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北朝鮮が弾道ミサイル発射や砲撃を連発、なぜ? 挑発や開発以外の意外な理由とは

北朝鮮インテリジェンス 更新日: 公開日:
朝鮮人民軍前線長距離砲兵区分隊と空軍飛行隊の火力攻撃訓練
2022年10月6日に行われた朝鮮人民軍前線長距離砲兵区分隊と空軍飛行隊の火力攻撃訓練。朝鮮中央通信が同月10日に配信した=朝鮮通信

北朝鮮が11月2日に発射した弾道ミサイル1発は、海上の軍事境界線にあたる北方限界線(NLL)を越え、韓国側の公海に落下した。韓国領の鬱陵島では空襲警報が鳴り渡った。

ただ、これは休戦協定違反ではない。朝鮮半島分析に携わった元自衛隊幹部は「NLLは国連軍司令官が一方的に宣布したもので、休戦協定にNLLは規定されていません。危険な行為ですが、休戦協定違反ではありません」と語る。

だから、国連軍司令官を兼ねる在韓米軍司令官も過激な対応を避けた。

情報関係筋によれば、北朝鮮軍が航空部隊や戦車部隊の前方展開を始めたり、弾薬や食糧の集積を始めたりした兆候は出ていない。

部隊の間の通信量が増大している事実もなく、大規模な軍事行動を起こす兆候はない。

今後はわからないが、少なくとも現時点で、北朝鮮が戦争を仕掛ける考えがないことは明らかだ。

バイデン米政権は10月27日に発表した「核態勢の見直し(NPR)」で、北朝鮮が核攻撃を加えれば、金正恩政権は終末を迎えると警告した。

米韓国防相も11月3日、この警告を再度確認した。北朝鮮には、きちんと米韓のメッセージが届いている。

では、北朝鮮は何をしたいのか。

金正恩総書記は2021年1月の党大会で超大型核弾頭の開発など、国防力強化5カ年計画を進めている。

新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の試射を指導する金正恩・朝鮮労働党総書記。朝鮮中央通信が配信した
新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の試射を指導する金正恩・朝鮮労働党総書記。朝鮮中央通信が配信した=2022年3月、朝鮮通信

11月3日に発射したとみられる大陸間弾道弾(ICBM)「火星17」はこの計画に沿った実験とも言えるが、他のミサイルや砲撃は、純粋な開発目的とは言えないだろう。

脱北した朝鮮労働党の元幹部は「内部を締め付け、緊張させたいのではないか」と語る。

北朝鮮は国際社会による制裁や災害、新型コロナウイルス対策での国境封鎖で、経済がどん底の状態にある。

米国で商業衛星などの情報を分析しているジェイコブ・ボーグル氏によれば、新型コロナの感染が始まる前の2019年には、年間2万3260平方メートルも増えた市場面積が、2021年はたった630平方メートルしか増えなかった。

元党幹部は「北朝鮮では子どもの頃から、米国がいつ攻め込んでくるかわからないという教育を受けている。米朝関係が緊張すれば、北朝鮮の市民は本能的に身構えるようになっている」と語る。

ただ、北朝鮮の公式メディアは、11月2、3両日のミサイル発射について報道していない。元党幹部は「緊張させたい相手は、一般市民ではなく、もっと金正恩(総書記)の身近にいる連中ではないか」と語る。

北朝鮮では今年春、干ばつが続いたため、穀倉地帯の黄海道などで田植えの時期が遅れた。すでに北朝鮮では収穫期に入っているが、今年も数十万トン規模の食糧不足に見舞われそうだ。

北朝鮮は最近、軍糧米を何度か放出している。中国などからの輸入が滞れば、一般市民どころか、高位層の生活にも影響が出るかもしれない。

一方、北朝鮮は日米韓など国際社会には、交渉に応じる姿勢は示していない。元幹部によれば、2019年2月のハノイ米朝首脳会談で、金正恩氏はトランプ米大統領との交渉に失敗した。

この失敗を受け、北朝鮮は、従来の「行動対行動」戦術ではなく、北朝鮮の要求が一方的に認められない限り、交渉に応じない方針を決めたという。国際社会が北朝鮮の核保有を認めれば、具体的に交渉するという意味だ。

安易に交渉に入れないため、これまでの「瀬戸際戦術(チキンゲーム)」より、さらに激しい行動を取るしかないのだという。

もちろん、国際社会が、そんな都合の良い主張を聞くわけもない。

切羽詰まった北朝鮮が、次に取る行動は何か。7回目の核実験か、2010年11月に起こした韓国・大延坪島への砲撃のような小規模軍事行動か――。

今はまだわからない。