――ワインの味の違いがわかりません。おいしいワインって何でしょうか?
ワインは農産物です。いいワインは、気候、風土、土壌などの条件が整った良質のブドウからできます。「おいしい」「まずい」は嗜好(しこう)なので、人によって違います。専門家が「おいしい」といったワインでも、みんながおいしいと感じるわけではありません。
――初心者が味を見極められるようになる方法はありますか?
まず、大きく特徴の違う2種類のワインを飲み比べてみてください。違いがわかるようになれば、似たワインを飲み比べるようにします。味わいの基本は、「甘み」「酸味」「苦み」という三つの味覚です。「渋み」や「アルコール」の感覚も意識しましょう。
――レストランでワインを頼むと、グラスに少しだけ注がれますよね。どうすればいいのでしょうか?
「ホストテイスティング」といって、ワインの香りや味を確かめるものです。コルク汚染などで劣化していると取りかえてもらえます。ただ、同じ銘柄の違うボトルが原則。「好みの味ではないから、別の銘柄のワインにしてほしい」というのはダメです。
ワイン、起源は約7000前
――世界で最も高いワインは何ですか?
難しいですね。1本500万円、600万円というのはありました。フランスのロマネ・コンティなどは100万円以上の値がつきます。
また、チャリティーオークションで「世界に1本」というワインが出てくれば、さらに値段が上がります。最近、中国などでは異常に高い値がつくこともあります。
――最も古いワインは?
ワインの起源は、確認されている範囲では約7000年前のイラン周辺といわれます。いまでも飲めるもの、つまり、市場で売買可能なもので最も古いものは18世紀後半にポルトガル領マデイラ島でつくられた酒精強化ワイン「マデイラ」です。
普通のワインだと、コルク栓が本格的に使われ始めた19世紀に入ってからのものでしょう。
――古いワインも、たくさん飲んでこられたでしょうね?
18世紀後半のマデイラは、色も香りも限りなく紹興酒に近い。口に含んだ瞬間からふくよかな甘みが広がります。うまみ、苦みも伴いますが、酸味がしっかりしているのでバランスがいい。
ちなみに、100年以上たった状態のいいワインは、みんな土のような風味がします。いい条件で熟成すると、だんだん土に戻るような印象です。
ただ、いい条件は難しい。コルクの寿命は25年前後といわれており、自宅で保存していると50年、100年は難しいでしょう。メーカーでは、20年~25年周期でコルクを打ち替えています。
――印象に残るワインは何ですか?
仕事として世界中の多くのワインを飲んでいると、「これがいい」というのは難しい。味わいというよりも、記憶とか思い出とか、ワインを飲んだ際の環境の影響が強いのではないでしょうか。思い出深い日に飲めば、1000円のワインだって印象に残るでしょう。
私も19歳の時、やっとの思いでお金をためてフランスに行きました。ブルゴーニュに着いた日に買って飲んだ赤ワインはいまも忘れられません。
ワインに合うのはカレー
――ワインに合わない料理は?
塩辛やキャビアなどの魚卵、アンチョビなどはそのままでは合わせづらい。酸味や香り、苦みや甘みが極端に強い食品は難しいですね。若いワインは果実の風味が強いので、熟成が進みすぎたり、磯の香りが強かったりする食べ物も合わせにくい。
辛いものは意外に合う。カレー、タイ料理、メキシコ料理にも合いますよ。
――ワイン選びで苦労したことは?
あります。でも、ワインと料理を合わせようと努力するのは楽しいし、料理のバリエーションも広がります。たとえば南仏では、アンチョビを料理に使う。調理の工夫しだいでワインに合うのです。
納豆だって、ワインにどうやったら合うのかを考えれば、新しい料理が広がるかもしれません。
――ワインは体にいいそうですね。
ある研究家が「赤ワインには老化した細胞を復元する成分が含まれる」と言っていました。でも、ワインで効果を期待するには毎晩1000杯以上も飲まないといけない(笑)。
逆に、食べ物には、取り過ぎると体に悪い成分が多かれ少なかれ入っている。ワインも料理も、食卓を豊かにするために楽しんだ方がいい。
――先月、今年のボージョレ・ヌーボー(仏ボージョレ地方の新酒)が解禁されましたね。
日本みたいに騒いでいる国はないですよ(笑)。1980年代、「世界で最初に飲める」「フランスより8時間早い」とメディアが取り上げ、爆発的なブームになりました。
2005年ごろまで輸入量は増え続け、アメリカを抜いて世界一です。日本は現地で質のいいものを買っているので、日本で飲むボージョレは、フランスのスーパーで売っているものより一般的に上質でしょう。
――もうすぐクリスマス。彼氏や彼女と、ワインで盛り上がるアイデアを教えてください。
クリスマスにカップルで過ごすなら、ワインがなくても勝手に盛り上がるでしょう(笑)。ワインと料理の相性が、会話のネタになりやすい。ふだん、家族がバラバラに生活していて、なかなか共通の話題がないとしても、同じ時間に、同じ物をみんなで食べ、どの食べ物がワインと合うか合わないかを話して盛り上がる。
外で買ってきたフライドチキンや握りずしでもいいんです。家族の楽しい時間を過ごせるよう、工夫をしてみてはいかがでしょうか。