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ギター人気再び フェンダー日本社長に聞く 巣ごもり需要増 レッスンアプリがヒット

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フェンダーの日本法人フェンダーミュージックのエドワード・コール社長
フェンダーの日本法人フェンダーミュージックのエドワード・コール社長=同社提供

パンデミック以降、世界で3000万人がギターを手に

――2020年に売り上げを大きく伸ばしたと報じられました。現在はどうですか。

パンデミック以降、米国だけで1600万人以上、全世界では推定3000万人がギターを始めています。現在の経済状況にかかわらず、特に高級品への継続的な需要が顕著に見られます。一方で、コロナ禍が落ち着き初心者向け製品の需要が減少しているのも事実です。

私たちは、様々なプロモーションを実施しています。例えば、初心者のためのウェブコンテンツ「Beginner's Hub(ビギナーズ・ハブ)」を一昨年に開設し、自分のぴったりのギターやベースを選べるようにサポートしています。

日本は16年に3桁の急成長を遂げ、それ以降一貫して2桁の成長を続けています。04年以降、フェンダー社(Fender Musical Instruments Corporation)でいうと売り上げは3倍に、日本での売り上げは2倍以上に伸びています。

――売り上げ増をもたらした原因は何ですか

パンデミックによるロックダウンで、家にいる時間を利用して楽器を習うなど、新しい趣味を始めた人が増えました。フェンダーは、ギター、ベース、ウクレレの完全学習アプリ「Fender Play」を約100万人のプレーヤーに3カ月間無料で提供しました。新しいプレーヤーや再び楽器をはじめる人たちが増えました。

日本でも近年、L'Arc-en-Cielのken、King Gnuの常田大希と新井和輝、SCANDALのHARUNA、MAMI、TOMOMI、東京スカパラダイスオーケストラの加藤隆志のシグネイチャーモデルを発売し、いずれも売り上げは好調です。私たちは、さまざまな日本人アーティストと組み、日本の音楽ファンとのつながりを深めています。

1年以内にやめる人が90% 学習アプリの有料登録25万人

――Fender Playを始めた経緯について、教えてください
2015年の市場分析で、初めてギターを手にした人の90%が、最初の1年以内にギターをやめてしまうことがわかりました。一方で、ギターを継続する残りの10%が生涯で10~12本のギターを購入していることもわかったのです。

ギターや音楽に興味を持つ人はたくさんいますが、私たちの業界はリテンション(既存顧客との関係維持)の問題を抱えています。我々の目標はプレーヤーがギターを継続することです。Fender Playは、それに必要なすべてのツールと支援を提供する総合的なソリューションです。

Fender Playでギターを学ぶ女性
Fender Playでギターを学ぶ女性=フェンダーミュージック提供

――Fender Playの受講者数、年齢や性別はどうなっていますか。現在は英語のみの展開ですが、日本語での提供は考えていますか

おおよそ25万人の有料登録者で、リリース後一度でも使用したことのあるユーザーは100万人を超えています。

ユーザーの年齢層は幅広いですが、45歳以上のユーザーが大半を占めています。再び楽器を手にする人や、ギター、ベース、ウクレレを習いたいという長年の夢を再びかなえたいユーザーが多いと感じます。

メタリカ、H.E.R.、ビーチボーイズ、ナイル・ロジャースなど、数多くの人気アーティストやバンドの楽曲を学べるコンテンツコレクションも用意しています。ディズニーやバービーをテーマにした子供向けのコレクションもあります。

現在は男性が多いですが、女性も着実に増えています。これからの3年間で日本向けサービスを拡大し、日本語での動画配信や、日本の人気曲のレッスン動画を追加する予定です。

――CDからサブスクリプションへと音楽の聴き方が大きく変化しました。ギターなどの楽器への関心にも何か変化が起きていますか

Z世代はあらゆる音楽をすぐ手には入れるようになっており、彼らは前世代に感動を与えた名曲を次々と発見しています。

ケイト・ブッシュの「Running Up That Hill」からメタリカの「Master of Puppets」まで、ギターを中心としたクラシック音楽は、TikTokやNetflixの番組によってポップカルチャーによみがえっています。

Z世代が名曲を次々と「発掘」 メタルも復活し、急成長 

――昨夏はいくつかの音楽フェスが再開しました。新たなロックバンドの台頭、長く活動しているバンドのニューアルバム発表なども報じられています。現在の音楽シーンをどう見ていますか

