暖房を弱めれば、プーチンに対抗できるのか?
Can turning down our radiators turn up the heat on Vladimir Putin?
The Guardian, March 11, 2022
2022年3月11日付 ガーディアン
プーチン大統領のghastly(おぞましい)侵略戦争は、ロシアが化石燃料を世界、特にヨーロッパに売ることによって得るお金で継続している。石油と石油製品は、ロシアにとって非常に重要な輸出品である。ガスが3番目に重要な輸出品で、残りのすべての輸出品を合わせた金額よりも高い。エネルギー輸出による収入は、ロシアの国家予算の40%以上を占めている。つまり、ロシアの石油とガスを購入することで、プーチンの軍隊に資金を供給しているのである。
ウクライナは喜ばしいことに、ロシアによるキーウ(キエフ)占領の試みをrepelled(撃退した)が、同国東部での攻撃は依然として強化されている。また、世界各国政府による制裁はロシア経済に何らかの影響を与えているようだが、侵攻以来、EUが輸入を減らしていないこともあり、ロシアの石油輸出は減少していない。その一方で、石油やガスの価格は上昇している。プーチンからすれば、戦争のpaying for itself(もとが取れる)ということだろう。
米国は侵攻以来、ウクライナに約160億ドルの援助を捧げている。一方世界は今年、ロシアに3200億ドルをエネルギー代として支払うと予想されている。このgaping(ぽっかりと空いた)loophole(抜け道)がある限り、経済制裁はプーチンに戦争を終わらせるのに十分な効果を発揮しないだろう。世界がロシアへのエネルギーの依存を終わらせない限り、プーチンを決定的に止めることはできないだろう。このロシアへの収入源を断つことは、道徳的にも戦略的にも緊急の課題であると指摘されている。
■「共犯者になるな」リトアニア外相の呼びかけ
リトアニアのランズベルギス外相は、「ロシアの石油とガスを買うことは、戦争犯罪に資金を提供することだ」と明快に述べている。彼の国はロシアからのガスの輸入をすべてストップしている。彼はこう続けた。「親愛なるEUの友人たちよ、プラグを抜いてくれ。Accomplice(共犯者)にならないでください 」と。
実際、ロシアの最も重要な顧客はEUであり、ロシアのガス輸出の約60%、石油輸出の50%、石油製品輸出の50%を買っている。欧州は2月24日以降、これらの製品のために190億ドル以上をプーチンに支払っている。プーチンは侵攻までの数カ月間、欧州へのロシアのガスの流れを約4分の1に引き締め、それに呼応する形で価格が高騰した。彼は、欧州ガス市場の支配を経済的かつ政治的武器として利用してきた。
特にドイツは、in effect(事実上)プーチンの主要なenabler(支援者)となっている。長年にわたり、ドイツはガス輸入の半分以上、石油輸入の3分の1、硬質石炭輸入の半分をロシアに依存しており、ロシアによるエネルギー供給のweaponizing(武器化)についての米国や他の同盟国からの警告を無視してきた。ロシアのウクライナ戦争は、ドイツにとってwake-up call(警鐘)となった。ドイツは何十年もの間、モスクワとの貿易と経済の相互依存がヨーロッパの平和を維持することに賭けてきたのである。
ドイツの家庭の半分はガス暖房であり、ドイツのvaunted(自慢)の輸出産業の多くもガスでまかなっている。メルケル前首相の時代に脱原発を掲げ、以前にも増してロシアへの依存度を高めていることも一因である。ロシアからのエネルギー輸入をやめることは、他のヨーロッパ諸国と同様、パンデミックからまだ回復していないドイツ経済にマイナスの影響を与えるため、脱却することは短期的には容易なことではないだろう。
ドイツの金融新聞ハンデルスブラットは社説でこのように書いている。「我々はクレムリンの人質のようなものだ」
今ドイツでは、ロシアの石油や天然ガスからどれだけ早くwean itself off(徐々に離脱)できるか、政府は国民にどのような犠牲を求めるべきかという議論がintensifying(活発化している)。ショルツ首相は禁輸は経済にwreak havoc on(大きな打撃を与え)、社会不安の原因になると主張する。ドイツ政府は、ロシアからの供給から独立するには少なくとも2年かかると述べている。
しかし、いくつかの研究によると、ロシアからのエネルギー輸入を禁止すればドイツ経済に打撃を与えるものの、その経済的ダメージは最終的にmanageable(対処可能)なレベルであることが分かっている。ヨーロッパはすでに来年の冬まで十分なガスを確保しており、国際エネルギー機関は、節約と代替供給のためのviable(実行可能)な計画を示し、ヨーロッパのロシア製ガス輸入を3分の1以上減らすことができるとした。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ドイツの指導者たちに、この問題を「経済のプリズムを通して」ではなく、道徳的な観点から見るようにとimplored(懇願)している。
