年4月から始まった本コラムも丸2年が経過し、今回でいったんの区切りとさせていただきます。私は、約3年前に外務省から転職し、現在は日系企業でビジネスコンサルタントをしていますが、外交官からビジネスへの世界へ転身しても、やはり語学は最大の武器!という実感は全く変わりません。
近年、スマホなどの翻訳機能が飛躍的に発展し、またコロナ禍での海外とのオンライン会議も増えたことから、ビジネスパーソンの中には、ともすれば自分自身で語学力を高める必要性を感じなくなってきた方もいらっしゃるかもしれません。この4月に入社した新入社員にも、語学の重要性より、やれDX人材だ、やれコンサル能力向上だなどとおっしゃる上司もいるかもしれません。
一方、残念ながら、数字で見ると、日本人の語学力は低下しているようです。
国際語学教育機関「EFエデュケーション・ファースト」(本部・スイス)がまとめた2022年の「英語能力指数」で、日本は英語を母語としない111の国・地域の中で80位だったそうです。2021年度は112の国・地域中78位、2020年度は100の国・地域中55位、2018年は88の国・地域中49位でした。
日本人の語学力、ビジネス本番での交渉力を数字で測ることは必ずしも正しくないと思いますが、私自身、現在、中東でビジネスコンサルタントとして、アラビア語を使って交渉している経験からすると、やはり、ここぞという時の外国人との対面交渉能力、そのツールとしての語学力が、ビジネスの成否を分けるのではないかと思います。誰でも利用できる翻訳機ではなく、自らの意思で発する言語では、相手が人間である限り、その違いに疑いの余地はないでしょう。
たしかに外国語のマスターは簡単ではありませんが、どうか新社会人の皆さんも、安きに流れずに、自分の力で、自分の言語で、ビジネスを獲得してください。
最後に、このコラムでお伝えしてきた外国語習得のポイントをおさらいして、私のコラムの締めとさせていただきます。長きにわたり、私のコラムにお付き合いいただき、ありがとうございました。
【1】英語+αの世界へ行こう(Vol.16より)
私は、大学に入るまで海外経験なし、大学時代もアジアをちょこっと観光した程度でした。そして、24歳で外務省に入ったら、いきなりアラビア語習得を命じられました。英語に加え、アラビア語も学ぶのは本当に大変でしたが、今ではアラビア語をやって本当良かったと思っています。
英語が国際語だから、英語さえできればいいという考え方は、今や「時代遅れ」。ぜひ、ロシア語や中国語、アラビア語など、日本とは価値観が大きく違うと思われる言語をおすすめします。「仕事で使うかどうか」という基準ではなく、「あなたの価値観を広げること」を大事にしてほしいと思います。「世界は本当に広い」。これが私の実感です。そして、それが結果的にはビジネスの、あなたの人間の「幅」を広めることにもつながると思います。
昨年のロシアによるウクライナ侵攻で世界は大きく変わろうとしています。私は、これからは民主主義陣営で主に話される英語だけではなく、それ以外の世界、価値観を知ること、そのための現地語にトライすることが、真のグローバル人材への道だと考えています。
【2】学び始める前に「三つの出口」を見定めよう(Vol.13より)
私が、アラビア語で外交交渉の通訳を担ったのは、学習を始めてから4年8カ月後。これだけ短期間でゼロからアラビア語をマスターできたのは、外国語学習で重要な「三つの出口」が明確だったからだと思っています。
一つ目は、「何のために学ぶか」という目的。そして二つ目は、「何を話すのか」という内容です。目的がビジネスと海外旅行では、学習方法は大きく変わります。さらに、同じビジネスでも業界など話す内容が違えば、覚えるべき単語もまったく違います。そして三つ目は、より原点に戻って「どの国の人と何語を話すのか」ということです。
なぜ、出口についてうるさく言うかというと、私はアラビア語をゼロから始めたにもかかわらず、エジプトでの語学研修の間は、いきなり最終目的を見据えて、ひたすらプレゼンをさせられたからなんです。コーナーに追い込まれて「話すしかない」状況になると、何を話すかという内容を先に考えて、それに見合う単語を調べ、文章を作って口から発信していく。つまり、「出口」を先に見つけて、「入り口」に向かうしかなかったのです。でも、それが結果的に必要なものだけをインプットしていく学習スタイルを生み出しました。いわゆる「逆転の発想」です。
【3】「日本語ファースト」でいこう(Vol.2/Vol.13より)
「日本語ファースト」とは、簡単に言えば、外国語学習を「外国語を学ぶこと」ではなく、「日本語を外国語に置き換えること」ととらえることです。
実際のビジネスなどでは、何を話すかという出口を先に決めなければなりません。そのためには、日本語を基軸に話すことを決め、それを外国語に置き換える「日本語ファースト」の方が最短で出口に到着できます。
そうやって、外国語を日本語の水準に少しずつ引き上げていく。母国語と外国語の運用能力とが「陸続き」になる点に、この考え方の意味が出てくるのです。英語は英語で考えなければらないという、いわゆる「ネイティブ脳」神話はもう忘れてください。
日本語で何を相手に伝えたいのかを考えて、伝わればといいという発想に転換することがコツだと思います。
【4】アウトプットしないことは、インプットしない(Vol.4/Vol.13より)
ビジネスでプレゼンしたり、商談を成功に導いたりするためには、あなた自身の頭、意思ですべてを進めて、解決していかなければなりません。
にもかかわらず、語学学校で与えられたテキストや市販の参考書、テキストを最初から無造作に始めると、結局は、あなたがビジネスでプレゼンしたり、商談で話したりすること、つまりアウトプットすべきこととインプットに関連がなくなり、いくらインプットしてもアウトプットの役に立たず、使えない語学に終わってしまうのです。
要は、何をインプットしようではなく、何をアウトプットしようかを最初に考えなければならないのです。これこそ、まさに「アウトプット・ファースト」です。
【5】「読む」「聴く」「書く」より大切なこと(Vol.13より)
日本では、「読む」「聴く」「話す」「書く」の4技能をバランスよく学ばなければならないとされていますが、私は、各自の出口によって、学ぶ目的に応じてバランスを変えていいと思います。
私が恐れるのは、日本の英語教育の習慣が身に付いた結果として、4分野のバランスをとるというと聞こえはいいのですが、結局、同時にはできずに優先順位をつけてしまい、一番苦手な「話す」ことを後回しにしてしまうのではないかということなんです。
そうではなくて、正しいやり方は、まずスピーキング能力を伸ばすことです。そうすれば私の経験からも、おのずとあとの三つの能力はついてきます。
【6】外国語学習はスタートが肝、まずは安定飛行へ
英語以外の新しい外国語に取り組むことを決めたあなた、あるいはやはり英語を一からやり直そうと決めたあなた、その意欲が消えないうちにスタートダッシュすることをお勧めします。
これは飛行機と同じで、安定飛行に乗せる前に、まずは外国語という世界の上空にあなたの脳を移動させる必要があるからです。私は、エジプトに留学後、家庭教師との最初の3カ月間はとにかく全力投球せよ、語学ではスタートダッシュが大事といわれ。がむしゃらにやりました。スタートダッシュのやり方は、与えられた環境にもよると思いますが、3カ月という期間を設定する、参考書1冊といった単位にするなど、いずれにせよ可能な限り早くやりきりましょう。
読者の皆さんの健闘を祈念しています!