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「外国語」で世界の扉を開こう。ゼロから首相通訳になった元外交官の語学勉強法

世界でビジネスをするための外国語習得術

こんにちは。朝日新聞社の経済メディア『bizble』で連載してきたこのシリーズ、今月からはGLOBE+に舞台を移して継続していきます。引き続きよろしくお願いします。

私は大学を卒業後、24歳で外務省に入りました。外務省では世界最難関といわれるアラビア語が専門語学として割り当てられました。もちろん大学で履修したこともなく、希望もしていませんでした。「アラビア語ってどこで話されているの?」 そんなレベルでした。大人になって、まさか文字や発音など、外国語学習を本当にゼロからスタートすることになるとは夢にも思っていませんでした。

でも、だからこそ「虚心坦懐」に外国語をどう克服するかを真摯に考えることができました。日本で生まれ育ち、中学、高校、そして大学と受験英語漬けだった日本人の一人として、初めて気づいたことも多くありました。

今回、初めて私のコラムをご覧いただく方向けに、私のレッスンの特徴や方針を簡潔にご説明します。他のどの外国語、英語のテキストとも異なる独自のやり方になりますが、皆さんの外国語習得の一助になれば幸いです。

2004年10月5日、小泉純一郎首相(当時)と自衛隊が派遣されたイラク・ムサンナ県のハッサーニ知事との会談を通訳する中川浩一さん=本人提供

 学び始める前に「三つの出口」を見定めよう

私が、アラビア語で外交交渉の通訳を担ったのは、学習を始めてから4年8カ月後。いわゆる「デビュー戦」は、中東和平に尽力したとしてノーベル平和賞を共同受賞したことでも知られる、パレスチナ解放機構(PLO)の故アラファト議長(当時)の通訳でした。

たとえるなら、中学1年から基礎学習を始めて高校2年生で外交通訳になりました。これだけ短期間でゼロからアラビア語をマスターできたのは、外国語学習で重要な「三つの出口」が明確だったからだと思っています。

一つ目は、「何のために学ぶか」という目的。そして二つ目は、「何を話すのか」という内容です。目的がビジネスと海外旅行では、学習方法は大きく変わります。さらに、同じビジネスでも業界など話す内容が違えば、覚えるべき単語もまったく違います。

私の場合、最終的に外交官として通訳をするという目的があり、その内容も、歴史や文学ではなく政治や経済が中心になるのは分かっていたので、その出口を見据え、逆算して学習したことでアラビア語を超高速でマスターできたのではないかと思っています。

出口を決めずに何となく英語をという方も多いのではないでしょうか。厳しい言い方かもしれませんが、出口を決めないまま学ぶのは、非効率であるだけでなく、学習が頓挫してしまう原因にもなるでしょう。

三つ目の出口は、より原点に戻って、「どの国の人と何語を話すのか」ということです。

日本では「外国語学習、イコール英語」というケースが多いと思いますが、なぜ英語なのか考えたことがありますか。もちろん、考えて、出口を見据えた上で英語ならいいのですが、「学校で少し学んだことがあるから」「みんながやっているから」という理由だけで英語を学ぼうとするのであれば、あなたの英語は決して上達しないでしょう。

なぜ、出口についてうるさく言うかというと、私はアラビア語をゼロから始めたにもかかわらず、エジプトでの語学研修の間は、いきなり最終目的を見据えて、ひたすらプレゼンをさせられたからなんです。

アラビア語ができないのに毎日のプレゼンは本当に過酷な日々でした。でもコーナーに追い込まれて、最終目標の「話すしかない」という状況になると、何を話すかという内容を先に考えて、それに見合う単語を調べ、文章を作って口から発信していく。つまり、「出口」を先に見つけて、「入り口」に向かうしかなかったのです。

でも、それが結果的に出口を先に考えて、そこから逆算して必要なものだけをインプットしていく学習スタイルを生み出したんです。いわゆる「逆転の発想」ですね。

 「日本語ファースト」でいこう

「日本語ファースト」とは、簡単に言えば、外国語学習を「外国語を学ぶこと」ではなく、「日本語を外国語に置き換えること」ととらえることです。

外国語学習では通常、与えられた外国語のテキストの単語を覚え、文章の意味を考えるなど「外国語中心」の姿勢で勉強を進めることがほとんどだと思います。しかし、それでは受け身になって、自分の頭で考えることをしなくなります。

