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「昔」を壊さず、街を作り直す 世界が注目する韓国の都市再生、ドラマのロケ地にも

現地発 韓国エンタメ事情 更新日: 公開日:
世運商店街を背に記念撮影をするドラマ「ヴィンツェンツォ」出演者たち(Netflixオリジナルシリーズ『ヴィンチェンツォ』独占配信中)

新型コロナウイルス感染症の影響で海外旅行がストップしているなか、韓国観光公社福岡支社では、日本の学生(中学・高校・大学生)を対象に「オンライン修学旅行」を企画。7月28日にソウル編、8月11日に釜山編の実施が予定されている。旅のテーマは「SDGs(持続可能な開発目標)」で、特に都市再生事業で脚光を浴びるソウルと釜山のスポットを中心に案内する。韓国在住の私が現地案内役を務めることになった。

SDGsは、2015年に国連サミットで採択された17分野の目標で、都市再生事業は「住み続けられるまちづくり」という目標に当たる。ソウルの都市再生事業は2018年に「都市計画のノーベル賞」とも呼ばれる「リー・クアンユー世界都市賞」を受賞している。

ドラマ「スタートアップ」の主人公ソ・ダルミ(ペ・スジ、左から2人目)やナム・ドサン(ナム・ジュヒョク、中央)ら「サンドボックス」で奮闘する若手起業家たち(Netflixオリジナルシリーズ『スタートアップ: 夢の扉』独占配信中)

ソウル編で紹介する都市再生スポットの一つは、昨年放送されたドラマ「スタートアップ:夢の扉」で脚光を浴びた「文化備蓄基地」だ。もとは石油備蓄基地だったのを都市再生事業により文化施設に作り替えた。ドラマのなかでは主人公のソ・ダルミ(ペ・スジ)とナム・ドサン(ナム・ジュヒョク)が通う「サンドボックス」の外観として登場した。サンドボックスは韓国版シリコンバレーで、ダルミやドサンをはじめ若き起業家たちは飛躍のチャンスをつかもうとここで切磋琢磨する。

ドラマ「スタートアップ」で「サンドボックス」の外観として登場した文化備蓄基地=成川彩撮影

文化備蓄基地は、ソウル市麻浦区のワールドカップ競技場のすぐそばにある。2002年の日韓ワールドカップ開催を前に安全性の問題で石油備蓄基地としては閉鎖され、そのまま10年以上放置されていたが、市民のアイディアによって文化備蓄基地として2017年に生まれ変わった。5つの石油タンクを公演や展示など文化空間としてリニューアルし、そこから出た鉄板を利用して新たな石油タンク風の6つ目の建物を建て、カフェや会議室など市民のコミュニティー空間として利用している。市民の斬新なアイディアが生かされた文化備蓄基地は、ドラマの主人公たちが先駆的なアイディアで投資を受けようと奮闘する舞台にぴったりだった。

石油タンクの鉄板を利用して新たに建てられた石油タンク風の建物=成川彩撮影

今回のオンライン修学旅行では紹介しないが、ソウルの都市再生スポットとして今最も注目を集めているのは「世運(セウン)商店街」だろう。今年放送されたドラマ「ヴィンツェンツォ」のメイン舞台「クムガプラザ」となったからだ。主人公のヴィンツェンツォ・カサノ(ソン・ジュンギ)は、イタリアン・マフィアの顧問弁護士だが、母国の韓国へ戻って来たのは、クムガプラザの地下に眠る金塊が目的だった。一方、クムガプラザの入居者たちは再開発に反対し、当初はヴィンツェンツォ・カサノを警戒するが、共に財閥バベルグループと闘う同志となっていく。

世運商店街は都心部の鍾路(チョンノ)に位置し、電化製品の商店街として1970~80年代に多くの人でにぎわったが、老朽化により1990年代から全面撤去が検討されていた。紆余曲折を経て2015年から都市再生事業によってリニューアルし、イベントスペースを設けてフリーマーケットやフェスティバルを開催するなど、市民の憩いの場としてよみがえった。ドラマの中で再開発に揺れるクムガプラザが、実際に全面撤去の危機を乗り越えた世運商店街で撮られたというのもおもしろい。

釜山駅近くの散策コース、草梁イバグキルの階段=成川彩撮影

釜山の都市再生事業としては、「山腹道路ルネサンスプロジェクト」が知られる。今回釜山編で案内する「甘川文化村」や「草梁イバグキル」がこのプロジェクトで新たな観光地として人気を集めている。朝鮮半島の南東に位置する港町の釜山は、朝鮮戦争で多くの避難民が逃れて来て、定着した場所でもある。避難民は山を切り開き、無秩序に家を建てたため、急傾斜の山腹に迷路のような路地や階段が連なっていた。

「韓国のマチュピチュ」とも呼ばれる釜山の甘川文化村=成川彩撮影

その悪条件を生かした都市再生事業によって人気スポットとなったのが「甘川文化村」だ。無秩序に並んだ家々が色とりどりにペイントされ、「韓国のマチュピチュ」とも呼ばれる。アーティストが壁画を描き、オブジェを作り、芸術と生活が共存する街として多くの観光客が訪れている。韓国の映画やドラマのみならず、木村拓哉主演の日本映画「HERO」のロケ地にもなった。最近では防弾少年団(BTS)のファンたちが、BTSデビュー8周年を記念して、釜山出身のメンバー、ジミンとジョングクの壁画を作成したのも話題になっている。

BTSのメンバーで釜山出身のジミンとジョングクが描かれた壁画=成川彩撮影

釜山駅から徒歩圏の「草梁(チョリャン)イバグキル」も、朝鮮戦争の避難民が多く暮らし、急な傾斜や狭い路地の多い地域だ。都市再生事業によって散策コースとなり、無料のモノレールが設置されたり、展望台が整備されたりして、おしゃれなカフェ、レストランも増えてきた。ソ・イングク主演のドラマ「ショッピング王ルイ」のロケ地となり、コロナの感染が広がる前には海外から多くのドラマファンが訪れた。

「住み続けられるまちづくり」は日本でも身近なテーマだ。コロナ終息後にリアル韓国旅行が再開した暁には、映画やドラマに登場するソウルや釜山の都市再生スポットにも目を向けてほしい。