――イランとサウジの合意をどう評価しますか。
今回の合意が、湾岸地域の安定につながることは間違いありません。両国とも産油国で、経済を石油の輸出に頼っているため、ペルシャ湾の安定を望んでいます。
ただ、この合意がどのくらい続くかを見守る必要があります。イランとサウジアラビアの間の憎悪は、非常に長い歴史に深く根ざしているからです。スンニ派とシーア派の間の闘争です。イランは、アヤトラ(シーア派の最高指導者の称号名)が政権を握って以来、中東全体にシーア派革命を輸出しようとして来ました。
サウジアラビアのようなスンニ派政権と君主制の転覆を狙う動きは、今も変わっていません。そのような歴史的な不信を変えることはできません。
したがって、今回の外交関係の回復は、短期的には両国にも中国にも利益になりますが、長期的には、何が起きるのかを見守る必要があります。
――今回の合意の背景には何があったのでしょうか。
実際、両国の関係は2016年以降、非常に緊張していました。サウジアラビアは君主制に反対していたシーア派聖職者のニムル師をテロに関与したとして処刑しました。
イランはイエメンのフーシ派を支持し、フーシ派はサウジアラビアを攻撃しました。こうしたスンニ派とシーア派の代理戦争が、イエメンだけでなく、レバノンでも、シリアでも、イラクでも、中東全土でも起きているのです。
一方、2019年に非常に劇的な事件が起きました。イランはドローン(無人機)と巡航ミサイルを使って、サウジアラビアの石油会社アラムコの施設を攻撃したとされています。サウジアラビアの石油生産を一時的にまひさせました。
サウジにとって、ターニングポイントでした。サウジは、この事件に米国が介入しなかったことに非常に失望しました。米国はイランを罰しませんでした。それが、サウジアラビアがイランとの関係正常化に動き出した理由でした。
また、両政権は激化する国内問題を抱えています。暴動や犯罪が起き、メディアの報道が火に油を注ぎました。イランでは市民の抗議活動が起き、困難に直面しています。国内外の問題に取り組むことは非常に困難でした。これが、イランが関係正常化に同意した理由です。
――中国の仲介外交をどう評価しますか。
中東における中国外交にとって非常に重要な成果です。中国はイランとサウジアラビア双方から石油を輸入しているため、中国経済が安定するでしょう。イランや中東は、シルクロード経済圏構想、すなわち中国の一帯一路構想の対象に含まれています。
もちろん、サウジアラビアは、中東における米国のプレゼンスを理解しています。サウジアラビアの安全保障にとって、米国は依然として不可欠だと理解しています。サウジアラビア軍は、アメリカの技術と兵器で成り立っています。
同時に、サウジアラビアは、米国の影響力と権力の限界を理解しています。サウジは二つのことから米国に失望しているようです。第一に、米国は、イランが核保有国になることを食い止められていません。イランが核保有国になるかどうかは、イランの決断の問題になっています。第二は、イランによるシーア派革命の輸出です。米国は輸出を止めることができません。
だから、サウジアラビアはヘッジ政策にシフトしました。サウジは中国の重要性を理解しています。彼らは、中国が最大の脅威に必要な影響力を持っていると考えています。
――この事件はイスラエルの安全保障問題にどのような影響を与えますか。
イスラエルの専門家たちは「影響はそれほど大きくないだろう」と言っています。サウジアラビアとイランは、お互いを疑っています。サウジアラビアはイランとの対話のテーブルにつく一方で、イスラエルとの関係を強化することを急いでいると確信しています。
ただ、短期的には、イスラエルにとってイランへの対応がはるかに難しくなったと感じるでしょう。私は軍事計画について知っていることはありません。米国がイランの核開発計画に対抗して行動しない場合、イスラエルは自分で対応しなければならなくなるかもしれません。
――イスラエルはイランの核施設を攻撃するでしょうか。
私は情報を持っていませんが、常に可能性はあります。イランの核開発は、イスラエルにとって戦略的な脅威です。だから、イスラエルがイランの核施設を攻撃する可能性は常にあります。イスラエルの国家安全保障顧問も繰り返し主張しています。
イスラエルは依然、軍事力と外交力の両方を追求します。制裁の強化も選択肢の一つでしょう。私は二者択一の選択にすべきではないと思いますが、事態は少し深刻だと思います。