企画を聞いて、「自殺に関してだったら、良い音楽ができると思います」と伝えました。
僕は小学5年の時から1型糖尿病という疾患で、ご飯を食べるたび、おやつやジュースをとるときも、インスリン注射をしなければいけないんです。思春期はそれで壁にあたる時もあったし、ほかにも色んな問題にぶちあたり、自殺が頭をよぎったことがありました。生きていたら精神的に調子いいときもあれば悪いときもあります。ありがたいことに僕は音楽で気持ちや思いをアウトプットできるけど、できない人もたくさんいるだろうなと。
自殺に関する記事を読むと、コロナがまん延してから自殺がすごく増えていた。女性が増えているのもびっくりしましたし、10代も多い。僕たちが10年、20年、30年後の地球や日本をつくっていくわけじゃないですか。誰か1人でも救えるなら意味があると思って曲を作りました。
曲名の「0570-064-556」は、こころの健康相談統一ダイヤルの番号です。LOGICというアメリカのラッパーの全米自殺予防ライフラインの電話番号をつけた曲があって、その曲が頭をよぎって。これで電話してくれる人がいたらいいなと思ったんです。
自殺に限らず、社会問題に対しては、自分が言葉を発せられるような行動をきちんとしているのなら、音楽にしたいと思っています。新しいシングル「言U」も、言いたいことを言えない世の中だと感じて作りました。降りかかってくる火の粉って色々とあると思うんですけど、ネガティブに来る人にポジティブに言えるならいいけど、ネガティブに返すと何も生まないし、良い気持ちはしない。「愛を込めて言いたいこと言おうぜ」という曲です。
自分ができることを精いっぱいやる。ラップってそういうものだと思うんです。口より行動。行動が伴っていない人の言葉は何も響かない。キング牧師みたいに、みんなが団結しなければいけない時、士気を上げ、良い影響を与える。ラッパーもそういう仕事だと思います。無理せず、自分が行動を伴えることを言い、ポジティブな影響を与えられれば。
ラップとの出合いは小学4年のとき。母子家庭だったんですけど、実の父が現れて、遊ぶようになったんです。Jポップを聞いてたんですけど、おとんが「何聞いてんねん、お前」とカーステにぶち込んだのが、Zeebraさんのアルバム。おとんは中2の時に亡くなったんです。今、ラップをしていると知ったら喜ぶでしょうね。
本格的にラップを始めたのは高校の時です。部活でラグビーをしていたんですが、けがをしてしまって。中学から始めていた人たちに負けないよう、夜中まで練習していたのにできなくなった。そんな時、同世代のラッパーを見て、自分も努力すりゃいけるやんって。ラップって、めちゃくちゃ歌声がきれいとか、見た目がしっかりしとかなあかんとか、身長高くなかったらあかんとかないから。
疾患のことは最近まで表に出してなかったんです。でも、今はポジティブに捉えています。母子家庭だったこともポジティブに歌えるかもしれない。
同世代のミュージシャンからの影響も受けます。ビリー・アイリッシュもそうだし、ジェンダー問題だと、リル・ナズ・Xというラッパーがいて、彼は男性が好きなんです。そのことを音楽にして、映像も作っています。今までの価値観や物差しだと、彼のやっていることは測ってすらもらえなかったかもしれないですが、今は彼が世界のみんなに影響を与える存在になっています。僕は彼をリスペクトしています。
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T-STONE(ティー・ストーン) 徳島県出身。人気番組「フリースタイルダンジョン」出演などで頭角を現す。2021年12月に1st EP収録「Let’s Get Eat」がビルボードの「TikTok週間チャート」で全ジャンル総合1位を獲得した。──
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