実際のビジネスなどでは、話さなければいけません。そうすると、何を話すかという出口を先に決めなければならないんです。そのためには、日本語を基軸に話すことを決め、それを外国語に置き換える「日本語ファースト」の方が最短で出口に到着できます。

ここで、「置き換え」とは、訳すのではなく「伝えること」。自由な発想で「変換」することです。

そうやって、外国語を日本語の水準に少しずつ引き上げていく。母国語と外国語の運用能力とが「陸続き」になる点に、この考え方の意味が出てくるんです。

私は、この「日本語ファースト」という発想で、アラビア語を克服しましたし、その後、英語にも応用して効果がありました。私は帰国子女ではありませんが、外務省時代も、現在もシンクタンクで、アメリカ人と交渉・情報収集しています。英語に悩んでいる方も、この方法でやれば上達すると確信しています。

「英語を日本語にいちいち訳すから英語が話せない」、あるいは「日本語を介するから英語が話せないのだ」とこれまで教わってきませんでしたか。英語は英語で考えなければなないという、いわゆる「ネイティブ脳」神話はもう忘れてください。

また、多くの方が、中学から英語を始めて高校受験や大学受験を経験してきたと思いますが、英語と言えば、「英文和訳」、「和文英訳」の比重が高かったのではないでしょうか(最近はリスニングもありますが)。

私は、日本語を介すること自体が問題なのではなく、「意思」のない、受け身の勉強に終始していたこと、そして、どうしても受験勉強の点数主義で、一言一句、対比させて訳さなければならないという勉強の仕方が、頭を固くしてしまったのではないかと考えています。

そうではなくて、日本語で何を相手に伝えたいのかを考えて、伝わればといいという発想に転換することがコツだと思います。

私は、最終的にはアラビア語の首相通訳まで務めることができましたが、実は「通訳」という仕事も、一言一句を機械のように訳すのではありません。問われるのは「伝える」こと。そのために「変換する」「置き換える」という発想を持つことなんです。

 アウトプットしないことは、インプットしない

これまで皆さんは、外国語を学習するというと、とりあえず何か参考書やテキストを買って、最初のページから読み進めてみたり、あるいは、これまで持っている市販の単語集や熟語集を見直したりすることから始めているのではないでしょうか。

結論から言うと、このやり方では、あなたの語学力が伸びることはないと思います。

なぜでしょうか。

それは、それらのテキストや単語集には、あなたの「意思」がどこにもないからです。ビジネスでプレゼンしたり、商談を成功に導いたりするためには、あなた自身の頭、意思ですべてを進めて、解決していかなければならないのです。

にもかかわらず、語学学校で与えられたテキストや市販の参考書、テキストを最初から無造作に始めると、結局は、あなたがビジネスでプレゼンしたり、商談で話したりすること、つまりアウトプットすべきこととインプットに関連がなくなり、いくらインプットしてもアウトプットの役に立たず、使えない語学に終わってしまうのです。

要は、何をインプットしようではなく、何をアウトプットしようかを最初に考えなければならないのです。これこそ、まさに「アウトプット・ファースト」です。

私は、エジプトのアラビア語学習でいきなりこの環境に置かれました。これまでのように「インプットからアウトプット」ではなく、まず何を話したいのか、アウトプットを考え、それに見合うインプットをして、そしてそれをプレゼンのために直ちにアウトプットしていきました。

つまりは「アウトプット」→「インプット」→「アウトプット」。この方法が奏功したと考えています。

 「読む」「聴く」「書く」より大切なこと

三つ目は「スピーキング重視」です。日本では、「読む」「聴く」「話す」「書く」の4技能をバランスよく学ばなければならないとされていますが、私は、冒頭お伝えした各自の出口によって、学ぶ目的に応じてバランスを変えていいと思います。

たとえば、海外旅行で現地の人とのコミュニケーションを楽しむという目的ならば、ライティングはほぼ必要ないでしょう。研究者であればリーディングが重要になります。

ビジネスパーソンに限っていえば、最も重要になるのはスピーキングです。交渉シーンで話ができなければ、まとまる話もまとまりません。

私が恐れるのは、日本の英語教育の習慣が身に付いた結果として、4分野のバランスをとるというと聞こえはいいのですが、結局、同時にはできずに優先順位をつけてしまい、一番苦手な「話す」ことを後回しにしてしまうのではないかということなんです。

そうではなくて、正しいやり方は、まずスピーキング能力を伸ばすことです。そうすれば私の経験からも、おのずとあとの三つの能力はついてきます。