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ウクライナ侵攻直後からプーチン氏を批判、小原ブラスさん「黙ってる選択肢なかった」

ウクライナ侵攻1年 更新日: 公開日:
インタビュー取材に応じた小原ブラスさん
インタビュー取材に応じた小原ブラスさん=2023年2月、東京・築地、関根和弘撮影

ロシアがウクライナに侵攻した2022年2月24日、その暴挙に怒り、ロシアのプーチン大統領に対する批判の声を上げた日本在住のロシア人がいた。小原ブラスさん(30)だ。小原さんは関西弁による軽妙なトークが人気のタレントだが、侵攻直後に収録したYouTube動画では、神妙な面持ちでウクライナ侵攻について語っていた。この1年、侵攻をめぐってどんな思いを抱いてきたのか。本人に聞いた。
インタビューに応じる小原ブラスさん

プーチン政権、「恥ずかしげもなく報道規制、言論弾圧」

――小原さんは侵攻当初からロシアやプーチン政権を批判してきました。この1年を振り返って、改めて何を思いますか。

本当に戦争って病(やまい)やな、と感じています。侵攻が始まる前は、そうは言っても、プーチン大統領を批判しているロシア人は結構多かったんですよ。みんな割と気軽に批判していました。

けど、侵攻が始まると、みるみるうちに批判する人が減ってきました。戦争はこうやってどんどん人を変えていくもんなんやって、思いました。

僕もロシア人としての意見や発信を求められることがすごく増えました。それも戦争が起きたからであって、僕の状況すら変わってしまって。なんか、戦争が無理やりやって来て、それにさいなまれる感じです。

僕はロシア人だけど、正直、子どもの頃、夏休みにハバロフスクにいるおじいちゃん、おばあちゃんの家に行くぐらいでした。でも、当時見てきたロシアの状況が今とはあまりに違う印象です。

――批判する人が減っていった、とのことですが、プーチン政権を気にしたからでしょうか。

なんかね、戦争が始まった当初は、ロシアにいるロシア人たちと議論する機会もあったんですよ。この侵攻についてどう思うかとか、西側の報道とロシアの報道、どっちがプロパガンダなのか、とか。

でも今はもう、そんな話はしたくないと言われて、侵攻についての話題を持ち出すと、もう最初からブロックされることが増えました。プーチン政権の言論弾圧の結果でしょう。気づいたころには発言の自由がなくなっていた、彼らもそう感じているのではないでしょうか。

実際、プーチン政権が今やっている報道規制や言論弾圧って、もはや何の恥じらいもなく、隠すこともなく、あからさまにやるようになりましたよね。

以前はそうは言っても、プーチン氏自身も公式的には「ロシアには発言の自由はあるぞ」ってアピールしてました。でも、今やもう、そんなことすら言わない。

だからロシア人たちは、気づいたころにはもう後戻りできない状況なってしまった、と思っているのではないでしょうか。

侵攻について、ロシア人も何とか止めたいと思ってるでしょうけど、止めるためには自分や家族が犠牲になるかもしれないわけです。政権に反対の声を上げるというのは今のロシアではすごく危険なので。

でも、そうしなければウクライナの人たちが犠牲になる。じゃあ、ウクライナの人たちの命と自分と家族の命、どっちを大事にするのかっていうことを、ある意味突きつけられているんだろうなと思います。

僕は今、日本にいるからこうして簡単に批判できるんだけど、もしロシアにいたら、きっと僕も、自分と自分の家族を大事にしたと思いますね。

インタビュー取材に応じる小原ブラスさん=2月、東京・築地、関根和弘撮影
インタビュー取材に応じる小原ブラスさん=2月、東京・築地、関根和弘撮影

――ロシアの世論調査の発表結果を見ると、プーチン大統領の支持率は80%台と高いです。小原さんから見て、本当に多くのロシア人が政権を支持していると思いますか。

ウクライナ侵攻に関して言えば、言葉には出さないだけで、支持してない人が多いと思います。

一方で、もしプーチン氏が大統領を辞めたら国は大混乱すると考えていると思う。プーチン氏よりももっと強硬な人が出てくるかもしれないし、逆にアメリカなど西側の傀儡(かいらい)政権みたいなものができるかもしれないとか。

