――BABYMETALはSU-METALさん、MOAMETALさん、YUIMETALさんという3人の少女による異例のメタルグループとして、2010年に結成(現在は、YUIMETALさんが脱退し、2人ユニット)。13年にメジャーデビューしたとたん、ユーチューブなどを通じて世界的な話題になり、翌年にはレディーガガの北米5公演に参加など海外からの反響を呼びました。
当初から、海外の一部の人にはニッチな「おもしろコンテンツ」としては楽しんでもらえるかもしれないという予感はありました。僕はずっとメタル音楽を作りたかったのですが、(米国のロックバンドの)メタリカと同じ音楽をやってもモノマネにしかならない。他の人がやっていないことは何かと考えた時に、ダンスをするメタルバンドはないと思いついた。それがBABYMETALの誕生につながりました。
グループを結成した2010年は、ちょうどユーチューブが誕生した頃。当時、日本の音楽業界は著作権を守るという意識もあって利用に消極的でしたが、BABYMETALはまだインディーズだったこともあって、自由にいろんなことにチャレンジできた。それで「ド・キ・ド・キ☆モーニング」を出してみたら、海外からの反響が想像以上にあった。その後に出した「ギミチョコ!!」は、(英国のボーイバンドの)ワン・ダイレクションのハリー(・スタイルズ)さんにツイッターで紹介されたり、海外メディアに取り上げられたり。本当に自然発生的に反響が起きた。急に英語のメッセージが来るようになって、グーグル翻訳をしながら読んでいました。
――BABYMETALは新しい記録を次々と打ち立て、当初予想していた「ニッチでギーク」な層をはるかに超える幅広いファンを獲得しています。その理由はどういうところにあるのでしょう。
BABYMETALが活動を始めた頃、ちょうど世界で韓国のPSYさんの「江南スタイル」や、日本のピコ太郎さんの「PPAP」も世界的に話題を呼んでいました。パーッと火花を上げて人気を一気に上げるのもビジネスパターンとしては正解の一つ。でも、自分はアーティストとともにどこまで成長していけるかを試したかった。だから、あえて目立つようなことはしませんでした。
メタルというのは、日本でいう演歌に近いジャンルで、すごく長いスパンで歴史を積み重ねていく文化がある。BABYMETALも、そうした文化の中で認められるように、ドサ回りと言われるようなツアーバスに乗って、いろんな国の音楽フェスに地道に参加して実力をつけていきました。米国では本当に何もない田舎町にも行きましたが、そういうところでも千人、2千人のファンを集められるようになり、メンバーも自信と実力をつけていった。ユーチューブやメディアだけに頼っていたら、限界があったと思う。どれだけ力をつけて、しっかりとしたコアなファン層をつくるか。それが大事だと考えていました。
――BABYMETALと同じ年に韓国ではBTSがデビューし、ほぼ同時期に、K-POPも欧米での人気を広げていきました。同時期に欧米音楽市場を切り開いたKOBAMETALさんは、K-POPの興隆をどうみますか。
僕はアナリストではないので一個人の印象ですが、欧米の中でもブームのサイクルのようなものがあるような気がします。たとえば数年前には、スペイン語圏の曲がビルボード上位になった時期もあります。そうした中で、韓流だけではなくて、アジア全体のブームが来ているという感じがしました。
映画でも、ほとんどのキャストをアジア系俳優が演じたハリウッド映画「クレイジー・リッチ!」がヒットしたり、韓国映画「パラサイト 半地下の家族」がアカデミー賞をとったり。BABYMETALも2019年に発売したアルバム「METAL GALAXY」が全米ビルボードのアルバムチャートで13位、ロックジャンルのアルバムとしてはアジアのバンドとして初めて1位になりました。
昨年末にイギリスのバンド「Bring Me The Horizon」とコラボした曲「Kingslayer」もイギリスのチャート上位に浮上しました。コロナ禍で若干トーンダウンしてしまった感じはありますが、アジアブームの中にいるという実感があります。
――アジアブームが来ていたのだとしたら、なぜ、ほかのJ-POPはK-POPほどには人気が高まらないのでしょうか。
K-POPもジャンル全部が人気かというと、そうとも言えないと思います。ジャンル全体が成功しているというよりは、BTSやBLACKPINKなどそれなりの理由があるアーティストだけが「刺さって」いる。やはり最終的にはアーティストそれぞれのキャラクターの力なんじゃないでしょうか。日本の大貫妙子さんとか山下達郎さんとか、いわゆるシティーーPOPも世界で再認識され、プチブームも起きました。
BABYMETALは海外では、よく「ユニーク」と言われます。それは自分たちのアイデンティティーがあって、やりたいことがはっきりしているという褒め言葉。BABYMETALもBTSも、基本的には母語で歌っています。その国らしさとか母語といった要素が、明確に出ていた方がアイデンティティーとして伝わりやすいのかもしれません。
――日本のアーティストのアーティストが海外で活躍する上で大切だと感じたことはありますか。
そのまんまでいいと思います。あまり海外向けに肩ひじを張る必要はない。「海外向けには英語で歌わないといけない」という方もよくいらっしゃるんです。でも、気合を入れすぎると最終的には無理が出ると思う。モノマネではなく、最後の最後の根っこの部分にはアイデンティティーみたいなものがないといけない。そういう意味では、日本の文化というのは、良くも悪くも世界の潮流に迎合しないところがあって、魅力になり得ると思う。言語の壁もあるのか、日本には英語圏の文化とは異質の、独自の文化が脈々と育っている。もしみんなが洋楽だけを聴いている文化なら、BABYMETALは生まれていませんでした。
――今のままでも、日本のアーティストは発掘されていくのでしょうか。
ただ、日本にはインフラ面でのハードルはあると思います。たとえば、SNSでいえば、日本で主流のプラットフォームは東南アジアの一部をのぞけば多くの国になじみがない。コンサートを開催する時も、海外だとチケットマスターというプラットフォームがありますが、日本にはない。海外のファンが日本に来て、日本のアーティストのチケットを買いたい時に、日本語サイトしかない場合はかなりハードルが高い。K-POPはそうした、「間口」となるインフラが充実しているのかもしれません。日本でも、もうちょっとそこを乗り越えられるようなアプリとかシステムができたらいいのではないかと思います。