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世界に広がる日本の発明品「絵文字」、オンラインの真空なやり取りに感情を加える

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Twitterの絵文字。種類は豊富だ
Twitterの絵文字。種類は豊富だ

――絵文字は1990年代後半から日本の携帯電話で広く使われるようになり、その後ユニコードに収録され、世界で使われるようになりました。

絵文字は、コミュニケーションを取る際にとても効果的だという印象を私は抱いています。日本の小さな携帯端末のために発明された絵文字が世界中に広がったのは、それが便利だったからです。

ただ単に装飾的でかわいらしいだけではなく、コミュニケーションをする際、実際に目的と価値をもたらしてくれるものだったのです。そうでなければ、人々は絵文字を使おうとしなかったでしょう。

始まりはとても小さなものだったかもしれませんが、便利だからこそ世界的な存在感を獲得したのです。

絵文字がはじめて欧米で使われ出したころは、「だれが絵文字を必要とするのか?」「これは言語を破滅させるものだ」ということを言う人もいました。でも今はそんな人を見つけることはできません。

大多数の人々は絵文字をオンラインで使っていますし、絵文字の持つ価値を理解しています。絵文字は書き言葉でのコミュニケーションに、共感とつながりをもたらしてくれるものだと私は考えています。

――近年、絵文字は数を大きく増やしてきました。これまでの絵文字の変化についてはどう見ていますか。

12×12ピクセルで描かれた日本の初期の絵文字が、個人的には好きです。シンプルで抽象的。使われた絵文字がどんな感情を伝えているかに集中することができました。

ダンスならダンス、祝福なら祝福といったように。解像度が限られていたこの時期の絵文字からは、物事を代表するイメージを絵文字にする、ということが学べます。

世界中の全ての物事を絵文字にするのは不可能ですし、それが実際に使われるとも思えません。例えばワニの絵文字を作るとき、すべての種類のワニを用意するわけにはいかないでしょう。

オンライン取材に応じるジェニファー・ダニエルさん
オンライン取材に応じるジェニファー・ダニエルさん=朝日新聞社

――コミュニケーションにおける絵文字の役割について、どう考えていますか。

デジタル空間でのコミュニケーションは、通常のコミュニケーションとは異なります。読み書きと違い、ネット上でメッセージを送り合う方法は学校では教わりません。オンラインでのルールや(メッセージの)構造は変化が激しく、くだけたものになりがちです。人づてに広がっていくものでもあります。自分たちでそれを学ばなければなりません。

あなたと私は今、(オンライン会議システムで)画面越しに話していますよね。アイコンタクトを取り、うなずくと相手に肯定的だということが分かります。ところが、オンラインでメッセージのやりとりをする時、そこには何もありません。「真空」です。絵文字やステッカー、あるいは短い動画などは、それらに感情を付け加えることができます。

そして、感情はどんな時でも、すべて言葉で表せるとは限りません。

――絵文字は言語だという見方もありますが、どう考えていますか。

絵文字はデジタル空間で生まれ、そこでのメッセージのやり取りの中で発展してきましたが、基本的には他の言語に添えられることで機能しています。

絵文字を用いて誰かとコミュニケーションを取る際、8割以上はテキストと共に使われていて、単独で使われる場合もメッセージへの反応として使われているものが大半というデータがあります。その限りでは、新しい言語というわけではないでしょう。

――絵文字やコミュニケーションの未来についてはどう考えますか。

いま私が絵文字に携わっているのは、デジタル空間で人々がどうしたら自分たちのことをよりよく表現できるか、解決策を示したいからです。私たちには、(絵文字を使ったコミュニケーションで)ジャーナリストのように物事を伝えたいという願望があります。絵文字についての私の仕事とは、つまり、ストーリーテリングに関わるということなのです。

200年後の人々は、古き良き時代の古風な絵文字にノスタルジアを感じるかもしれません。オンラインでは物事があまりに早く移り変わるので、絵文字やオンラインコミュニケーションの未来がどうなるかの予想は私には難しいです。

いま人工知能が描くアート作品が注目されていますけど、半年前はあまり知られていなかったでしょう。多くの点において、私たちがオンラインでこれからどのようにコミュニケーションをとっていくのかということは、予測できません。それでも、『自分のことを理解してほしい』という欲求は不変。どんなかたちのコミュニケーションでも、その点は今後も変わらないでしょう。