■脱・化石燃料の険しい道
ウクライナ戦争は、気候変動危機の間、各国政府が学ぶことができなかった真実、すなわちエネルギーは国家の安全保障の問題であり、化石燃料から脱却して再生可能エネルギーに置き換えることが力の源であることを、starkly(はっきりと)明らかにした。化石燃料は気候だけでなく、石油国家であるロシアのような問題のある政権への依存を生み出すことによって、地政学をも不安定にする。
ニューヨーク・タイムズの人気コラムニスト、トム・フリードマンは以下のように述べた。「これは、地下から採掘した石油があるからこそ、そのviciousness(悪質さ)とrecklessness(無謀さ)を可能にする石油独裁者とのumpteenth(何度目か)の対決である。ウクライナでの戦争がどのように終わるにせよ、アメリカが最終的に、正式に、categorically(断固として)、不可逆的に石油への依存を終わらせる必要がある」
石油、ガス、石炭から風力や太陽光などの持続可能なエネルギー源に投資を移すこと、炭素排出の制限と課税、電力を送るための新しいエネルギーインフラの構築は、ヨーロッパと世界の他の地域が化石燃料から離脱するために極めて重要である。しかし、これらはいずれも移行期間中にコストを引き上げる可能性が高く、国民と政治家にとって極めて飲み込みにくい薬である。
3月上旬、バイデン大統領がロシアからの石油の輸入を禁止すると発表した数分後、米国最大の石油・ガスのロビー団体である米国石油協会が、ヨーロッパへのガス輸出の増加を求める声明を発表した。
ロシアのガスをアメリカのガスに置き換えるというのは、分かりやすい選択肢のように思えるかもしれない。しかし、化石燃料産業や一部の政治家の主張があるとしても、米国は一夜にして欧州への輸出を大きく増やすことはできない。
米国内の輸出基地は限界に近いため、米国はまず、採掘されたガスを液化天然ガスに変換する施設を建設し、輸出に対応できるようにする必要がある。EUの輸入基地もすでにフル稼働しているため、ガスを燃料に戻すための新しい基地を建設する必要がある。
代替案としては、エネルギー効率化の取り組みを大幅に強化し、風力や太陽光などの再生可能エネルギーを大量に導入することが挙げられている。
今こそ、クリーンエネルギーへの移行を促進するための大胆な行動をとるべき時だという声は多い。3月上旬、venerable(由緒ある)ピューリサーチセンターが米国の成人1万人以上を対象に行った調査を発表したところ、約70%が 石油、石炭、天然ガスの生産拡大よりも風力や太陽光などの代替エネルギーの開発を支持する結果となった。
■化石燃料への依存度が高まる皮肉
ロシアのウクライナ戦争に絡むエネルギーショックは、地球温暖化対策として二酸化炭素排出量を急速に削減しようとする各国のresolve(決意)に対する試練になっている。皮肉なことに、ロシアのウクライナ侵攻は、各国の化石燃料からの移行スケジュールを破綻させることになった。より安定したエネルギー供給を求め、石油、ガス、石炭への転換を急ぐと同時に、脱石油を進めているからだ。
再生エネルギーの早期導入が困難なため、多くの国が化石燃料への依存を強めている。今後数年間、家庭の暖房や工場の電力供給、物資の輸送をlock up(確保する)ために、ロシア以外の供給源(石炭を含む)から十分な量の供給を確保しようと競い合っているのである。
同時に、特にヨーロッパでは、風力発電や太陽光発電などのグリーンエネルギーへの転換計画を加速させている。その目的は、気候変動に関する目標を達成すると同時に、地政学的に不安定な石油やガスの供給に対するエクスポージャーを恒久的に減らすことにある。また、原子力発電をrevisiting(見直す)動きもある。気候変動がウクライナの戦争で止まることはないので、これはすべて良いことである。
しかし、再生可能エネルギー源への速やかな転換には、技術、財政、規制、政治などの、despair-inducing(絶望を誘う)障害が存在する。トラックや自動車、飛行機の動力源となる水素のようなクリーンな代替燃料を安価に生成、輸送、貯蔵できるようになるのは、まだ何年も先のことである。また、より良いビジネスモデルを見つける必要もある。
多くの国が気候変動に対する大きな野心を抱いているにもかかわらず、再生可能エネルギー分野の多くの企業は、利益を上げ、工場の資金を調達するのに十分な速さで注文を受け続けることに苦労している。例えば、風力タービンの設置にsuitable(適した)地域を特定し、建設に必要な許可を得るには長い時間がかかる。広大なタービンの列が漁業の妨げになったり、海軍の演習の妨げになったり、別荘からの景観をblight(損ねる)のではないかという心配があるからだ。風力発電所の許可取得に7年もかかるようでは、すぐに実現される「自然エネルギー革命」を語ることはできない。