傀儡政権ができたら自分たちは搾取され、ソ連崩壊直後のような苦しい思いを味わうんじゃないかと思っているんです。

ロシア人の多くは反アメリカです。多くの人がアメリカは信用ならないと思っています。というのも、ソ連の末期、当時の最高指導者であるゴルバチョフ氏はアメリカに迎合する形で国を開いたら、ソ連が崩壊して国中が貧困に苦しんだけど、西側諸国は助けてくれなかった、という恨みを持っているからです。

それが実際、どうだったのかということは別にして、少なくともロシア人たちはそう認識しているし、そういう形で歴史を学んでいます。

ソ連崩壊を経験している人たちにとっては、あのとき起きた無秩序をすごく恐れています。犯罪率は上がり、路上生活をする子どもたちが増えて…。あれだけ寒い国で貧困になるということは、命を落とすこととイコールです。

プーチン氏が辞めたら当時のような混乱が起きるのではないかと思っています。彼のような強権指導者だから、あれだけ広い国家をまとめられているということもあるのかなと思いますし。

プーチン氏が権力の座にいる限りは今のような状況が続きますし、辞めたら内部で紛争が起きるかもしれません。資源のある地域とない地域、人的資源がある地域とない地域…。

ロシアの人たちにとっては逃げ場がない。だから結局、プーチン氏を支持するほかないし、不用意に発言しない、ということになると思うんです。

――小原さん自身はプーチン政権をどう評価しますか。

この戦争が始まる前というか、もっと昔、それこそ彼が最初に大統領になったころ、乱暴なことをして政権を取ったといううわさも流れました。ただ、当時ロシアは無秩序な状態でもあったから、秩序を守らせるような、力の強い人が出てくるというのは、ある意味でちょっとした安心材料になっていたかなと思います。

でもその後、長いこと権力の座に居座って、いったん大統領をメドベージェフ氏に譲った後、再び大統領に戻って、憲法も改正して、もっと長く大統領でいられるようにしたとき、ちょっとこの人、権力への執着心が強いなと。

メドベージェフ氏が大統領になった段階で身を退くことはできたと思うんですよ。でもそうしなかったというのは、やっぱり権力のうまみを感じてるんやろなと。プーチン氏が危険な人物だと改めて思いました。

それでも僕は正直、ロシアの将来がどうなろうと、どうでもよかったんです。6歳から日本にいて、ロシアに住むつもりはないから。今は永住許可をもらってるけど、いつか日本国籍を取って、日本人になろうと思ってたので。

ロシアに行ったとき、プーチン氏はああだ、こうだと言ったら、「あんた外の人間なんだから、口を出すんじゃない」とロシア人から言われたこともあったから、まあ、確かに口を出すべきではないなとも思っていました。

なので、特にどう評価するかという意識すらないんですね。多くの日本人と同じ。まあ、なんかやばいやつがおる、ぐらい。彼のカレンダーとか出ていて、それをおもしろがったり。

ただ、今回のように他国に侵攻するのは、そりゃあかんわな、と思っています。たぶん、プーチン氏はあまりに権力に執着しすぎて、権力の座から降りることは命の危険があることだと思います。これだけ恨みを買ってしまっているんで。いまも命を狙われているとは思うけど、もう普通には生きていけへんやろうから、権力にしがみついて最後の最後までやるしかないっていう状況になっていると想像しますね。

兵士たちとともに、新年(2023年)に向けた国民へのメッセージを語るプーチン大統領
兵士たちとともに、新年(2023年)に向けた国民へのメッセージを語るプーチン大統領=ロシア大統領府の公式サイトから

――個人レベルではロシア人とウクライナ人、いい関係を築いた人たちはたくさんいると思います。そんなウクライナに対し、ロシアが侵攻したことについてどう思いましたか。

僕が接してきたウクライナの人たちは、普通にロシア語で会話を楽しんだってことがほとんどだったので、まさか「敵国」になるなんて想像もしなかったです。

ロシアとウクライナの敵対状態というのは、2014年のマイダン革命から続いてきたことだとは思いますが、そうは言っても、一般のロシア人とウクライナ人の間にはそれほど恨み合うこともなかったですし、ずっとやり取りもしてきたから…。

今回の戦争って、戦っている両国の人たち同士、言葉が分かるでしょう。ウクライナとロシアは「兄弟」じゃないって言う人もいますし、僕も兄弟とは思わへんけども、でも言葉が分かって、しかも笑いの感情も一緒で。ウクライナの番組を見るけど、ロシアの番組とすごく似ているものが多い。これって全く別の人たちではないよねって思うから、そんな人たちに侵攻していくのは納得いかない。

