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ウクライナ侵攻で避難民が続出、そこで浮き彫りになった白人ファーストと人種差別

ニッポンあれやこれや ~“日独ハーフ”サンドラの視点~ 更新日: 公開日:
ウクライナからポーランドへ避難した人たち
ウクライナからポーランドへ避難した人たち=3月2日、ポーランド・コルチョバ、ロイター

ウクライナに対するロシア軍の侵攻が2月24日に始まり、今も戦争は続いています。故郷を追われたウクライナの人々にとって唯一の救いは、ポーランドをはじめ、スロバキア、ルーマニア、モルドバなどの近隣諸国が難民を快く受け入れていることです。

国境ではウクライナのパスポートを提示すればスムーズに隣国に入国することができました。ボランティア等が避難してくる人にあたたかい食事を提供し、必需品を支給し、宿泊場所の手配や、移動のサポートも行いました。

EU諸国は、ウクライナ人を「早く、そして複雑な手続きを省いた上で受け入れる」としています。ウクライナから避難してきた人は、EU諸国で一年まで滞在が可能で、合計3年まで延長が可能、その間労働も許可され、生活が困窮した場合は生活保護の受給も可能です。

ウクライナから避難するため、ポーランド国境に向かう人たち
ウクライナから避難するため、ポーランド国境に向かう人たち=2月26日午前、ウクライナ西部シェヒニ近郊、遠藤啓生撮影

欧州各国によるウクライナ難民に対する手厚い保護について、日本でも広く報道されています。その一方で、ウクライナから避難する際に劣悪な環境に置かれながらも、あまりスポットの当たらなかった人たちがいます。それは「ウクライナに住んでいた外国人」です。

国連によると、ロシアがウクライナに侵攻した時、ウクライナには47万人の外国人が居住していました。教育レベルが高く、生活費があまりかからないウクライナは、特にアフリカの人にとっては魅力的です。そのためウクライナにアフリカからの多くの留学生がいました。

「2022年ロシアのウクライナ侵攻」について多くの情報が飛び交うなか、忘れてはならないのは、アフリカや中東、インド出身の人がウクライナから逃げる際、様々な人種差別に直面していたことです。

ようやくたどり着いても入国拒否

ウクライナに住んでいたナイジェリア人女性の医学生Jessica OrakpoはBBCの取材に対し、「バスでポーランドの国境に向かおうとしたら、ウクライナの役人に『黒人は歩いて行け』と言われた」「国境にたどり着いた後も、『ウクライナ人が優先』と言われた」と語りました。

ツイッターでは、列車に乗ろうとした複数の黒人の乗車を、現地の兵士が防止しようとしている様子が拡散されました。

首都キーウ(キエフ)の大学で電気通信工学を学んでいたナイジェリア人男性Alexander Somto Orah氏はeuronews.(ユーロニュース)のインタビューの中で「ウクライナからポーランドへの移動は酸鼻を極めました。最初の問題は、そもそもキーウの駅で起きました」と語り、「女性と子供ファースト」だとされていたにもかかわらず、黒人や中東風の見た目をした女性が電車に乗せてもらえず置き去りにされていたといいます。

Orah氏自身は、ようやくウクライナとポーランドの国境にたどりついたものの、国境で「『ここの国境ではなく、ルーマニアの国境に行け』と言われた」と話しました。

その時点で同氏は既に主に徒歩で3日間移動しており「今からルーマニアの国境まで移動するのは体力的に難しい」と反論しましたが、国境を通過する際に他のウクライナ人よりも時間がかかったと話しています。

黒人だけでなく、インド人やレバノン人などが国境付近で立ち往生する事態になりました。Orah氏はインタビューで「有色人種には毛布が渡されなかったため、同じ仲間同士で、自らの服などで身体を温めるしかなかった」と話しています。

ドイツの外務大臣のAnnalena Baerbock氏が国連で「どの難民も、国籍や出身地、肌の色に関係なく保護されなければいけない」発言してから24時間も経たないうちに、ベルリンの中央駅でボランティアをしていた人たちの間で騒ぎが起きました。

理由は、ポーランドからベルリンに到着するはずの難民を乗せた電車が時間になっても到着せず、途中のフランクフルトで列車が止められたことが分かったからです。「ドイツの警察が列車に乗っていた有色人種の人だけに列車を降りるよう促した」と複数の人が証言しており、これがRacial Profiling(人種による選別)に該当するのではないかとドイツのメディアは問題視しています。

ただドイツ連邦警察の報道官は「EU内の国境の捜査を強化しているだけである」と話し、人種による選別があったことを否定しています。

アフリカ連合(African Union)はアフリカ人を中心とする有色人種が差別を受けているとして、2月下旬に「人間は国籍や人種に関係なく戦地の危険から逃れ国境を越える権利がある」との声明(ステートメント)を発表し、避難時の人種差別は国際法違反だと訴えました。

前述のOrah氏を含むかつてウクライナに住んでいたアフリカ系の人は#AfricansinUkraineというハッシュタグのもと「肌の色が違うことで、避難の際に差別を受けた」と自らの経験を発信しています。

戦時下でも「白人ファースト」という問題

ドイツの警察は「EUまたはウクライナに在留資格がない人」のチェックを強化しています。ドイツに限らず欧州連合の国々は「ロシアのウクライナ侵攻にいわば『便乗』してEUに流れ込もうとする人」を警戒しているわけです。

そうはいっても、前述通り「ウクライナに住んでおりウクライナの在留許可もあるのに、黒人というだけで疑われる」という理不尽な目に遭った人が多いのも事実であり、状況は複雑です。

一昨年と昨年にはBLM運動が盛り上がりましたが、今回のような戦争が起きると、彼らの権利は忘れられがちです。

ウクライナから避難する人のマジョリティーは白人であるため、世の中には「ウクライナから逃げてくるのは白人のはず」という思い込みがあり、今回のような差別につながりました。

さらに「黒人などの有色人種もウクライナから避難している」「彼らが避難の際に差別に遭っている」ということが知れ渡ってからも、世間では「戦争で有事だから仕方ない」とばかりに、この問題に大きくスポットが当たることはありませんでした。

しかし結局このような感覚が、白人を優先するという「白人ファースト」につながってしまっています。キーウの大学で電気通信工学を学んでいた前述のナイジェリア人の大学生Orah氏は、こう言っています。

「ほかの人と同じ状況なのに、肌の色が違うことで、違う扱いを受けるということを僕は戦争で実感した」

戦争のような有事の際、社会のマイノリティーは何かと「後回し」にされがちです。

もちろん逃げ惑う「ウクライナで多数派の白人」に何ら非はありません。それでも、戦争という非常事態のなかで避難しているところを止められたり、受けられるはずの支援を受けられないことは決して「小さな問題」ではありません。

マジョリティー側が「有事の時こそ、こういった差別が起きやすい」ということを、平時の時にも常に意識しておくことで防げる差別もあるのではないでしょうか。