――オンラインで交わされるコミュニケーションは近年、どう変わってきているのでしょうか。
日本のCMCの主役は、かつてはガラケーでした。多くの人が携帯電話を持ち、絵文字を駆使しながらメールを送り合っていました。
それが2010年代に入るとスマホを持つようになり、「LINE」が対人的なコミュニケーションの大部分を占めるように変わりました。表示がチャット形式になり、既読かどうかも分かるようになって、よりインタラクティブになったと言えます。
2014~2019年のLINEのデータを分析したところ、メッセージを送って1分以内に返信が来る割合は49%でした。ガラケー時代は約4%というデータがあります。明らかにコミュニケーションのスピードは速くなっています。
――ずいぶん速くなった印象を受けます。やり取りする文章にも変化はあるのでしょうか。
やり取りする文字量にも変化があり、短いメッセージも見られます。
例えば、同意を示す「それな」。今では会話でも使われていますが、文字ベースのLINEで先に広まり、おしゃべりにも使われるようになった特徴的な表現だと見ています。
「それ」系の指示詞のバリエーションは明らかに近年増えています。SNSは、他の人が使っている言葉が見える場面が多いですよね。
自分たち以外のコミュニティーに所属している人がどんな言葉を普段使っているのかが見えるようになったということです。
別のコミュニティーで使われている新しい言葉に触れたときに、文字ベースのコミュニケーションだとアクセントやイントネーションなどの言い方が分からなくても使いやすい。流動性が高くなっているのではないかと思います。
――「ワンチャン」という言葉について論文も書かれています。
ワンチャンは、英語の「One Chance」を省略した言葉で、「可能性は低いが成功の余地がある」といった意味合いで、主に若者を中心に使われる言葉です。
専門的には、低程度で肯定的な可能性・蓋然(がいぜん)性をあらわす副詞、と言えます。
――「この試合、ワンチャン勝てるかも」みたいな風に使われますよね。
近い使われ方をする言葉に「ひょっとして」「ひょっとしたら」がありますが、比較的長く、拍数も多いですよね。
短い言葉で言い換えられるものがなかったところに、若者を中心としてワンチャンという言葉が出てきました。
一瞬で現れて、一瞬で消える言葉はたくさんありますが、ワンチャンは比較的ずっと残っていると言えます。
外来語の副詞はきわめて珍しいのですが、「確率は低いが、ある」ということを示す短い言葉がなく、日本語の文法体系にある隙間にちょうど埋まるかたちで定着してきたのではないか、と分析しています。
――LINE以外にも、近年は多くのSNSが出てきています。コミュニケーションという点から見ると、どのような特徴がありますか。
一対一での利用が多いLINE以外にも、インスタグラムやツイッターなど、一対多数のSNSも広く使われていますね。
そこでは、特定の誰かに向けたメッセージではないけれど、「いいね」などの反応を適度に得ることができる。
あなたに向けたわけじゃないけれど、でもあなたからのリアクションが欲しい。そんな相反する感情をうまく解決できるかたちでSNSは発展していると感じます。
こうしたツールで利用者がより共感を求めやすくなっていることは明らかです。
絵文字など、テキストだけでないコミュニケーションの情報には、相手を想像するための材料が含まれています。そこではより交感的なコミュニケーションが増えるのではないでしょうか。
ただ、言葉の変化は昔から繰り返していますし、現れては消えるはやりもあります。何が本質的な変化か、見極めることが大切です。
ツールがかわっても、コミュニケーションが自分と相手との交互のやり取りであるという本質は、今後も変わらないと思います。