1. HOME
  2. 特集
  3. Rock is Back
  4. ロック復活の旗手マネスキン 「憎しみや不寛容ではなく、尊敬と愛を」新アルバムでも

ロック復活の旗手マネスキン 「憎しみや不寛容ではなく、尊敬と愛を」新アルバムでも

World Now 更新日: 公開日:
ステージに立つマネスキンのメンバーの写真。左から、イーサン・トルキオ(ドラム)、ヴィクトリア・デ・アンジェリス(ベース)、ダミアーノ・ディビッド(ボーカル)、トーマス・ラッジ(ギター)
マネスキンのメンバー。左から、イーサン・トルキオ(ドラム)、ヴィクトリア・デ・アンジェリス(ベース)、ダミアーノ・デイビッド(ボーカル)、トーマス・ラッジ(ギター)=2022年12月、米ニューヨーク、増池宏子撮影

「Rock is Back」世界が熱狂、Z世代の新星 若者もとりこに

野太くどろ臭い、獣のようなうなり声が官能的にとどろく。ベースの鼓動が壁をジリジリと揺らす。押し寄せる観客の渦、身を投じる演者――。

熱狂と陶酔。理性を飛ばし、肉体の深い部分を震わすロックの真随を、昨年12月にニューヨークであったライブで私はひしひしと感じた。ステージに立つのは新星マネスキン。ロック復活への旗手と目されるバンドだ。ネットのストリーミング再生回数は65億回超、今年の米グラミー賞の最優秀新人賞にもノミネートされた。

ニューヨークライブで演奏する、トーマス・ラッジ(左)とヴィクトリア・デ・アンジェリス
ニューヨークライブで演奏する、トーマス・ラッジ(左)とヴィクトリア・デ・アンジェリス=2022年12月、米ニューヨーク、増池宏子撮影

「ロックスター」という言葉はいつしか聞かれなくなった。ポップ音楽の王座をヒップホップに明け渡して20年余り。時代遅れになりかけていたロックが、ここに来て息を吹き返そうとしている。ロックの本場の米英ではないイタリアから現れた4人組バンド・マネスキンはその中心にいる。

2000年前後生まれで「Z世代」にあたる。社会性のあるメッセージと衝動的なシンプルロックという、古典的にもみえるスタイルで若者をも取り込み、上の世代のノスタルジーを刺激しながら、人気を拡大している。

「ロック・イズ・バック」――。昨年12月、米ニューヨークのライブ会場で、中学教師ジュディ・ラグさん(60)は、うれしそうにその言葉を繰り返した。「ロックが好きだけど最近ひかれるバンドがいなくて。久々の感覚!」。NPO職員のディジリー・ブラウンさん(34)は「ロックはあんまり聴かない。普段はレゲトンばっかり。でもなぜか彼らには引かれた。そしてロックが好きになってきた」と話す。

ニューヨークライブで熱唱する、マネスキンのボーカル、ダミアーノ・デイビッド
ニューヨークライブで熱唱する、マネスキンのボーカル、ダミアーノ・デイビッド=2022年12月、米ニューヨーク、増池宏子撮影

マネスキンは社会的なメッセージを積極的に発信している。特にジェンダーや性的少数者に対する社会の偏見について問題提起してきた。それはメンバーの育った環境が影響している。

ボーカルのダミアーノ・デイヴィッドは「自分たちが育ったローマはバチカンがあり、非常に宗教的で保守的な所だ」と私のインタビューに打ち明けた。

自分らしくあるために 人種差別や性的マイノリティーへの偏見と闘う

ベースで唯一の女性メンバー、ヴィクトリア・デ・アンジェリスは「幼少期から人種差別や同性愛への不公平な扱いや差別に何度も出くわした。それが問題意識を高めたと思う」と語る。

「保守的な人たちは、他の人たちがちょっと違う方法で自分を表現するのを見るのをとても恐れている」「そして、これはローマと音楽業界の両方で経験したことだけど、自分たちの生活の中でも、文字通り受容と寛容がなくて、若者は自由で自分らしくあることはできない」

ヴィクトリアはバイセクシュアルを公言している。現在の性自認は女性だというが、子どものころは「女性らしさを完全に拒否していた」と語る。「女性らしさが心地よくないからではなく、女性らしさを象徴するレッテルや固定観念を押し付けられたことで、私はこんなんじゃない、こんなのは嫌だ、と思うようになった」と振り返る。

マネスキンの衣装は70年代にデヴィッド・ボウイやT・レックスがリードし、英国で流行したグラムロック風のジェンダーレスなファッションだ。だが、ローマの路上で演奏すると、偏見や好奇の眼にさらされ、罵声を浴びることもあったという。

ヴィクトリアは、中性的なメイクとファッションのデヴィッド・ボウイが演奏しているビデオを見て、「何か非現実的なもののように思えた。ある意味、夢みたいなもの。ローマにいた私たちは、リハーサルルームの中にいるときだけ、自分たちが自分たちでいられる安全な空間や宇宙を作り出しているように感じられた」と話す。

ドラムのイーサン・トルキオは「この社会の最も大きな問題の一つは、人間同士の違いを受け入れないことだと思う。他者を受け入れること、自分とは異なるものを受け入れること、自分の知っていることとは異なるものを受け入れることは、非常に重要なこと」と語る。

同性愛を抑圧する政策や法律が次々と生まれているポーランドでの公演では、ボーカルのダミアーノとギターのトーマス・ラッジがステージ上でキスをして、「誰もが自由であるべきだ!誰とそういうことをしたっていいんだ」と叫んだ。

