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ロシアと中国 言論統制下のロッカーたち 侵攻に反対、都市封鎖の不満を代弁 

World Now 更新日: 公開日:
暗いステージでピンスポットを浴びる男性。青いジャケットに黄色のスカーフ姿でサングラスをかけている。
青いジャケットに黄色のスカーフをつけ、プーチン政権によるウクライナ侵攻に抗議の意志を示すロシアの人気バンド「ムミー・トローリ」のリーダー、イリヤ・ラグテンコ(ムミー・トローリのインスタグラムから)

プーチン政権がウクライナ侵攻に踏み切ったロシアと、習近平指導部の強権的な統治が加速する中国。ともに政府批判を許さない厳しい言論統制が敷かれ、プロパガンダと愛国主義が社会を覆う。閉塞(へいそく)的な状況でも声を上げるロッカーたちが少数だが存在する。

ウクライナ国旗思わせる衣装で侵攻に抗議

ウクライナ侵攻が始まって6日後の昨年3月2日、ロシアの人気バンド「ムミー・トローリ」がインスタグラムに写真を載せた。リーダーのイリヤ・ラグテンコ(54)が青いジャケットに黄色いスカーフを巻いてステージに立っている。ウクライナ国旗を想起させ、侵攻に反対する姿勢を示した。コメントにはこう書かれていた。

「コンサート活動を停止することに決めた。20年以上にわたって、ロシアやウクライナなどの聴衆を一つにする曲を書いてきた。一刻も早い平和が必要だ。私たちはゼロから再出発し、苦しみや痛みを乗り越え、互いへの理解と愛を探し求めなければならない」

1980年結成の大御所バンド「DDT」は5月18日にロシアのウファでコンサートを開いた。リーダーのユーリ・シェフチュク(65)は曲の合間に静まった聴衆に語りかけた。

「ウクライナの若者も、ロシアの若者も死んでいる。子どもも老人も女性も死んでいる。いったい何のために? 大統領の尻をいつもなめてキスする必要はないのだ」

スラングを使って痛烈にプーチン大統領を批判した。観客からは「ありがとう!」と大歓声が上がった。ロシアメディアによると、その後シェフチュクは軍の名誉を傷つけたとして裁判所に起訴され、罰金刑を受けたという。

少し高いところでギターを弾きながら歌うメガネの男性。モスクワ、DDTのリーダー、ユーリ・シェフチェク
モスクワの街中で歌う、DDTのリーダー、ユーリ・シェフチェク=2010年8月、ロイター

ロック・ミュージシャンが、厳しい状況にあっても声を上げようとする伝統はソ連時代からあった。その代表格は80年代に活躍した伝説的なロックバンド「キノー(映画の意)」だ。

♪私たちの心が変化を求めている。私たちの目が変化を求めている―― 

リーダーでボーカルとギターを担当する朝鮮系ロシア人のビクトル・ツォイが歌った「変化」が、閉塞感漂うソ連の若者の心に火を付け、ソ連崩壊への導火線となった。シンプルな曲に鋭い社会批判を含んだ歌詞を載せて一世を風靡(ふうび)したツォイは、ソ連崩壊直前の90年に交通事故で急死したが、今もなおツォイの曲を多くのロシア人が口ずさむ。絶望的な状況でも気骨を失わないロシアのアーティストの系譜は、脈々と受け継がれている。

巧みな表現で当局の警戒避けるしたたかさ

中国にも反骨のロッカーがいる。崔健(61)だ。王道のロックや心にしみるバラードなど多彩だが、伝統楽器を取り入れるなど独特な曲風が魅力だ。89年の天安門事件では「一無所有(おれにはなにもない)」など反骨精神あふれる曲が、天安門広場で民主化を求める若者の愛唱歌となった。

ピンクに赤い星がついたキャップを被り、右手をあげてスタンドマイクで歌う男性の写真。音楽フェスティバルで歌う、崔健
音楽フェスティバルで歌う、崔健=2012年6月、中国安徽省合肥市、ロイター

一時は大きな会場で演奏できないなど当局の圧力を受けながらも、崔は中国で活動してきた。新型コロナの感染拡大で上海市がロックダウンされていた昨年4月15日にネット配信したライブは、のべ4500万人が視聴したといわれる。崔はライブの中盤で「今日は特別にこの曲を歌う。いま苦難を経験している人のために。私たちは季節を失ったが、希望は失っていない」と語り、のどの奥から絞り出すような声でバラード「失われた季節」を歌い始めた。

♪なぜ誰もこの失われた季節について教えてくれなかったのか。あなたはもうどうでもいいと言う。それどころか、それを望んでいるとさえ言う――

過ごしやすい春に住民が自宅に閉じ込められたことを重ね合わせた。厳しいコロナ対策に不満を感じても、抗議するすべもない庶民の声を代弁してくれたと受け止められ、視聴者から「泣けた」「感動した」と大反響があった。

当局は反体制的なイメージがつきまとうロックを今も警戒する。歌詞を検閲し、問題があると判断すれば音楽活動を許可しないなど圧力をかける。

崔もあからさまに政府を批判する歌詞は書かない。活動を続けられるのは広範な民衆の支持だけでなく、ラブソングに聞こえてもわかる人には含意が読み取れる、当局の警戒を避けるギリギリの表現を使う巧みさもあるだろう。ただ、多くのアーティストが口を閉ざすなか、崔のような存在はまれだ。