もともと砂糖製品をつくる老舗メーカーだったCJがエンタメ事業に進出したのは1995年。当時、韓国での映画制作費の数百倍に相当する3億ドル(現在のレートで約320億円)を監督スティーブン・スピルバーグらによる制作会社ドリームワークスに投資。アジア(日本を除く)での映画配給を含む権利を勝ち得た。
CJの強みは先を見通す人材発掘にある。無名だった若きポン・ジュノ監督に着目。映画「殺人の追憶」(2003年)以降も支援を続け、昨年の「パラサイト」のアカデミー賞4冠で実を結んだ。
音楽事業では12年から海外で開催する世界最大級のKカルチャーフェスティバル(KCON)を主催。14年に米国で開かれたKCONに登場させたのが、BTSだった。「米国のZ世代を中心にSNSや書面で事前調査を徹底し、彼らが誰と会いたがっているかを探った」とCJ系列でエンタメを担当するパク・ジョンミン氏。BTSは出場を弾みに一気に世界的なスターへ駆け上がった。
■1強のスタジオドラゴン
韓流ドラマの制作をリードするのが、傘下のスタジオドラゴンだ。日本でも人気の「愛の不時着」をはじめ、「サイコだけど大丈夫」「ザ・キング:永遠の君主」など数々のドラマを制作してきた。
同社は16年、CJグループの「CJ E&M」(現CJ ENM)のドラマ部門が独立して発足した。系列のケーブルテレビ局などにドラマを供給する一方、「空から降る一億の星」(フジテレビ)など日本のドラマのリメイクも作ってきた。競争が激しく制作会社の破綻が珍しくない韓国のテレビ業界で、わずか5年ほどで「1強」とも称される存在にまで成長した。
その強さのカギは独自のビジネスモデルにある。コンテンツ作りに特化する他社と異なり、多くの有名ディレクターと契約し、脚本家を集めた関連会社も傘下に置く。企画・開発段階から資金調達、販売と配給、知的財産権の取り扱いまで自社で一貫して行う。自社でビジネスを完結させようとするのは、「競争やM&Aが極めて熾烈(しれつ)なグローバルなメディア市場で、生き残る道を開く重要なステップ」(広報担当)という。
昨年、米国に事務所を設立し、巨大市場の開拓を狙う。中国動画配信大手「iQIYI」のグループ企業と組み、オリジナルコンテンツの制作も手がける。
スタジオドラゴン共同代表のカン・チョルグ氏は書面インタビューで「世界中の視聴者が楽しめるよう様々なプラットフォームを通じ、私たちのコンテンツを届け続ける」とコメントした。
■550億円を投資するネットフリックス
有料会員が世界190国で2億人を超えるネットフリックスは「愛の不時着」「梨泰院クラス」などの韓流ドラマを配信し、日本で韓流ドラマブームを再燃させた。
特に「愛の不時着」は29言語の字幕を作り、世界に向けて配信した。担当者は「アメリカのハリウッド作品や日本のアニメ作品のように、Kコンテンツも世界中で確固たるファンを獲得し、強い影響力を持ち始めている」とする。
同社は16年から、韓国でのコンテンツに約7700億ウォン(約770億円)を投資した。スタジオドラゴンをはじめ、ほかの制作会社ともライセンス契約を結び、コンテンツの確保に力を入れる。一方、長期的にオリジナルコンテンツの制作基盤を確保しようと、ソウル近郊に2カ所施設を確保した。
同社は2月、今年韓国発のコンテンツに約5500億ウォン(約550億円)を投資すると発表。巨額の投資で韓流ブームに弾みをつける戦略だ。共同最高経営責任者のテッド・サランドス氏は「世界中のエンターテインメントを愛する人々が一緒に笑ったり、泣いたり、楽しさを見つけられる作品を、今後も韓国で制作していく」とコメントしている。