ドイツの国旗をモチーフにした鮮やかな黒、赤、黄色の缶に「Simply Made in Germany(ドイツ製)!」の文字。こんなビールが今月から中国の大手スーパーの店頭に並んだ。味は3種類。ドイツ最大手、エッティンガー社のビールだ。
ドイツのビールはこれまで、世界市場での存在感はあまり大きくなかった。輸出量では「ハイネケン」ブランドを擁するオランダを下回る年もあり、輸出先もEU域内が多い。
小さな醸造所が多く、世界の巨大ブランドが入り乱れる新興国市場では、名前をきく機会は少なかった。
エッティンガーはドイツ国内では8年続けて販売量首位。主力は500ミリリットル入り20本で5ユーロ前後(約700円)という低価格帯の商品だ。1990年代後半まで、海外販売はほぼゼロ。「国内でもうけが出ているので、他国に売る必要なんてないと考えていたのです」。国際事業担当役員のヤン・ストゥールケンはこう話す。
だが、国内のビール消費量が低迷するなかで、輸出拡大に目が向き始めた。ハイネケンが、国内外でドイツビールだと思われていることを知ったのも、ショックだったという。1999年に国際事業部門を立ち上げ、いまはイタリア、オーストラリア、中国、日本など、約100カ国に輸出するまでになった。
ストゥールケンは、輸出拡大にあたって「ドイツのビール純粋令が強みになっている」と話す。
ビール純粋令とは1516年に当時のバイエルン公ヴィルヘルム4世が発布した法律だ。ビールの原料を大麦とホップと水に限ると命じた。
当時は酵母の働きが知られておらず、また小麦はパン向けとしてビールに使わないようにとの含みもあったという。その後、酵母と小麦が付け加わったが、原料を「麦、ホップ、酵母、水」に限るとする「純粋令」は今もドイツでは有効だ。
ドイツ以外では、トウモロコシやコメ由来のデンプンを使ったり、果物やハーブ、はちみつを加えたりしたビールがいくらでもある。純粋令に縛られたままでは不利にならないか、という懸念もエッティンガー社内にはあった。
ところが実際の反応は逆だった。食品安全への意識が高まるなか、ドイツビールは原料が明確で安心だと各国で高い評価をうけた。特に、粉ミルクへの有害物質混入問題などが表面化した中国からは強い引きがあるという。