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「北朝鮮が新型潜水艦、弾道ミサイルも搭載可能」韓国で報道 脅威の程度はどう変わる

北朝鮮インテリジェンス
新たに建造中の潜水艦を視察する金正恩氏ら。朝鮮中央通信が2019年7月23日に伝えた=同通信ホームページから

北朝鮮では昨年5月、正恩氏も参加して党中央軍事委員会拡大会議が開かれた。朝鮮中央通信は「核戦争抑止力をより一層強化し、戦略武力を高度の臨戦状態で運営する新方針が示された」と伝えた。北朝鮮を逃れた元党幹部によれば、これは新しいSLBM部隊の創設を意味するという。

SLBMの保有は、核抑止力の強化を意味する。仮に米国が平壌を核攻撃しても、北朝鮮がSLBMで報復できる態勢を維持できれば、簡単に攻撃を加えられないからだ。

北朝鮮の保有する潜水艦は、旧式のロメオ級(1800トン級)など約70隻。潜水艦部隊は、西海(黄海)と東海(日本海)の両海軍司令部にそれぞれ所属してきた。ところが、SLBMの開発が北朝鮮軍での潜水艦部隊の位置づけを大きく変えた。北朝鮮は2016年8月、日本全土を射程に収める約2千キロのSLBM発射に成功。19年10月にも、新型SLBM「北極星3」(射程約2千キロ)の発射にも成功。20年10月に新型の「北極星4」、今年1月には更に大型化した新型「北極星5」をそれぞれ公開した。

SLBMとそれを搭載する潜水艦は核戦略を担うため、海軍ではなく、最高司令部(最高司令官=金正恩氏)の直属か、14年に戦略ロケット司令部から拡大改編された戦略軍に所属することになるという。

平壌の金日成広場で1月14日、軍事パレードに登場した潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)とみられる兵器。「北極星5」と記されている。朝鮮中央通信が配信した=朝鮮通信

一方、朝鮮中央通信などは19年7月、金正恩氏が新型潜水艦を視察する姿を写真とともに報道。「朝鮮東海作戦水域で任務を遂行することになり、作戦配備を控えている」とも伝えた。

同通信が配信した潜水艦の写真を分析した韓国の軍事専門家は、ロシアのゴルフ級潜水艦(3千トン級)を改造した可能性が高いとみる。

SLBMは安全上、水深50メートルより深い場所から発射する必要があり、そのためには3千トン級の潜水艦が必要だという。朝鮮中央テレビが報じた写真では、潜水艦上部の部分にモザイク処理がされていた。この専門家は「ここがSLBMの発射管だろう。ゴルフ級であればSLBMを3基搭載できるはずだ」と語った。

北朝鮮はどうやってゴルフ級潜水艦を手に入れたのか。北朝鮮の潜水艦技術は高度とはいえず、1800トン級の建造が限界とされてきた。船体の直径が大きくなるほど、より高い水圧に耐える技術が必要になるという。

新たに建造中の潜水艦を視察する金正恩氏。朝鮮中央通信が2019年7月23日に伝えた=同通信ホームページから

専門家らが注目するのが、1990年代前半、ウラジオストク港に係留されていたゴルフ級潜水艦が姿を消した事件だった。北朝鮮がそのまま自国内の港に引航し、保存しているという未確認情報が飛び交っていた。

衛星情報などで、北朝鮮が2017年ごろから、日本海側の咸鏡南道新浦に新たな潜水艦の船台を作っている事実が確認されてきた。16年8月にSLBMの実用化にメドがついたため、保存しておいたゴルフ級潜水艦の改装が始まった可能性があるとみられていた。ゴルフ級潜水艦はディーゼルエンジンだが、低速で進めば9500キロの航行が可能とされる。米国西海岸にまで到達できる距離だ。

情報関係筋によれば、最近、新浦で船台を位置を変える動きが確認されており、新たな潜水艦が進水する可能性が取りざたされている。ただ、潜水艦の本体は確認されておらず、旧式の潜水艦の可能性も残されているという。

また、日本の自衛隊関係者は異口同音に「北朝鮮が3千トン級の潜水艦を就役させても、それほどの脅威にはならない」と語る。関係者らの間では、「北朝鮮潜水艦を漁船とよく間違える」という冗談が飛ぶ。スクリュー音がうるさく、ソナーで簡単に探知できるという意味だ。北朝鮮の潜水艦が行動を始めた瞬間に発見できるという。

また、北朝鮮潜水艦は過去、朝鮮半島近海を遠く離れて活動した実績がない。潜水艦が航行するために必要なデータを持っていないだろう。データがなければ、潜水艦が敵のソナーの探知を避けて行動するために必要な、海中の塩分濃度や潮流、海溝の存在などを正確に把握できない。

むしろ、北朝鮮のSLBM搭載潜水艦が半島近海で行動することは、韓国への脅威になる。韓国軍や在韓米軍のミサイル防衛は、北朝鮮本土からの攻撃を前提にしているからだ。

では、北朝鮮がSLBMを発射する可能性はあるのだろうか。

米政府元当局者は「北朝鮮がSLBMを発射すれば、バイデン米政権は態度を硬化させるだろう。北朝鮮には得るものがない」と語る。SLBM発射を黙認する可能性があったトランプ前政権とは異なり、国連制裁の強化を訴えていく可能性が高い。

一方、金正恩氏は4月8日、党の末端幹部を集めた党細胞書記大会で「苦難の行軍を決心した」と演説した。「苦難の行軍」は、金日成主席らが1930年代の抗日闘争で味わった苦難や、1990年代に大量の餓死者を出した状況などを受け、北朝鮮が政治的な意義を持たせるために使ったスローガンだ。北朝鮮の経済状況がそれだけ厳しいことを意味している。

正恩氏は権力を継承した直後の2012年、「人民が再び、腰のベルトを締め上げなくても良いようにする(飢えないようにする)」と約束していた。北朝鮮は金正日総書記の時代には、最初の核実験を行った2006年10月直後、「核戦力は数個師団に相当する」「今後は軍事費を大幅に削減し、民生分野に使う」とも宣伝していた。

正恩氏の「苦難の行軍」演説は、北朝鮮市民の反発や失望を買い、自身の政治的権威をおとしめる結果になりうる。そんな危険を冒す必要があるほど、正恩氏を取り巻く政治環境は厳しいのだろう。

それほど経済が疲弊しているというのに、北朝鮮がSLBMや核開発をやめないのは、国内事情が影響している。100万人以上の兵士を抱える軍部や軍事開発に携わる関係者らの意向に配慮せざるを得ないからだ。北朝鮮は核実験以降も、軍を縮小する動きを一切見せていない。

もし、北朝鮮がSLBMを発射する事態に至れば、それは米国への牽制というよりも、北朝鮮内部に広がる深刻な混乱の結果だと言えるだろう。