オフラインのライブが復活し、ファンは好きなバンドの公演を見るのに、これまで以上の情熱を示しています。世界中でロックダウンを経験した今、人々はコミュニティーとの時間、そしてライブで記憶に残る音楽の瞬間を共に分かち合いたいと強く思っています。

ロック音楽が再びトレンドになり、新曲を発表したアイコニックなロックバンドは、Z世代からも注目を集めています。メタルは近年、最も急速に成長している音楽ジャンルのひとつで、メインストリーム文化に影響を与えています。

例えばメタリカを見ると、2020年にはグラミー賞でレディー・ガガと共演し、昨年は国内外で配信されているドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』の最新シーズンに使用され、「Master of Puppets」が発売から36年後に人気チャートにランクインしました。

ギターは重要で、ロックの復活に伴いポピュラー音楽でもギターソロが多く聞かれるようになりました。その結果、Z世代を中心にギターへの関心が確実に高まっています。

彼らが率先し、作り上げたTikTokで#GuiterTokと呼ばれるコミュニティーが活気をもたらし、新しい音楽やギターリックを作って共有し、互いに刺激し合っています。

大阪心斎橋にオープンしたフェンダー公式ショップ(Fender Shop in Miki Gakki Americamura)。来場者数も売り上げも伸びているという
大阪心斎橋にオープンしたフェンダー公式ショップ(Fender Shop in Miki Gakki Americamura)。来場者数も売り上げも伸びているという=フェンダーミュージック提供

――「ロック離れ」や「ギター離れ」、最近では「ギターソロスキップ」などが言われてきました。こうした指摘についてどう考えますか

ギターは健在です。ロックや2000年代初頭をほうふつとさせるギターをベースにした音楽も、オリヴィア・ロドリゴ、デミ・ロヴァートといったアーティスト、そして日本の場合は紅白にも出場したKing Gnu、Saucy Dog、緑黄色社会などの台頭で、ギターそしてロックの再生を果たしています。

ギターは、ソロやソングライティングを含め、すべての音楽制作において重要な要素であることに変わりはありません。たとえ電子的なサウンドを持つ曲であっても、そのほとんどは曲作りの過程でギターやピアノから始まっています。

3歳でローリング・ストーンズに涙 「恋」が始まった

――ギターを弾く楽しさ、音楽が人生にもたらすものとは何ですか

わずかな忍耐と献身、粘り強さがあれば、つまり1日30分の練習を半年間続ければ、誰でもギターを弾くことができるようになります。ギターを弾くことで創造性や表現力を引き出せるのです。脳の別の部分の力を使い、最大限に活用するのは、まさに新しい言語を学ぶのと似ています。

私の場合は3歳の頃、兄がローリング・ストーンズのニューアルバム「スティッキー・フィンガーズ」を弾くのを初めて聞いたのです。天使の歌のような「ワイルド・ホース」に涙を流し、「恋」が始まりました。

フェンダーを使っている日本のアーティストはたくさんいます。

「侍ギタリスト」のMIYAVIやSCANDALが日本を愛する海外のオーディエンスに自分たちの音楽を届けました。何年か前ですが、東京で初めてMAN WITH A MISSIONのライブを見たとき、彼らのエネルギーとジャンルの融合に感動しました。さらに、SILENT SIRENのすぅやあいにゃん、SCANDALのメンバー、そしてもちろんReiなど、ここ日本で活躍する女性アーティストの成長ぶりも見てきています。

King Gnuが結成当時から見せている音楽性、優れた音楽を作るための真摯な姿勢は今も変わりません。布袋寅泰、Char、INORAN、L'Arc-en-Cielのken、その他多くのレジェンドたちには脱帽です。彼らは長年にわたって最前線でギター音楽の発展に貢献しています。

これらのアーティストの一人一人が、フェンダーの楽器を使い、彼らの頭と心の中にある最高のロックミュージックを創造し、表現し、世界をより良い場所にしています。

ロックギターに長年あこがれていた記者もFender Playを始めてみた。2022年12月に年間プラン(月額12.5ドル)に加入し、なんとか続けている
ロックギターに長年あこがれていた記者もFender Playを始めてみた。2022年12月に年間プラン(月額12.5ドル)に加入し、なんとか続けている=東京都、中川竜児撮影