もうひとつの心配は、世界の再生可能エネルギー市場を中国が独占しているという事実だ。風力タービンの部品の85%を供給し、その半分を製造し、ソーラーパネルの70%を製造している。また、風力発電機、ソーラーパネル、電気自動車のバッテリーに使用されるリチウムイオンの90%、レアアースの85%を中国が採掘している。
産業スパイ、知的財産の窃盗、政敵へのスパイ行為でnotorious(悪名高い)中国は、その低い人件費と規模の経済を利用して、グリーンエネルギー分野の国際的な競争相手を廃業に追い込み、また海外の風力発電や太陽光発電会社に投資してきた。現在、太陽電池の95パーセント、太陽電池モジュールの85パーセントが中国製である。
「もし、将来のある時点で、中国が台湾を侵略することになったとしたら、世界は中国のグリーンエネルギーに対して、現在のヨーロッパのロシアの化石燃料エネルギーに依存しているのと同じようになるだろうか?」とある記事が問いかける。日本を含む他の国々は、自国の再生可能エネルギー部門が中国に対抗できるようにする方法を考えるべきだと思う。
(原文)
暖房を弱めれば、プーチンに対抗できるのか?
Can turning down our radiators turn up the heat on Vladimir Putin?
2022年3月11日付 ガーディアン
クリーンエネルギーはロシアの石油に取って代われるか?
Could clean energy replace Russian oil?
2022年3月14日付 ボストン・グローブ
戦争は欧州のクリーンエネルギーへの転換をさらに困難にするのか?
Will War Make Europe’s Switch to Clean Energy Even Harder?
2022年3月22日付 ニューヨーク・タイムズ
欧州のおかげでプーチンの戦争はもとが取れる
Thanks to Europe, Putin’s War Is Paying for Itself
2022年3月24日付 ニューヨーク・タイムズ
「プーチンの戦争マシンを止めろ」と迫られたドイツ、ロシアのエネルギー禁輸に抵抗
Germany, urged to ‘stop Putin’s war machine,’ resists embargo on Russian energy
2022年3月29日付 ワシントン・ポスト
プーチンを倒し、地球を救う方法
How to Defeat Putin and Save the Planet
2022年3月29日付 ニューヨーク・タイムズ
アメリカの安全保障を強化するために、グリーンエネルギーを解放する
Unleash green energy to bolster American security
2022年3月29日付 バージニアン・パイロット
ウクライナ紛争は再生可能エネルギー導入を促進する、今のところまだだが
Ukraine War Drives Countries to Embrace Renewable Energy—but Not Yet
2022年4月4日付 ウォールストリート・ジャーナル
パイプラインの終焉?ロシアのガスから脱却するために奔走するドイツ
The End of the (Pipe)line? Germany Scrambles to Wean Itself Off Russian Gas
2022年4月6日付 ニューヨーク・タイムズ
ドイツはいかにしてプーチンの支援者となったか
How Germany Became Putin’s Enabler
2022年4月7日付 ニューヨーク・タイムズ
クリーンエネルギーはプーチンと気候変動を阻止することができる
Clean energy could thwart Putin and climate change
2022年4月7日付 ウィンチェスター・スター
化石燃料のグリーンエネルギーへの転換は、1人の独裁者を別の独裁者に置き換える
Replacing fossil fuels with green energy trades one dictator for another
2022年4月9日付 トロント・サン
ウクライナにおけるプーチンのプランAは失敗した。彼のプランBを成功させるわけにはいかない
Putin’s Plan A in Ukraine has failed. We can’t let his Plan B succeed.
2022年4月14日付 ワシントン・ポスト