米軍機の存在をわかりやすい形で可視化したい――。
沖縄県に住む男性は5年ほど前、そんな思いからツイッターのアカウント「OHアラート」を開設した。
米軍のオスプレイやヘリコプターが飛ぶ姿を見たり、音を聞いたりした人が、自分のツイッターで「#OHアラート」のハッシュタグを付けて時間や場所を投稿する。
これらが男性のOHアラートのアカウントからリツイート(再投稿)されることで情報が時系列に並んでいく。
「普天間向きに低いオスプレイ。今日多い」「ヘリ飛行音 西から北へ」……。
日時や市町村名、中には写真や動画付きの投稿もある。これまでに約250人が飛行情報をつぶやいた。
日常的に20〜30アカウントが情報を寄せ、ツイート・リツイートの総数は15万件にのぼる。
きっかけは2017年12月、宜野湾市内の保育園と小学校に米軍機の部品や窓が落下する事故が起き、翌1月にも県内で不時着が続いたことだ。原因もはっきりしないまま飛行は再開された。
「米軍機が頭の上を飛んでいることに、私自身を含め、みんな慣れてしまっている。何かやらんと」
沖縄の空を米軍機が飛んでいるのはみんな知っている。でも、どのくらいの数の機体が、いつ、どこへ向かうのか、市民にはわからない。ツイッターで米軍ヘリやオスプレイの目撃情報を求めた。
情報が集まるにつれて、日米政府が「必要最小限にする」と合意した午後10時を過ぎても米軍機が飛び続けていること、「できる限り避ける」とした人口密集地での飛行が行われていることなど、肌で感じてきたことが、より「見える」ようになったという。
米軍側の環境レビューなど、公開されてきた飛行ルートに関する日米の資料とも突き合わせ、まとめや分析、さらに飛行予想を発信するアカウントも開設。数人の有志で運営を続ける。
地元紙で取り上げられるなど、取り組みの認知度は少しずつ高まっている。県が情報収集の一環でOHアラートの投稿を参考にするケースも明らかになっており、昨年9月に米軍機による照明弾の誤射事故が起きた際は、誤射と思われる画像をOHアラートで確認していた。
日本政府の説明と、実際の米軍機の飛行に相違があることや、日米合意が守られていない現状など、「もっと詳細に検証したい気持ちはある」と男性はいう。
だが、人手もお金も時間もかかる。「すぐ何かが変わるとは初めから思っていない。細く長く続け、少しでも多くの人に参加してもらいたい」
ロシアのガス施設をネットで注視
日本からウクライナやロシア国内をウォッチしている人たちもいる。
匿名を条件に取材に応じた、IT企業に勤めるシステムエンジニアの30代の男性は、2月24日のロシアによるウクライナ侵攻以後、情報への関わり方について、考えが変わったという。「ウクライナへの同情はあったが、遠く離れた日本から自分にできることはないと思っていた」
雑学好きで職業柄ネットで交わされる話題にも詳しい。でも基本的にツイッターは「見る側」だった。
だが、隣国に武力で攻め入るロシアの行動を「目の当たりにし、自分がわかることは発信しなくては」と考え始めた。
機械翻訳を使って現地メディアやツイッターから情報を集めるうち、ソーシャルメディアの情報などから戦況をグーグルマップにまとめて共有する海外のオシントの取り組みを知った。
米航空宇宙局(NASA)などが公開する森林火災のモニタリングのために開発された衛星データに着目し、砲撃箇所などを検証している人たちもいた。
攻撃を受けたウクライナ国内の分析は広く行われていたが、男性の関心はロシア側の補給線やインフラに向いた。インフラの支障から、戦況への影響がわかるかもしれない。そう考え、ロシア国内のガス田やパイプラインの状況を注視し始めた。
衛星画像からロシア国内で火災が起きているとみられる地点を割り出し、公開されているパイプラインの地図で位置を確認。さらに気象情報から風向きなどを調べてみた。
すると5月末、異変に気づいた。ロシア国内で黒煙が上がる様子があり、その後、このパイプラインの火災とされる現地の動画がソーシャルメディアに投稿された。
一連の分析をツイッターに投稿するうちにやりとりする仲間が生まれ、8月、ツイッターにグループを作った。メンバーの一人が、分析した火災などの情報を地図や表に集約できるようにし、分析に使えるツールの情報なども互いに共有し始めた。
参加者は約600人になり、これまでに、ロシア国内を中心に80件超の火災などの観測報告が記録された。
「点」の情報を共有し、議論を積み重ねることで、ロシア国内の変化が見えてくるかもしれない。
「ロシア国内の情報が見えづらいからこそ、衛星データなどの観測や都市部以外の地元ニュースなどを深掘りする価値があるのではないか」と男性は言う。観測結果の発信やロシアの地方ニュースの紹介を続けている。
男性は、公開されている情報を大量に集め、人海戦術で特定していく手法は、以前から日本でも行われてきたといい、「(ネット掲示板の)『2ちゃんねる』の文化と通じるものがある」とも指摘する。