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SUGIZO 「音楽に政治を持ち込むな」? 全身全霊で世の中に自分ができることをする

People 更新日: 公開日:
青空をバックに、黒い服を着てサングラスをかけた男性の横からの写真。背景に難民キャンプが広がっている。
ヨルダンの難民キャンプを訪れたSUGIZO=2019年、田辺佳子撮影、所属事務所提供

「音楽に政治を持ち込むな」――。日本では折に触れてこんな声が上がる。ミュージシャンのそうした発言は、SNSなどで炎上しやすいため、予防線を張る気持ちもよくわかる。一方で、政治的な意見を表明するのがごく普通のこととして捉えられる欧米のロックシーンとは、大きな差がある。LUNA SEAやX JAPANでギタリストを務めるSUGIZO(53)は、こうした音楽と政治や社会を切り離す状況にずっと違和感を覚えてきた。

SUGIZOが政治や社会に関心を持つようになったのは1990年代後半ごろ。娘が生まれたことがきっかけだった。テレビでは、連日コソボ紛争が報じられていた。

SUGIZOは若い頃の自らを「破滅的で、ボロボロで、傷だらけで、すぐにけんかをして、社会的には人に迷惑行為しかしないみたいなやつだった」と振り返る。

戦争で苦しむ子どもに衝撃 世の中を良い方向に導きバトン渡したい

しかし、娘が生まれ、戦争で苦しむ子どもたちの姿をメディアで見て衝撃を受けた。

「自分たちの子どもの世代が数十年後に大人になったとき、世の中を良い方向に導いた上でバトンを渡したい、と思うようになった」と話す。以来、四半世紀にわたって難民支援、反原発、環境への負荷が少ない洋服のブランドの立ち上げなど、様々な活動を続けてきた。

東日本大震災や熊本地震、西日本豪雨など、災害のたびに被災地にボランティアとして駆けつけ、リーダー役としてチームを束ねるまでになった。

イラクの難民キャンプで演奏するSUGIZO。多くの若者に囲まれた
イラクの難民キャンプで演奏するSUGIZO。多くの若者に囲まれた=2019年、田辺佳子撮影、所属事務所提供

難民への支援では、長年続けてきた資金援助に加え、2016年からはヨルダン、シリア、パレスチナの難民キャンプでコンサートやワークショップを開くようになった。

自分が難民キャンプで歌うことはおそれ多いと、最初は抵抗があったという。だが、一支援者としてヨルダンの難民キャンプを訪れようとしたとき、「演奏してほしい」と求められ、急きょ楽器を調達して即席でバンドを作った。

ライブには、女性や子どもが多く駆けつけた。日本の曲、現地の曲を演奏すると、「手拍子をして歌って大騒ぎ。びっくりするほど盛り上がった」と振り返る。

「避難生活を強いられて普段はエンタメに親しむこともあまりできないはず。そもそもムスリムの女性たちは自分の感情をあらわにすることも良しとされないと聞いていた。それなのに、踊って歌っている女性もいた。音楽には、感情を解放する力があると、感動した」

イラクの難民キャンプでバイオリンを演奏するSUGIZO
イラクの難民キャンプでバイオリンを演奏するSUGIZO=2019年、田辺佳子撮影、所属事務所提供

当初は、一個人としての支援と音楽活動を切り離して考え、社会的なテーマを自らの音楽にとり入れることはしないつもりだった。

しかし、9・11、その後のアフガニスタンやイラクでの戦争を機に考えが変わった。

最初はCDのアートワークで、その後は戦争孤児や核兵器、管理社会など、様々な社会的なテーマを扱った楽曲を生み出していく。

核廃絶を訴える「NO MORE NUKES PLAY THE GUITAR」、国家による管理社会をテーマにした「Lux Aeterna」などだ。

だが、政治や社会をテーマにした曲を出すと、摩擦は想像以上に大きかった。

「政治的なことを表現するんだったら、もう私は君を扱わないよ」。ある音楽雑誌の編集長から、そんな言葉を投げかけられたという。ほかにも「野垂れ死ね」などと脅迫ともとれるメッセージが届いたこともある。

音楽関係者、リスナーから寄せられるそうした声は、想像していたよりも大きかった。

「『音楽が、ロックが、政治的、社会的な意思を表現するのはタブーでしょ』みたいに言う人は少なくなかった。僕からすると『えー?』と驚くわけですよ。じゃあ、『ジョン・レノンは? ボブ・ディランは? マーヴィン・ゲイは? 彼らはタブーなの?』と思うわけで」

ロックが生まれた1960~70年代にはベトナム戦争や公民権運動が大きな政治的テーマとなっていた。これに対し、多くのロックミュージシャンが反戦や黒人との連帯を訴え、若年層を中心に起きた革新や平和を訴えるムーブメントの広がりに大きな役割を果たした。

SUGIZOが挙げた3人は、そうした動きを牽引(けんいん)した代表格とも言えるミュージシャンだ。

最近でも、米国では大統領選やブラック・ライブズ・マターで、若い世代も含めた多くのミュージシャンが発言やパフォーマンス、楽曲で自らの立場を表明している。

「その時代、その時代で表現すべき社会的な意識があるほうが自然だ。社会のうねりや意思をくみとる役割も持ちながら、ロックや、あらゆる芸術は存在している」と話す。

ジャンル、人種を越えた融合、ロックは多様性表現する最も有効な手段

一方で、必ずしもロックに社会的なメッセージが必要だとは思わない。声高に訴えずとも、「ロックはジャンル、人種の融合が簡単にできる。多様性を表現する最も有効なツール」だとも感じる。

ロックは黒人文化のブルースやジャズと白人文化のカントリーが融合して生まれ、レゲエ、アフリカ、インド、ラテン音楽などの影響も色濃い。各地の音楽と混ざりながら、新たな音が生まれている。

多様性の象徴であるロックの表現には政治的、社会的なメッセージが含まれていてもよいはずだと思う。「他人のそうした表現を抑圧して、剝奪(はくだつ)するような動きは、民主主義の否定だと思う」と話す。

社会を良くしたいという強い思いの根底には、自身が崖っぷちに立たされた経験も影響しているという。

2000年代前半に、当時のスタッフに知らないうちに連帯保証人にされてしまい、多額の借金を背負い、最終的に返済できず、自己破産に追い込まれた。

精神的にも、到底音楽がやれる状態ではなくなったという。一度どん底まで落ちると、不思議と社会に貢献したい思いは一層強くなったという。

「もう、一度は死んだ身だと思っている。あとは余生です。そして、その後の自分の人生をちゃんと大事に生きなさい、ともう一度チャンスをもらった気分です。全身全霊をかけて、生きているうちは、世の中に対して自分ができることをやっていこうと思っています」