ポーランドの政治体制を批判し、同国内の性的少数者への連帯を表明するパフォーマンスだった。

祖国・イタリアでは昨年、反LGBTQ、反移民の主張を繰り返し、極右と称されるジョルジャ・メローニ政権が誕生した。ダミアーノは「悲しいことだ。誰もが自分の政治的な考えを持っていい。でも、他人の権利を軽んじて制限するような考えを持つことは許されない。ましてや政権がそんな考えを持つなんて」と憤る。

ヴィクトリアは「憎しみや不寛容の代わりに、尊敬や愛があるべきだと思う。そうでしょう?それが人種差別、同性愛や女性への差別など、さまざまな憎しみはすべて、違いや少数派に対する不寛容という同じ感情からきている」と話す。

だが、未来に悲観はしていない。「ソーシャルメディアのおかげで、こうした話題はより多く語られるようになり、マイノリティーの人たちも自分の声をみんなに届けることができるようになってきた。おそらく次の世代は、私たちの世代よりも意識が高くなるでしょう」

ニューヨーク公演に来たファンには、バンドのスタンスに共鳴する性的マイノリティーの人が多かった。

会社員のシャノ・カルネンさん(26)は、「性的指向に関することを率先してオープンに語ってくれるのは、うれしい。ファッションもクールで、とても影響を受けている」と話す。マギー・マクファイランドさん(23)は「彼らが性的マイノリティーのコミュニティーとの連帯を示してくれることはすごく重要なこと。それによって私も励まされてきた」と話す。

昨年8月には初来日し、ロックフェスのサマーソニックでは圧巻の演奏を見せた。日本での公演は「遠い存在だったはずなのに、観客と一つになれた。あのステージは特別だった。よく覚えている」とトーマス・ラッジは語る。ヴィクトリアは「日本の観客はもっと静かだと聞いていたけど、今までで一番クレイジーな観客の集まりで、本当に楽しかった。文化も全く違うから、まるで冒険をしているような気分だった」と語る。日本の観客にも大きなインパクトを与え、早くも「伝説」として語り継がれるようになった。ライブとフェス出演を終えたバンドが日本を離れると、SNSでは「マネスキン・ロス」という言葉が広がった。

そこでは、ヴィクトリアが男性メンバーと同様に上半身裸になる場面もあった。女性の身体露出が男性に比べて性的に捉えられやすいことに反発し、ジェンダーフリーを強調する意味を込めた。

昨年の「米MTVビデオ・ミュージック・アワード(VMAs)」でのパフォーマンスでは、衣服がずれてヴィクトリアの胸が露出した瞬間にカメラが切り替わり、後日ヴィクトリアの胸にモザイクを入れた形で動画が公開されたことで、MTV側への抗議が巻き起こった。男性メンバーのダミアーノの胸にはモザイクがかからなかったことで、改めて性別によるの差が浮き彫りになり、議論を巻き起こした。

ニューヨークライブで熱演する、マネスキンのベーシスト、ヴィクトリア・デ・アンジェリス
ニューヨークライブで熱演する、マネスキンのベーシスト、ヴィクトリア・デ・アンジェリス=2022年12月、米ニューヨーク、増池宏子撮影

ヴィクトリアは語る。「多くの女性が自分の体に自信が持てないのは、若い頃からいろいろな人に常に性的で品定めするように見られているからだと思う。女性の体だけを見て、それが完璧に見えるかどうか、といったことを言い合っている。それはとても奇妙でゆがんでいる。そんな風にあるべきじゃないし、とても愚かなこと。声を上げ、私にできることをしようと思っている」

アルバム「ラッシュ!」で貫く激しさ、イタリア語で吐露する心の内

1月20日に新しいアルバム「ラッシュ!」をリリースする。前作よりも洗練されつつも、激しく衝動性の強いロックサウンドが作品を貫く。成功を収めたがゆえの内面の葛藤もみてとれる。歌詞の多くは英語だが、イタリア語の曲はとくに内省的な色合いが濃い。

♪オレはまだ疲れてる スーツケースを小脇に抱えて どこに行くのかもわからない まるで狂ってるかのようにさまよってる オレはまだ手錠を噛んでる――「ラ・フィーネ」や、

♪オレを殺すままにしておこう オレは灰の中から生まれ変わる――イル・ドーノ・デッラ・ヴィータ」だ。

イタリア語の曲はこれからも作り続けるつもりだ。英米のロックの影響が色濃い一方で、「僕たちのDNAにはイタリア音楽が含まれているからね」とトーマス・ラッジは語る。

ヴィクトリアは「この数年間で、私たちは大きく成長したように思う。レコーディングでもライブのように音を出すというやり方を貫いている。だから、このアルバムは3つの楽器がとてもよく調和していると思うし、特にギターの音に関しては、実験的になった」と話す。

トーマスは「伝統的なロックもあれば、とてもパワフルなものもある。何か新しいものを取り入れようと思っている。楽曲「ゴシップ」あたりは今までのマネスキンから一歩先の段階に進んだ曲だと思う」と語る。

世界中がマネスキンをロック復活の象徴とみるようになった。特に若い人たちは、新しいものではないけれども、同時に新しいものを聴きたがっていると思う。だが、ダミアーノはいう。「重圧とは感じていない。どうせ世間やメディアがレッテルを貼り、ロックを復活させる責任を負わせるのはわかっているから。自分たちが進むべき道だけを考える。その結果として、ロックを復活させられたら最高だよね」