横っ面を引っぱたく歌詞を軽快に アジア系とラテン系の少女4人組バンド
♪あんたって人種差別主義で、女性軽視な男――
出だしから聴く者を横っ面を引っぱたき、うろたえさせる。強烈な毒を持つ歌詞を、ポップで軽快なパンクサウンドにくるんで歌い、世界中に衝撃を与えたのが、アジア系とラテン系の12~18歳の少女4人組バンド、ザ・リンダ・リンダズだ。
2021年5月、米ロサンゼルス郊外の公立図書館でのオンラインイベントでこの曲「レイシスト、セクシストボーイ」を演奏した。
「世界中の全ての人種差別的で性差別的な少年たちについて歌った曲です」と前置きして始まった演奏は、♪酷(ひど)いこと言って 自分が好きじゃないものには 心を開かずに 見たくないものには 背を向けてしまうのね ♪人種差別主義と女性軽視で得た優越感 破壊されたって何度でもやり直してやる――と歌い、「Poser!(勘違い野郎) Blockhead!(分からず屋) Riffraff!(人間のクズ) Jerkface!(嫌なヤツ)」と差別主義者を痛烈にこき下ろし、シャウトする。
動画はインターネットを通じて急激に拡散し、世界中に衝撃を与えた。すぐに名門エピタフ・レコードと契約し、昨夏には来日し、日本3大ロックフェスの一つ、サマーソニックで演奏した。
コロナ禍に入ったばかりだった2020年の学校の昼休み。昼食をとろうとカフェテリアにいたら、バンドのドラマーで中国系のミラ・デラガーザ(12)に男の子が声をかけた。
「ウイルスを持っているから、中国人には近づくな、ってお父さんに言われたんだ」
「最初は、何を言われているのかわからなかった。父親が、自分の息子にこんな人種差別的なことを言うなんて、本当にめちゃくちゃだと思った」とミラは振り返る。体験を元に、ベースのエロイーズ・ウォン(14)と曲を作った。
「ヘイトクライムについて耳にするようになり、それを考えると本当に怖くなった。最も恐ろしいことの一つは、それが常態化してしまい、抑圧されること。人種差別、性差別といった大きなトピックに対して、無力感を感じてしまうことが一番危険だと思う」とエロイーズは語る。
「人種差別に限らず、社会全体が、肯定的であれ否定的であれ、あらゆる種類のステレオタイプを永続させるときに、どれだけ傷つく人がいるかを考えなければいけない。それは、誰かの個性を奪ってしまうことになる。その(ステレオタイプの)モデルから自分を切り離すのは本当に難しいこと」
「最新のものでも、古い音楽でも何でもいい」サブスク世代
ミラと姉のルシア(15)、いとこのエロイーズ、全員の友人のベラ・サラザール(18)の4人で結成された。バンド名は、日本のバンド、ザ・ブルーハーツの楽曲「リンダリンダ」に由来する。エロイーズの父親が持っていた日本映画「リンダ リンダ リンダ」のDVDを見たことがきっかけだった。挿入歌の「リンダリンダ」に刺激を受けた。
「この曲はエネルギーに満ちあふれていて、全てがキャッチーで素晴らしい。歌詞はわからないけど、ライブのオープニングでやると、エネルギーが湧いてくる」とエロイーズは語る。
ブルーハーツは、彼女たちが生まれるずっと前に解散したバンドだ。彼女たちの口からは、ザ・ブリーダーズ、フリエッタ・ベネガス、ローリン・ヒルなど、一世代上のミュージシャンの名前がごく自然に飛び出してくる。
彼女たちはパンクロックバンドとして活動しているが、パンクロック自体、1970年代後半に誕生したものだ。よりシンプルなロックへの回帰と、攻撃的、破壊的なメッセージを特徴として隆盛を極めたロックの一ジャンルで、誕生から半世紀近くが経っている。
パンクやロックを古くさいとは思わないのか。生まれる前の音楽まで好きなのはなぜか。そうたずねると、エロイーズは「最新のものでも、古い音楽でも、何でもいい。古いとか新しいとかいうのは関係ないと思う」
そうした考えの根底には、レコードを買わなくても、追加料金を払わなくても、月額の決まった料金でいくらでも音楽の世界を移動できる音楽サブスク(ストリーミング)の影響は大きいだろう。
エロイーズは「ストリーミングのおかげで、より音楽にアクセスしやすくなったから、人々は思いもよらない音楽から影響を受けるようになった」と語る。また、ベラも「親世代は音楽の好みで自分(のアイデンティティー)が決まっていたような気がするけど、今はサブスクがあるので、自分の音楽の好みに縛られて聴く曲を決める必要もない。制約はない。ほとんど何でも聴くことができ、それは他の人とも全然違う」と話す。
昔から、音楽に限らず、様々な分野で古いものがリバイバルする現象は多い。だが、彼女たちの中にはもはや「古いものが逆に格好いい」「新しいものが格好いい」という概念すらあまりないように感じる。
人々の音楽の趣味は細分化し、メインストリームと呼べるものは次第に消失していった。最新曲の付加価値は薄れ、古い曲と横並びでスマホの中に並ぶ。彼女たちはその膨大な海を自由に泳いでいるだけなのだろう。
「だって、すぐそこにあるから」社会問題、無邪気に自然に
「レイシスト、セクシストボーイ」以外にも、社会的なテーマを持った楽曲は多い。米大統領選でのトランプの当選を防ぎたくて書いたという、「VOTE!」はその一つ。
ルシアは語る。「投票は大きな部分を占めていて、それは自分だけじゃなくて、みんなに影響する。だから、よく知った上で投票することが重要なんだ。ただ投票するために投票するんじゃなくてね。まあ、私はまだ投票できないんだけど」
最新アルバム「Growing Up」でもメッセージ性の強い詞が随所にみられる。表題曲の詞では、♪悩みの種は話して分かち合おう フェアじゃなかったことについて話そう――と訴える。楽曲「WHY」では、♪誰かの言いなりになったところで 私たちはきっと泣く羽目になる――と歌う。「Fine」では、♪私たちの叫びは聞こえても 言葉を感じ取れない 私たちが死にかけてるのに もう治っただなんて言う――、と訴える。
4人の社会的な意識は、ごく自然な形で作られた。人種的マイノリティーであったがゆえかは分からないというが、物心がついた頃から、そうした話題も会話の一部にあり、コロナ禍の中でさらに考える必要性が生まれてきたという。
なぜ政治的意識を持った曲を作るのかは愚問なほど、ごく自然に彼女たちの選択肢に入っている。「抑圧や問題は常に起こっている。だって、すぐそこにあるんだもの。だから、そのことについて話すのを避けることはできない。避けたら問題を悪化させるかもしれないし、無視することはできない」とルシアは語る。
4人は、ロサンゼルスにあるメンバーの家で取材に応じた。4人はぴったりくっついて、ニコニコとじゃれ合いながら、取材にも笑顔を絶やさず答える。インタビューが終わると「さあ、ディナーだ。今日のご飯は何だっけ?」と無邪気に親にたずねて談笑する。
親を含む大人や権威を否定し、アナーキズムに近いほどの急進的な社会変革を夢見たかつてのパンクのステレオタイプは、そこにはなかった。
家族を愛し、ポリティカル・コレクトネス(政治的な正しさ)を重視し、既存の民主主義の枠内で、社会変革が進むことを望む。等身大で、気負いはさらさらない。だが、差別などへの地に足のついた強く真剣な思いが伝わってくる。真っすぐで邪気のない瞳には、気押されてしまうぼどの力があった。