ただ一方で、ウクライナの東部出身で日本に暮らす人の中には、ロシアの言っていることを支持する人も僕の周りにはいるんですよね。

「ロシアがやっと助けに来てくれた」みたいなことを言う人、実際に知り合いにいます。そういう人を目の当たりにすると、どんな感情を抱けばいいのかわからなくなる。

例えば、僕のお母さんはロシア人で兵庫県姫路市に住んでいて、市内にはウクライナの西部出身の人と東部出身の友人がいます。

以前は3人とも仲良くやっていたのですが、特に侵攻が始まって以降、ウクライナの2人が政治思想をめぐってけんかをするんですよ。それを仲裁するのがお母さんで。

いままではみんな仲良くやっていたのに、やっぱり戦争って伝染病のように人の心をむしばんでいって。戦地から遠く離れた3人にも、どんどん関係してくるような感じで、恐ろしいもんやなと思います。

戦争で犠牲になったウクライナ兵士らが埋葬された墓で、涙を流す男性。「息子がここに眠っているんだ」と話した
戦争で犠牲になったウクライナ兵士らが埋葬された墓で、涙を流す男性。「息子がここに眠っているんだ」と話した=2022年8月、ウクライナ首都キーウ、関田航撮影

――戦争によって個人の関係すら分断されていくということなんですね。ただ、いまこの段階になってもなお、ロシアを支持しているということであれば、ある種のロシア側のプロパガンダの影響があるのかなと思いましたが、いかがでしょう?

ウクライナ東部の人たちもロシアのテレビを見たりしてますからね。ちなみにもちろん、東部でもロシアを支持している人、していない人いて、そこまでまた意見が対立して分断が起きていると思います。

ただ、たとえプロパガンダの影響を受けて、正しくない考えの人がいるとしても、いまはそれを無理やり説得するのは難しいんじゃないかと思います。

東部は激しい戦場になっていて、そんな状況の人たちの感情をむやみに傷つけたくないし。いっぱい負った傷が癒やされないと、まともに状況を見て、正常な考えにつながるようにはならないと思うんです。

「反対してもいいと、示したかった」

――小原さんは侵攻当日、いち早くロシアに対する批判の声を上げました。しかもYouTubeという手段を使って世の中に広く訴えました。どんな心境だったのでしょう。

あのとき、声を上げた理由は二つあります。一つは、本当に純粋に、自分がまず言わないといけないよねという思いです。

というのも、日本にも多くのロシア人が住んでいますが、彼らは侵攻が始まったとき、何を言ったらいいか、どうしたらいいかわからなかったと思うんです。もちろん、日本人もそうだったと思うんですけど。テレビのニュースを見ても、「何か難しいこと言いよるわ」みたいに思った人が結構いたと思いますし。日本在住のロシア人も同じなんですよ。別に、プーチン大統領を支持するとかしないとか、この戦争を支持するとかしないとか、そういうことをじっくり考える間もなく侵攻が始まったから、どうしようってなったと思います。

だけど、ロシア人が黙っていたら、きっと世間は「プーチンを支持しているんだろう」とみなしたでしょう。だから、「反対してもいいんだよ」っていう事例のようなものを、僕は示したかったんです。

なにせテレビやネットから流れてくる現地の情報を知れば、どんな理由があっても、あってはならないこと。反対するしかなかった。

それともう一つは、あの場で僕自身、黙っている選択肢はなかったです。黙っていれば、ロシアを支持しているとみなされて攻撃を必ず受けたでしょうから。そういう意味でも、じっと黙っているという選択肢はなかったです。

ウクライナ侵攻が始まった直後、小原さんが反戦とロシア批判を訴えた動画=ピロシキーズのYouTubeチャンネルより

――小原さんがロシア批判の声を上げたことに対し、どんな反応がありましたか。

日本に暮らすロシア人たちからは「言ってくれてありがとう」「おかげで世間からの見られ方も変わった気がする」というポジティブな反応がありました。

でも一方で、「自分たちも同じように何か言わないといけないという空気を作ってる」という批判もありました。

例えば、日本人とロシア人の「ハーフ」の高校生から、「僕は普段、ブラスさんのYouTubeを見て楽しんでいたけど、政治的な話をしそうにないブラスさんが話したことで、自分までも言わないといけないように思わされるから、発信の仕方を少し気をつけて欲しい。ブラスさんは影響力があるから」という意見をもらったこともあります。

