ドイツ・フランクフルトにあるドイツ連邦銀行(中央銀行)の貨幣博物館には、1923年のドイツを襲ったハイパーインフレを説明するコーナーが設けられている。
札束をたこや積み木のようにして遊ぶ子どもたちの写真、ストーブで燃やすために積み上げられた2兆マルク札の束。
壁には、1920年に3.9マルクだったタマゴ10個の値段が1923年には3兆マルクへと垂直に立ち上がる折れ線グラフが掲げられていた。
案内してくれたアントリアス・カウンさん(46)は「2016年の博物館リニューアルオープンのときには見向きもされなかったコーナーだが、いま世界中でインフレとなり、来年は100周年ということもあって急速に注目が高まっている」と説明する。
ナチス台頭を招いたハイパーインフレの悔恨
ドイツは第一次大戦後、財政赤字を埋めるための紙幣増刷がハイパーインフレを招いた。国の経済と庶民の生活を破壊し、ナチスの台頭にまでつながった。
その悔恨から、ドイツ連銀は世界で最も政府からの独立性を確保された中央銀行として、「物価の安定」を金融政策の目的として掲げた。
いま金融政策は欧州中央銀行(ECB)が担っているが、物価の安定という目的はECBに受け継がれている。ただ、カウンさんは「金融政策」のコーナーを案内しているとき、「ECBのインフレ率の目標は2%なのに、今年9月は9.9%とかけ離れてしまっている」と残念そうに話した。
「タイムラグがあるから簡単じゃない」中央銀行の金融引き締め
リニューアルする前の貨幣博物館を、2013年に訪れたことがある。
そのときには、「中央銀行の役割を想定した」というゲームがあった。左側に「もの」、右側に「お金」が表示され、真ん中のレバーで通貨供給量を調節する。
つまり、レバーで金融緩和と引き締めを操作するのだが、タイミングが少し遅れただけで、あっという間にインフレになってしまう。
ゲームの説明にも「気をつけて! タイムラグがあるから、考えているより簡単じゃないよ!」と書いてあった。
いま世界で起こっていることは、まさにそういうことだ。
コロナ対策で中央銀行が金融緩和を続けていたが、引き締めに転じるのが遅れてインフレ率が急上昇、あわてて金利引き上げに躍起になっている。それでもインフレはなかなかおさまらない。まさに「タイムラグがあるから、簡単じゃない」状況だ。
ドイツのハイパーインフレのコーナーを出たところには、2000年代後半にジンバブエを襲ったハイパーインフレの展示がある。
カウンさんはこう話す。「ジンバブエだけでなく、最近のトルコやアルゼンチンを見ても、激しいインフレは歴史の中だけの話ではないことがわかる」