スイッチひとつで舵に触れず自動運転 国内初の営業運航
舵(かじ)に誰も触れていない船が、スイッチ一つでみるみるうちに桟橋から離れていく。ぐるりと方向を変えると、沖へと速度を上げていった。操縦しているのは人ではなく、AI(人工知能)だ。
JR広島駅から市電で南へ約30分。瀬戸内海に面した広島市営桟橋で今年1月、国内初となる自動航行水上タクシーの営業が期間限定で始まった。
自動航行船は、船に取り付けられたカメラやセンサー、GPSなどを使い、半径200メートルの範囲にわたり接近する船や障害物を検知し、安全なルートを自動で航行していく仕組み。舵や船外機の出力なども自動でコントロールする電動船だ。といっても、現在の法規制では無人化することはできず、船舶免許を持つ「船長」が必ず乗船することになっている。
この日、乗船した県観光連盟常務理事の山辺昌太郎さん(53)は「接岸がスムーズで驚いた。何隻かすれ違ったが、感知して避けているのを目の当たりにして安心した。観光で瀬戸内の島々を渡る際の足としても活用できる」と話した。数日間だけの営業だったが、国交省や海運業界の関係者らも視察に訪れていた。
自動航行の仕組みを開発したのは、2021年に創業した大阪府堺市のエイトノット社。ベンチャー企業を支援する広島県の事業に選ばれ、瀬戸内海などで実験を重ねてきた。
創業者の木村裕人さん(39)は「船舶事故の約7割が人為的エラーが原因とされている。知床半島での痛ましい事故が昨年あったが、自動運転の技術で安全性の向上に貢献したい。操船者の経験や知識による差を小さくすることにもつなげられるし、テクノロジーで事故を限りなくゼロに近づけていきたい」と話す。
木村さんは米国の大学を卒業し、アップルジャパンなどを経て、エイトノットを創業した。サーフィンやダイビングといったマリンアクティビティー好きが高じて、「もっと海を身近に、より開かれたものにしたい」と考えていた。
自動航行に着目した背景には、国内の水運業界の現状への危機感がある。「船員の数はピーク時の半分以下になり、高齢の方も多く、人手不足は深刻な状況にある。400以上ある有人島との航路の維持が難しくなってしまう未来が、すぐそこまで迫っている」
荷運びにレストラン…組み合わせ自在 水上を動くロボット
竹中工務店や大学の研究室などが共同開発しているのは、水上を自動で動く四角い乗り物「海床(うみどこ)ロボット」だ。3メートル四方の床に人や物をのせ、電力で四隅のプロペラを動かして進む。壁や屋根も取り付け可能だ。
船体も馬力も小さいため、船長が乗る必要はない。移動速度は人が歩くより少し速い程度で、自ら充電スポットまで移動できる。「渡し船」のように人や物を運ぶことはもちろん、複数台を組み合わせて水上のレストランや移動式の舞台など様々な活用法が考えられている。
竹中工務店まちづくり戦略室の高浜洋平さん(46)は「人件費を抑えることができ、公共の足として使う場合には運賃のハードルを下げることができる」と話す。25年の大阪・関西万博でのお目見えをめざしているという。