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安倍晋三元首相の国葬、G7首脳の参加はゼロ 弔問外交は不発?日本の「落日」ぶり露呈

揺れる世界 日本の針路 更新日: 公開日:
演説する安倍晋三元首相
演説する安倍晋三元首相=2022年7月8日、奈良市

岸田文雄首相は9月26日午後、弔問外交をスタートした。27日の国葬には、インドのモディ首相、カンボジアのフン・セン首相らが出席する。その一方、カナダのトルドー首相もハリケーン対策のために欠席を表明したため、主要7カ国(G7)から参加する首脳はゼロになった。

安倍氏の国葬とよく比較されるのが、1989年に崩御した昭和天皇の大喪の礼だ。このときも大勢の賓客が海外から訪れたが、特に米国のジョージ・H・W・ブッシュ大統領やフランスのミッテラン大統領など大物の参加が話題になった。

「大喪の礼」に参列した各国首脳。前列奥からミッテラン仏大統領、ワイツゼッカー西独大統領、ブッシュ米大統領夫妻、カウンダ・ザンビア大統領、スハルト・インドネシア大統領
「大喪の礼」に参列した各国首脳。前列奥からミッテラン仏大統領、ワイツゼッカー西独大統領、ブッシュ米大統領夫妻、カウンダ・ザンビア大統領、スハルト・インドネシア大統領=1989年2月24日、新宿御苑

自民党のベテラン議員は「戦前、戦中、戦後の目撃者であり、生き証人だった昭和天皇と、いくら首相在職最長期間を誇ったといえ、政治家の1人である安倍氏を比べるのは可哀想だ」と語る。

同時に、この議員はこうも話した。

「当時と比べ、日本の国力がガタ落ちしたことは、まごう事なき事実だ」

1989年当時の日本は、バブル経済がはじけた時期にあたったが、まだまだ国力に余裕があった。 その象徴が政府の途上国援助(ODA)だった。国際協力機構(JICA)のホームページにはこう紹介されている。

「日本のODA実績は、1970年代、1980年代を通じて増加、1989年にはアメリカを抜いて初めて『世界最大の援助国』になりました。その当時の援助総額は約90億ドル。その後も1990年を除き、2000年までの10年間、日本は世界最大の援助国でした」

まさに、ODAを武器にした「日本外交華やかなりし時代」だった。

外務省の元幹部は当時を思い出してこう語る。

「経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)でよく欧米諸国からやっかみを含んだ嫌みを言われました」

欧米諸国は「日本人は英語もできず、その国の実情に合わない支援をしている」「全部日本企業を潤わせるためにやっている」といった不満をぶつけたという。その絶頂期に行われた大喪の礼だったから、弔問外交にもさらに意味が加わったことだろう。

ところが、その後の日本はどんどん国力が衰退していく。JICAホームページにはこうある。

「それが2001年にアメリカに抜かれて第2位へ、2006年にはイギリスにも抜かれ第3位、そして2007年には、ドイツ、フランスにも抜かれ、ついに第5位へと転落してしまいました」

外務省ホームページによれば、日本の2021年度ODA実績額(暫定値・支出総額ベース)は約219億ドル。国別の支援額順位こそ3位だったが、1位の米国(約425億ドル)、2位のドイツ(約350億ドル)には大きく水を空けられた。

国際社会は生き馬の目を抜く世界だ。「金の切れ目が縁の切れ目」という現実がある。

例えば、1970年代までアフリカ諸国約50カ国のうち、30カ国以上に大使館を開設し、アフリカとの密接な関係を誇った北朝鮮がそうだった。

金日成主席のフランス語通訳を務めた高英煥・元韓国国家安保研究院副院長によれば、金日成は当時、会談するアフリカの首脳が「金日成主席万歳」と言えば、気前よくスタジアムや大統領宮殿などをタダで建設してやったという。

金日成氏と高英煥氏
金日成氏(左)と高英煥氏=朝日新聞社

ところが、北朝鮮の経済が悪化すると、アフリカ諸国も冷淡になった。高氏らは1988年のソウル夏季五輪の開催を巡り、アフリカ諸国に不参加を呼びかけたが、ほとんどの国は「欧米からの支援が必要だ」「北朝鮮は、欧米の代わりに我々を支援してくれるのか」と言って、北朝鮮の要請を無視したという。

もちろん、国際社会はカネだけでは割り切れない。今回の弔問客の顔ぶれをみればよくわかる。

豪州からターンブル氏を含む首相経験者3人とアルバニージー首相が出席する。外務省関係者は「豪州は今、中国との関係が最悪の状態。米国をアジア太平洋地域につなぎとめるためにも、日本との協力が必要不可欠なのです」と語る。

日米豪印首脳会合に臨む岸田文雄首相(右)とオーストラリアのアルバニージー首相
日米豪印首脳会合に臨む岸田文雄首相(右)とオーストラリアのアルバニージー首相=5月、首相官邸、山本裕之撮影

同じく国葬に出席するインドのモディ首相は、生前の安倍氏と親交があったことに加え、インド独自のバランス外交を展開する思惑があるのだろう。

インドは最近、日米豪印の安保対話「QUAD」に参加する一方、ロシア軍が主導したボストーク合同軍事演習に参加するなど、独自外交を推進している。ただ、こうした国々は自分の国益に沿って動いているに過ぎない。

高速鉄道の起工式典で、演説後に手を振る安倍晋三首相(左)とインドのモディ首相
高速鉄道の起工式典で、演説後に手を振る安倍晋三首相(左)とインドのモディ首相=2017年9月、インド・アーメダバード、越田省吾撮影

高英煥氏によれば、朝鮮労働党大会が開かれたとき、当時、仲が悪かったベトナム共産党が、招待状も出していないのに、参加する考えを伝えてきたという。

北朝鮮外務省や金正日総書記らは「適当な事を言って追い返そう」と考えたが、金日成が「ただでさえ、わが国から離れていく国が多いというのに、なぜそんな真似をするのか」と叱ったという。

今回の国葬には、お隣の韓国からは韓悳洙首相が出席する。報道によれば、岸田文雄首相は今月、ニューヨークで尹錫悦大統領と渋々面会したようだが、今回、日本政府は韓首相にどのような対応をするのだろうか。

岸田文雄首相(右)は韓国の尹錫悦(ユン・ソン・ニョル)大統領と懇談した
岸田文雄首相(右)は韓国の尹錫悦(ユン・ソン・ニョル)大統領と懇談した=9月21日(日本時間9月22日)、内閣広報室提供

また、中国からは全国政治協商会議(政協)の万鋼副主席が出席する。大喪の礼に出席した、銭其琛国家主席特使(外相)に比べれば、明らかに格落ちだろう。

先の自民党ベテラン議員はこう語った。

「一部の強硬派は、日中首脳会談や外相会談をやるなと騒いでいるが、そんなことを言っていて良いのかね。1989年当時と比べ、中国にとって日本は重要な国ではなくなりつつあるというのに。こちらが会ってくださいと言っても、会ってもらえない時代も、もうすぐそこだ」

安倍晋三元首相の国葬の準備が進む日本武道館
安倍晋三元首相の国葬の準備が進む日本武道館=9月26日、東京都千代田区、滝沢貴大撮影