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黒人女性が自分のシャンパンブランドをニューヨークで実現 批判や拒絶に「質で勝負」

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
試飲スペースの基調色は自社の最高級シャンパン「グラン・レゼルブ」のラベルにあわせネイビー・ブルーにしたと語るマルビナ・ロビンソン
試飲スペースの基調色は自社の最高級シャンパン「グラン・レゼルブ」のラベルにあわせネイビー・ブルーにしたと語るマルビナ・ロビンソン=Sage East/©The New York Times(写真はいずれも2022年6月10日、ニューヨーク・ブルックリンで撮影)

マルビナ・ロビンソン(45)がシャンパンの虜(とりこ)になったのは、大学生のときだった。財布はいつも軽かったが、友人たちとお金をかき集めては、1本、2本と買っていた。特別な理由なんてなかった。ただ、楽しみたかった。

以来、追い求めてきたことがある。自分のシャンパンブランドと、それを試飲できる場を持つことだった。

ニューヨークのウォール街で20年以上も働きながら、2020年2月についにそのブランドを手にした。「B. Stuyvesant Champagne」。自分が育ったニューヨーク・ブルックリンのベッドフォード・スタイベサント地区にちなんで名付けた。

そして、2022年6月30日、ブルックリンのネイビーヤード(海軍工廠〈こうしょう〉)に念願の自分の店を出した。広さ2千平方フィート(186平方メートル弱)。試飲スペース兼本社だった。

「ちょっとずつ飲んでは、おしゃべりしよう」

自社製品を呼び物にした、定期的な集いをすぐに始めた。そこからほかのイベントにつながれば、という期待を込める。とくに、親密さ漂う結婚式は大歓迎だ。

本社内のシャンパンの試飲スペース
本社内のシャンパンの試飲スペース=Sage East/©The New York Times

ロビンソンは、このビジネスを一から築き上げた。足を使った仕事だけではない。資金も自前で工面した。

「投資してくれる人なんていなかった。ベンチャーキャピタルとも無縁だった。自分だけが頼りだった」とロビンソンは話す。

自社製品は、フランスのシャンパン産地の一つエペルネーで生産され、米国に輸入されている。今はブランドの種類も増え、レゼルブ(reserve)やグラン・レゼルブ(grand reserve)、ロゼもある。

独自のシャンパンブランドを持つ黒人女性は、そうはいない。だから、一部同業者にとっては、信じられないという思いが先に立つ。

マルビナ・ロビンソン
ロビンソン=Sage East/©The New York Times

「展示会に出ると、『これって、本当のシャンパン?』と聞かれることがある」とロビンソンは語る。「やっと、そんな質問も聞き流せるようになった」

「起業家には、疑い深い人に付き合っているだけの時間がない」という。本社を今年中にきちんと整えないといけない忙しさの中で、ロビンソンはシャンパングラスを中心としたアニブラム(Anivram)ダイニングコレクションと名付けた商品ラインを立ち上げた。

関連事業は、ほかにもある。ニューヨークのロウアー・マンハッタンにあるロニ・スーズ(Roni-Sue’s)・チョコレート店と提携して、自社製シャンパンを入れたトリュフチョコを開発。さらには、自社製品を売るブランド入りの自動販売機も計画している。

「確かに平坦(へいたん)な道ではなかった」とロビンソンは振り返る。「でも、築き上げれば、客も来てくれる。必要なのは、一貫したビジネス手法で目標に向かってたゆみなく進むこと。そうすれば、どこかの時点で報われる」

仏エペルネーで生産され、米国に輸入されているB. Stuyvesantのシャンパンボトル
仏エペルネーで生産され、米国に輸入されているB. Stuyvesantのシャンパンボトル=Sage East/©The New York Times

以下は、本人との一問一答だ。

――事業を立ち上げ、経営を始めたときに苦労したことは。

まず、相談できる人がだれもいなかったことだ。女性で黒人だし、門前払いにされることが多く、正直、頼れる人があまりいなかった。評価も散々だった。「おかど違いの分野では」「舞台を間違えている」「あなたの利点を生かせない」

そんなときは、こう自分にいい聞かせた。「では、本当にそうなのか。自身で答えを見つけよう」と。実際に、そうし続けてきた。

ブドウ園にも三つか四つから提携を拒まれた。それでも平気だった。ここは、自分に合ったところではないと考えた。そのうち、気の合う女性のブドウ園主と出会った。質問にはすべて答えてくれ、とても好感を持てた。こちらがやろうとすることにも、柔軟な姿勢を示してくれた。それがとくに気に入った。