あとは単純にロシアを支持している人からは「裏切り者」って言われたこともあります。

言ったら言ったで、「金を稼ぐのが目的だろう」とか、メディアに出ても「またお金を稼いでいるんだろう。戦争特需だ」とか批判されて…。なんか本当にこの1年、特に前半は何をしても、どんな方法であったとしても絶対に批判されるという状況だったので、これは無理やなと思いました。

だからもう、こう考えることにしたんです。批判されるかされないかで、行動を決める必要はなくて、自分の気持ちに沿って行動するのが一番だなと。誰かにどう言われるかを気にするんじゃなくて、自分が正しいと思うことを発信しようと決めました。

自分の動画を見て傷つく人もいるかもしれません。でも、もう何をしても誰かは傷つく可能性があるわけで。

一ついま思っているのは、単なるたとえで宗教的な意味はないんですが、神社で神様に手を合わせて言えるような意見を言おうと思いましたね。神様の前で言えへんようなこと、格好つけたきれいごととかは言うのはよそうって。

インタビュー取材応じる小原ブラスさん
インタビュー取材応じる小原ブラスさん=2月、東京・築地、関根和弘撮影

――「お天道様が見ている」みたいな話でしょうか。

はい。本当に神様がいるとかいないとかは別にして、自分の意見、どう考えていくのかとか、自分自身に正直になるために重要なことかなと。そんな心境の変化がありました。

――お母さんは侵攻に関して何を言っていますか。

「もう、わからん」というのがすべてですね。お母さん、別に普段からニュースを見ているわけではないんです。だから正直分からないと思います。それにお母さん、実際に自分が直接見聞きしていないことについて、とやかく偉そうなことを言うつもりはないと考えています。

それでも、「早く終わって欲しい。いつ終わるんやろ」とは思っていると思います。というのも、ロシアにいるお母さんの両親が2021年の末にコロナウイルスに感染して亡くなったんですが、まだ行けてないんです。

向こうは土葬なんですが、亡くなったのが冬だったんで、土が硬くて掘れず、春を待つんですね。そしたら侵攻が始まってしまって。おじいちゃん、おばあちゃんをお墓に入れることができなくて。仕方がないので別の人に埋葬は依頼しましたけど、まだ亡くなってから会いに行けてないのが気がかりなようです。

侵攻の影響で飛行機のルートが変わったり、航空券がものすごく高くなったりして。あと、行ったはいいけど、戻ってこれるのかという心配もありますし。ちょっと怖いんで。

――ロシア人の犠牲者も多いと言われてますね。プーチン氏の暴挙によって普通の人たちが戦場に向かわされて死ぬ人もたくさんいます。そんな人たちについてどう思いますか。

うーん、思うことはあるけど、口に出してはなかなか言えないですよね。言えば「そんなことよりもウクライナの人の方が…」ってことになるので。

ただ、亡くなったロシア兵たちがそれぞれどんな思想信条を持っていたかはわかりませんが、色んな情報によると、そもそも自分たちがいる場所がウクライナだったということすら気づかなかったとかいう人もいて、訓練と言われてきたら実際に攻撃されて訳も分からない人もいただろうなとも思うし。

彼らも侵略した側の人間なんだから地獄に落ちろ、みたいなことを言う人もたぶんいると思うんですけど、僕はそう単純には思わないですね。一人ひとり、色んな経験と思いがあるでしょうし、同じ命、同じ人間でもあるので…。時代が違ったら、全然違う人生を歩んでたんやろうなと思うと、本当にかわいそうやなと思います。

――専門家ではないので困るでしょうが、あえてうかがいます。今後、どんな展開をたどっていくと思いますか。

最初はね、ウクライナが数日で陥落するんじゃないかって予想する専門家が話すのをメディアも報じていましたけど、その後ウクライナ側が巻き返して。

一方で、ロシアは経済制裁によって、秋口にはにっちもさっちもいかなくなるとか、夏にはもうもたないとかいう情報もありましたけど、ロシアの人たちはどうも生活できていると。物価も確かに上がっているものもありますが、逆に下がっているものもあったり。

