「Russians」 ウクライナの戦争で40年前の曲に脚光
――昨年3月にはウクライナを支援するために、1985年の楽曲「Russians(ロシア人たち)」の動画を公開したことが世界中で話題になりました。なぜ、40年近く前に発表した曲をいま歌ったのでしょうか。
「Russians」は、冷戦の真っただ中だった80年代に書かれたもので、イデオロギーの隔たりのある東西両陣営に、私たちの共通の人間性を心から訴えたものだった。冷戦が終わった後、この曲が再び話題になるとは思ってもみなかったけど、ウクライナでの戦争以来、悲しいことにこの曲はとても重要な意味を持つようになった。
戦争はまったく馬鹿げている。無意味に人々が死んでいく。この曲を歌うのは好きではないが、今の状況には共鳴するものがある。でも、日本公演では歌わないと思います。
――ミュージシャンは、何十年も反戦や平和のメッセージを発信してきました。それでも、こういうことが起こる。無力感にさいなまれることはないですか。
そうですね。でも、私は安易に「平和になろう」とは言わない。戦うしかないときがあることもわかっている。
いまのウクライナの人々は戦うしか選択肢がないと思う。彼らは自由であることの権利を守らなければならない。私の国を侵略することはできない、と言い続けないといけない。侵略は許されることではありませんから。
――人類には切り離せないものとして、戦争が組み込まれていると思いますか。
我々の歴史の大部分はそうだったと思う。でも、過去や本能を超えて、別レベルの意識にならなければならない。私たちは非常に速いスピードで進化しなければならない。そうでなければ、戦争はエスカレートし、完全に破壊されてしまう。
特に日本のみなさんは原爆が何をもたらしたかをよくわかっているはずです。私たちはこの状況がいかに危険であるかを忘れてはならない。
――世界は様々な困難にさらされているが、希望はあるのでしょうか。
私たちが困っていることについて、疑う余地はない。すべての心配事はつながっている。
ウクライナでの戦争はエネルギーの危機と無関係でなく、石油と気候変動は私たちの最大の脅威です。これらの問題はすべて、難民の危機や飢餓、パンデミックと関連している。どれか1つを切り離して考えることはできない。
こうした問題に対処するためには、世界が一つになってアプローチすることが必要です。
――ここ数年、ロックを聴く人が増えたと言われています。若い世代が過去の名曲に簡単にアクセスできるようになったことが要因にあるのではないかと思います。社会的なメッセージを発する若い世代のロックバンドも増えています。ロックの現状について、どのように考えていますか。
ストリーミングによる音楽サブスクリプション(定額制配信サービス)は非常に興味深い。アーティストとしても、自分の曲がどのように受け入れられているかを知ることができる。
例えば、どの曲が一番人気があり、聴き手はどこに住んでいるか、そして性別や年齢までわかる。このようなデータはとても興味深く、これまで入手することができなかった。
「マイソングス」という私の最新ツアーでは、ファンが私のどの曲を聴きたいかという調査に基づいて曲を選びました。
ストリーミングは誰もがいとも簡単にあらゆる音楽の歴史を手に入れられる。とても便利で素晴らしいツールです。
唯一の問題は、ミュージシャンに適切な報酬が支払われていないこと。そこから得られる報酬は非常に小さい。
私はすでに成功しているからいいが、若いアーティストにとってはとても厳しい状況です。彼らにはもっともっとサポートが必要で、もっと公平であるべきです。
若い世代の考え方に影響与える歌を 未来に道筋と希望与えたい
――ご自身はロックが復活しているのを肌で感じていますか。
私は音楽の歴史家ではありません。私は自身の音楽を作っています。だからどんな動きがあるのかはよくわからない。
私自身は音楽のジャンルについて真面目に考えたりしません。自分がロックシンガーなのか、ただのミュージシャンなのかさえも、よくわからない。私はすべての音楽が好きなんだ。
――ロックなどの音楽が社会的なメッセージを発することは重要だと思いますか。
「歌で世界を変えることができるのか」と昔からよく聞かれます。
私はたいてい「ノー」と答える。できるのは将来的に実を結ぶかもしれないアイデアの種をまくこと。
たとえば、若い聴衆を前に、私が関心を寄せる問題について歌うことができる。もしかしたら、その若い観客の中には、将来政治家や社会のリーダーになる人たちがいて、その人たちのものの考え方にプラスになるかもしれない。でも、それには何年もかかる。そうした意味において、歌が一晩で世界を変えることはできないと思います。
人生をより良く生きるには楽観的であることです。悲観的に生きるのはよくないと思う一方で、楽観的に生きるのは難しい世の中にもなっている。
でも、未来への道筋、希望を見出すことは絶対に必要で、そのために芸術、音楽が果たすべき役割は大きい。
――3月には久しぶりの日本公演を控えています。コロナ禍の間、あなたのファンはCDを聴き、日本でのライブを心待ちにしていました。今回の来日公演について、教えてください。
3月に広島からスタートし、大阪、東京、名古屋と、1週間強の滞在になります。日本の友人たちにまた会えるのが楽しみです。
日本ではいつも素敵な時間を過ごしています。とにかく毎日、毎日、毎日、ラーメンを食べるのが楽しみです。店のカウンターでみなと並んで一緒に食べるのは、素敵です。日本が好きで、日本の文化が大好きです。
初来日は1980年ですが、日本はいろいろな意味で非常に未来的で、魅力的な国だと感じています。SF的な未来と、古い伝統との組み合わせが好きで、日本に行くのを今からとても楽しみにしています。