見かけだけで、人を判断する人がいる。そんな中でやっていくには、自分の力を証明するしかない。そもそも、こちらの方が世間の基準と違うから、常に試されることになる。

小売業者が接触してきたとしても、最初に聞くのは「なぜB. Stuyvesantを買わなければいけないのか」ということだ。

そんなときは、「好きなものを買う選択肢はそちらにある」と答えることにしている。「女性だから、黒人だから」と自分のブランドを売り込むつもりはみじんもない。ただ一つ、製品の質で勝負したい。

自社製品のボトルを持つロビンソン
自社製品のボトルを持つロビンソン=Sage East/©The New York Times

――試飲の場兼本社の構想を説明してほしい。

自分自身で設計した。壁は、当社の最高級シャンパンであるグラン・レゼルブのラベルの色に合わせてネイビー・ブルーにした。この銘柄こそ、自分が自信を持って前に進むことができた究極の製品だった。

現場は海軍工廠の古い建物なので、フロアも作り直した。とても面白い外観だったが、グレーが基調であまりきれいではなかった。改築には、かなりの時間とお金をかけた。

みなさんがうちの催しに来てくれるなら、唯一無二の体験をしてほしい。だから、一つとして同じ催しにはしない。

試飲では、私自身が案内役になる。フランスでの自分の冒険について話し、自社製品以外のシャンパンも薦める。だって、素晴らしいシャンパンが、本当にたくさんあるから。

――シャンパンについてもっと知ってほしいことは。

グラスの大切さだ。これが正しくなければ、味わい尽くすだけの体験はできない。幅広の浅いグラスだと、泡が力を発揮しきれない。泡には芳香があり、それが味わいを引き立ててくれる。

だから、チューリップ・グラスか標準的な白ワイン用のグラスがよい。それなりにふくらんでいるが、広すぎはしないからだ。

そんなグラスだと、シャンパンは中で呼吸できる。口が広すぎないので、特上のシャンパンが早く温まったり、早く気が抜けたようになったりすることもない。

――もうやめようと思ったことはないのか。

いつもそう思いながら、やり続けてきた。この新しい試飲スペースを作るときも、かなり不安だった。

美しい空間を新たに創り出すって、とてもお金がかかるからすごく心配した。客足がまばらになると、少しやきもきする。「大変、売れ行きが落ちている」って。

どんな商売にも、波はつきものなのに。そんな気持ちの揺れはある。でも、シャンパンでお祝いをする人を見ると、こちらも元気が出てくる。シャンパン挙式の申し込みが、この2週間で三つもあった。

ロビンソン
ロビンソン=Sage East/©The New York Times

――結婚式ではいろんなリクエストがあるのか。

さまざまな形のリクエストがある。招待客や花嫁、花婿の付添人用に化粧箱を作るよう求められることが多い。

2021年の大みそかの挙式では、新年にシャンパンで乾杯するために大きなボトルを何本も頼まれた。

別の式では、招待客一人一人に木の箱に入ったボトルを出した。箱には、それぞれ好きな言葉を書き込めるカスタムスタンプが押してあった。

――なぜ、結婚式といえばシャンパンなのか。

シャンパンはお祝いにピッタリだと受け止められている。このボトルをポンと開ける。泡が出てきて、プツプツ音がする。みんなで歓声をあげる。

だから、結婚式とは相性がいいのだろう。もっとも、私個人はどんな機会でもよい。飲む時と場所を選ばない飲み物と思っている。

――今から10年後だと、何に乾杯しているだろうか。

全米と世界中にすっかり広まったB. Stuyvesantに乾杯しているだろう。なにしろ、そうなるまで何年も苦労してきたので、気分は満ち足りているに違いない。

使うグラスは、もちろんAnivramダイニングコレクションのもの。

それに、10年もすれば、全米バスケットボール協会(NBA)にも乾杯しているだろう。チャンピオンシップがかかった試合の勝者を祝うのに、B. Stuyvesantを選んでくれたことに。10年後に乾杯するのは、まあそんなところだろうか。(抄訳)

(Jenny Block)©2022 The New York Times

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