なんか、西側のメディアの予測が当たってないなと思うんですよね。もちろん、ロシアのメディアは、もうプロパガンダがたくさんあるから信用してないんですけど、要は西側のメディア、専門家も予測はできていない。なので正直、どうなっていくのか本当に分からない。まして僕は実際に戦場を見たわけでもなく、細かい情報を知っているわけでもないので。

でも、わからないけど、間違いなく状況はすでにかなり悪化していると思います。以前のような平和な時代に戻るってことは、そう簡単にはあり得ないだろうな。仮に停戦したとしても、以前のように戻ることはないと思います。

ロシアの将来も、おそらく貧困になっていくだろうから、そのときにまた、プーチン氏のような人が出てくるだろうなと思っているので、その繰り返される歴史をどう食い止めるのか、戦争をどう終わらせるのか、そのためにどこまでの犠牲を出すのか、本当に世界が考えていく必要があると思います。

仮にいまの状態で停戦したとしても、こういう侵略行為をした者勝ちの世界なんだとなって、ほかの国もまねて戦争が絶えない世の中になりかねないだろうし、かと言って、徹底的にロシアが負けるまで戦い続けるとなったときに、まさか使わへんのちゃうかと思っても、ロシアが核兵器を使ってとんでもないことになって、結果的にすごい犠牲者が出てしまう可能性だってあるし。どうなるかなんてすごく難しいですよね。

こんなこと言ったら、絶対に嫌だっていう人はたくさんいると思うけど、プーチン氏に戦争をやめさせるためには、彼の今後の安全を保障するとか考えないと難しいのかなと。「いや、裁きを受けさせよ」ってみんなすごく言うと思うけど、ただ、それでは戦争をやめようとしないのかなと思う。それだって果たして正解なのかどうか、わかりません。

ロシア国民自身が、プーチン氏を権力の座から引きずり下ろすためにも、お金がないとそういった活動や革命って起きないと思うんですよね。反体制派への支援みたいなものも必要になってくるでしょう。制裁によって反体制派自体も弱体化してしまうことだってあるだろうし。

正義感て、本当に難しいと思います。正義感に従えば、プーチン氏を裁いて今後このようなことが起きないようにしたいっていうのはわかるんですが、その正義感で対立が生まれることもあるし、それによって相手を殺せば、遺族から恨みは買うでしょう。「元々お前たちが悪かったんだから我慢しろ」って言っても、その恨みが消えることは絶対ないから。

だから個人的は、本当に戦争が起きたら、ひきょう者とか人でなしとか言われようとも、とにかく自分と自分の家族を守るために逃げて、戦争からできるだけ距離を置くというのが、僕の生きるすべになってくるかと思います。

もちろん、これは僕の考えであって、ほかの人に言うつもりもありません。それが正しいかも分かりませんし。でも、僕が神様の前で言うとしたら、それが自信を持って言えることなんです。

――日本人ができることは何でしょうか。

ありきたりな答えで申し訳ないんですが、やっぱり関心を持ち続けるということだと思います。ウクライナの問題に限らず、ほかの国についても同じです。例えばトルコの大地震でシリアでも被害がありましたが、内戦の影響で、支援団体などが被災地に近づけないようです。シリアで内戦が続いていることに、どれだけの人が関心を持っていたでしょうか。

世界からの目、関心が薄れることで、例えば戦争犯罪のようなことも起きやすい状況を作ってしまうと思います。ウクライナ侵攻で言えば、ブチャでの虐殺が広く知られたことで、それ以降もあるとは思いますが、あのとき注目されていなかったらもっと悲惨なことが起きていたと思いますし。

ロシア軍による民間人虐殺の疑いが持たれているウクライナのブチャ
ロシア軍による民間人虐殺の疑いが持たれているウクライナのブチャ。ウクライナの捜査当局は戦争犯罪があったとみて立件を進めている=4月、竹花徹朗撮影

寄付も大事ですが、何よりも関心を持つと。ウクライナ侵攻に関するニュースの視聴率が落ちているらしいのです。もちろん、戦争を視聴率で語るなんてしたくないけども、けどやっぱり視聴率が低ければ、扱う頻度も少なくなってしまう。頻度が少なくなれば,プーチン氏ももっとひどいことをやるんじゃないかと思います。

資本主義の弱点はここかもしれない。多くの人が関心をなくしてしまったら、お金にならないから扱われなくなってしまうという…。資本主義のそんな弱点につけ込まれないことが大事だと思いますね。