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大阪万博前に「水都」の姿を取り戻せ 大阪―京都の舟運復活へ 急ピッチで工事進む

World Now 更新日: 公開日:
淀川大堰の周辺を走るクルーズ船「ひまわり」=大阪水上バス提供

かつて大阪と京都を結んだ大動脈 淀川の航路再開へ

琵琶湖(滋賀県)から流れ出て京都、大阪を貫く淀川。江戸時代から明治にかけて大阪と京都を結ぶ交通の大動脈として、三十石船などが頻繁に往来した。

歌川広重の「淀川名所之内 淀川」には、江戸時代の大阪・京都を結ぶ三十石船が描かれている
歌川広重の「淀川名所之内 淀川」には、江戸時代の大阪・京都を結ぶ三十石船が描かれている=枚方市提供

だが、昭和になり交通の要は鉄道や車に取って代わられ、大阪と京都・伏見間の貨物輸送は1962年に終了した。

現在は河口から約10キロ上流に、川を横切る全長約700メートルの淀川大堰(おおぜき)が設置されている。堰を境に上流側と下流側で最大2、3メートルの水位差ができ、船は行き来できない。

往時の航路を再開させようと、国が総事業費100億円超を投じて進めているのが閘門(こうもん)の建設事業だ。

大阪・関西万博を前に、急ピッチで進む淀川大堰の閘門工事
大阪・関西万博を前に、急ピッチで進む淀川大堰の閘門工事=2022年、2月24日、大阪市、本間沙織撮影

2月下旬、工事現場を訪れると、重機や土砂を運ぶトラックが頻繁に出入りしていた。閘門は、片方のゲートから入り、閘門内で水位を進行先の水面に合わせた後、出口側のゲートが開く仕組みだ。水位の違う場所を行き来するためのエレベーターのような役割を果たし、中米のパナマ運河などでも活用されている。

昨年1月から工事が始まり、仮設作業など全体の3割ほどが進んだ。予定通りの進み具合という。大阪万博までに完成させ、会場の夢洲(ゆめしま)と伏見を結ぶ計画だ。

淀川河川事務所沿川整備課長、岡本陽一(45)は「閘門は日本一の規模で、100人乗りの観光船が一度に4隻通過できるようになる。集客に期待がかかる」と声を弾ませる。

阪神大震災で舟運に注目 万博誘致で具体化

淀川大堰閘門の完成イメージ図
淀川大堰閘門の完成イメージ図=淀川河川事務所提供

淀川で一度はついえた船による輸送が再び注目されたのは、1995年の阪神・淡路大震災がきっかけだ。道路や鉄道が寸断される中、資材をスムーズに運ぶことができる舟運の役割が見直された。だが、大規模な工事が必要で具体的な計画には至らなかった。これを大きく前進させたのが万博の誘致だった。

阪神・淡路大震災の復旧工事では、船舶が活躍した
阪神・淡路大震災の復旧工事では、船舶が活躍した=淀川河川事務所提供

大阪市中心部を縦横に流れる河川は堀川と呼ばれ、16世紀末に豊臣秀吉が整備を始めたとされる。都市中心部を河川が取り囲む「水の回廊」は世界的に珍しく、大阪が水都と呼ばれる理由だ。だが戦後に埋め立てが進み、水質悪化や地盤沈下も問題になった。

水都の復活に向け、地元では道頓堀川に遊歩道を整備するなど、再生の取り組みが進んでいた。淀川の舟運が復活すれば、大阪で大規模災害が起きた場合、146万人に上るとされる帰宅困難者の一部や緊急物資を運ぶことができるようになる。災害時の活動機能が強化されるのに加え、大阪の魅力を世界に発信する絶好の機会になるとの機運も高まっている。

大阪水上バス(大阪市)は、2017年から、市内の別の川と閘門を通って大阪市と枚方市を結ぶ定期運航船を就航している。この航路は橋が低いため、水位や流量によって運休したり船を代えたりしている。淀川上流の高槻市で生まれ育ち、船で語り部をしている松永正光(81)は、「淀川は、私たちにとって飲料水を恵んでくれる大事な生活の糧。川の様子も、景色も、一日たりとも同じときはない。伏見まで通ったら、市民に寄り添ってきた淀川の歴史と魅力をより多くの人に伝えられる」と期待を寄せる。

道頓堀川を走る屋根のない船「アクアmini」
道頓堀川を走る屋根のない船「アクアmini」=大阪水上バス提供

「水上交通を大阪のシンボルに」 規模や所要時間など課題 

復活に向けて課題もある。現在は淀川とは別のルートで大阪市内から枚方市までは行けるが、枚方―伏見間は川が浅く土砂が積もりやすいため、中型船の航行は難しい。また、夢洲から伏見まで最低6~7時間かかる見込みだ。

大阪水上バスの企画宣伝部次長、岸田俊徳(55)は、「エリアによって小型船に乗り換えたり、エリアごとに特色を出して小さな世界巡りのようにしたり。船着き場にレストラン付きの船を停留させて待合所にするなどポテンシャルがある。工夫を凝らして課題を克服していきたい」と話す。かつて舟運の中継地として栄えた枚方市も宿場町のにぎわいを取り戻そうと力を入れている。

夢洲では、カジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致が計画されており、万博後も舟運の活用に期待がかかる。

大阪市から琵琶湖まで淀川沿いに電車を走らせている京阪ホールディングスは、夢洲と伏見をつなぐ定期航路と鉄道連携を検討中だ。事業推進担当部長の酒井勇治(53)は「大阪には水上文化が根付いている。その歴史を強みに各市町村と一体化した街づくりをし、水辺のにぎわいを創出したい。水上交通を大阪のシンボルに」と意気込む。