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育休中の「学び直し」を勧めるトンチンカン 女性の反発を買った背景に男性主導の問題

ニッポンあれやこれや ~“日独ハーフ”サンドラの視点~ 更新日: 公開日:
写真はイメージです=gettyimages提供

先日、岸田文雄首相が参院本会議で「育児休業中の人らへのリスキリングを後押しする」と答弁したことが物議を醸しました。

リスキリングとは「学び直し」のことで、いったんは社会に出た人が大学で学位をとるなどしてキャリアアップを図ることです。

しかし、幼い子供の場合、基本的に大人は目を離せません。「一日中、子供の面倒を見ながらスキルアップを図る」ことはあまり現実的ではありません。そのため子育てを経験している人を中心に「首相は育児の実態を理解していない」と批判の声が上がりました。

幼い子供がいると「学び直し」どころか「家の片付けもままならない」のが現実だということを先日「片付けのプロ」である「こんまり」こと近藤麻理恵さんが明らかにしたばかりです。

「育児休暇」の呼び名を「両親時間」に変えたドイツ

ドイツでもかつて「育児休暇」(ドイツ語:Erziehungsurlaub)という言い方が一般的でした。しかし「休暇」という言葉を用いることで、子供の面倒を見る人が「休んでいる」という誤解が一部生じていたことから、2001年からElternzeit"という言い方に変わりました。これは日本語に直訳すると「両親時間」という意味です。

以前の“Erziehungsurlaub“(育児休暇)という言葉には「育児を過小評価している」という批判はあったものの、現在、使われている“Elternzeit“(両親時間)という言葉では「当事者が会社と雇用関係にあり、職場復帰が保証されていること」が分かりにくいのではないかという声もあります。

ドイツでは親それぞれが3年を上限に「両親時間」を取ることができます。父親と母親の両方に「両親時間」を取ってもらう狙いもあり、ドイツでは子供が3歳から8歳の間、「3年のうち24カ月を限度に自分たちが好きな時期に育児休暇をとる」ことができ、これに雇用主の同意は必要ではありません。

「子育て」を「片手間でできること」と勘違いしている政治家たち 

今回の岸田総理の発言の背景には複合的な問題があります。それは社会的地位のある男性の多くが育児に関わってきていないため、実感として「育児の大変さ」が理解できないまま政策案を練ったり、発言をしたりしてしまうという問題です。

2019年には宮腰光寛少子化担当相(当時)が「赤ちゃんをおんぶしたり抱っこしたりしたまま働く従業員」がいる会社を視察し、「赤ちゃんはお母さんと一緒にいるのが何より大切だ。この取り組み(子連れ出勤)がモデルとして全国に広まってほしい」と話しましたが、女性らから「子連れ出勤では仕事にならない」「それよりも保育園を増やしてほしい」などと批判の声が上がりました。

どのような託児所を設けるのかなどの具体的な計画がない段階で「子連れ出勤」を褒めたたえたことはうかつだったといえるでしょう。

「子育ては勉強をしながらでもできる」「子育ては仕事をしながらでもできる」といった具合に、「子育て」を簡単に考える男性の政治家が目立ちます。

深刻なのは、宮腰少子化担当相の発言からも分かるように、「仕事をしながらも子育てはできる」ということが「女性に限定」して使われている点です。

「子育ては女性の役割だから、女性は他のことをしながらでも、子育てができるはずである」といった一部の男性側の思い込み、または願望に基づいた思考回路は問題です。

コロナ禍になってしばらく経ってから、日本では「旅先などで休暇を取りながら仕事もする」という「ワーケーション」が話題になりました。日本では「休みだけど仕事をする」「育児休暇中だけれど学び直しをする」といった勤勉さを重視したスタイルがたびたび見受けられますが、本末転倒なのではないでしょうか。 

「真っ赤な入浴剤」のトンチンカン

近年は「育児には男女ともに関わるべきだ」という考えが社会で主流になってきているものの、前述のように「やっぱり子供はお母さんと一緒にいるのが一番」という考えを前提に発言をしてしまう男性もいます。

その一方で「女性しか体験しないこと」についても、女性の意見を尊重しないまま「男性が突っ走ってしまう」事例も見られます。

先日は都内の雑貨デザイン製造会社が『「生理中に血が気になって入浴できない」という悩みを抱える女性のための入浴剤バスボム』を開発したものの、これが当事者の女性たちに不評でSNSで炎上してしまいました。

入浴剤を浴槽に入れるとお湯が真っ赤に染まることから会社側は「(生理の)色が気にならない」と考えたようですが、女性からは「色の問題ではない」「トンチンカンすぎる」との声が上がりました。

同商品の開発チームには女性も在籍していたといいますが、当事者である女性の意見を真剣に聞き取ってはいなかったようです。

「生理中に真っ赤なお湯につかりたいか」または「つかりたくないか」は好みの問題であり、もしかしたら「つかりたい」と思う女性も一部にいるのかもしれません。それでも「女性が使う商品」について、これほどまでに女性の共感が得られない商品が開発されたことは、明らかに男性の視点を重視した結果だといえるでしょう。

「本来は女性が当事者であるテーマ」について「男性が中心になって決めてしまう」というのは日本だけの問題ではありません。

2021年には3人のドイツ人男性が「タンポンやナプキンの取り換えの際に使うピンクのゴム手袋」(その名も「ピンキー」)を開発した結果、「そんなものは必要ない」と世界中の女性から大ひんしゅくを買い、「生理は汚れたものという誤った考えを助長するマンスプレイニングだ」だと言われてしまいました。

同時期に「男性に気づかれることなく、生理中に性交できるスポンジ」であるフランスのLove Mousseという商品も、多くの女性から「フェムテックをうたっているのに、あまりにも男性中心の考えで女性の意向が反映されていないのでは」と非難される結果となりました。

最後になりましたが、アメリカにはこんな話もあります。1980年代、アメリカ初の女性宇宙飛行士のサリー・ライドさんが宇宙へ旅立つ準備をしていると、NASAの男性エンジニアから「確認したいのですが、1週間宇宙に行くために、タンポンの数は100個で適当ですか?」と聞かれたというものです。このエピソードは今でも笑い話として語り草になっているとのことですが、勝手に決めずに女性に確認しただけでも良いと筆者は考えます。

公の場でトンチンカンな言動や行動をしてしまわないためにも、あらかじめ「当事者の話を丁寧に聞く」ことが何よりも大事なのではないのでしょうか。