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不耕起栽培(耕さない農業)で収穫増やし、排出権取引めぐる投資も狙う カンボジア

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カンボジア不耕起栽培水田の不耕起栽培を説明するサムナン・スレイリン。左側の伝統的農法では栄養不良の黄色のイネが交じるが、右側の不耕起栽培では緑のイネが均一に広がる
不耕起栽培水田の不耕起栽培を説明するサムナン・スレイリン。左側の伝統的農法では栄養不良の黄色のイネが交じるが、右側の不耕起栽培では緑のイネが均一に広がる=2022年8月、カンボジア西部バッタンバン郊外、西村宏治撮影

耕さない農業は、発展途上国にも浸透し始めている。カンボジアでは稲作でも取り組み始め、土壌改良が進んで収穫量が上がったという。そんな取り組みに先進国が目をつけ、地球温暖化防止のための排出権取引と結びつけて投資を呼び込もうとしている。

カンボジア西部バッタンバン郊外。約10ヘクタールの農地を持つメア・チェムさん(65)は水田耕作で不耕起に取り組んでいる。

カンボジアでは、コメは地域によって一期作か二期作になる。メアの地域は一期作。種まきは乾期、イネの成長期は雨期、そして収穫は乾期だ。田植えはせず、じかまきが一般的だった。

今はコメの収穫後に、被覆作物を植えておく。種まき期にはトラクターにつけた専用の農機具で被覆作物を倒しながらイネの種をまき、同時に肥料も施す。「1ヘクタールあたり3トンほどだった収穫量が3.5~4トン見込めるようになった」と言う。

「施肥の効率が上がり、土壌の改良にもつながる」。そう言うのは、政府の環境保全型農業サービスセンター(CASC)でコーディネーターを務めるサムナン・スレイリンさん(26)だ。

じかまきの場合、イネが密植されやすく、雑草の管理が難しい。施肥がまばらになりがちで、イネの生育にもばらつきがあった。だが農機具での種まきは列になり、施肥も均等になる。雑草の管理も容易になり、除草剤や殺虫剤の使用も減らせているという。

不耕起農業はトウモロコシや、キャッサバなどにも広がりつつある。「ほぼすべての農地で、耕さないで種をまいています」。バッタンバン郊外の80ヘクタールの農地でトウモロコシなどを育てるキ・サリスさん(31)は言った。

トウモロコシの場合、種まきの30~60日前に被覆作物を植える。時期が来ると、被覆作物を倒しつつ種をまく。従来は耕起と種まきで3回かかった手間が1度ですむ。

不耕起を含む環境保全型農業に取り組むようになったのは4年ほど前。地域政府などが主催する研修に参加したのがきっかけだった。「耕さないで種をまくとか、わざわざ雑草のような被覆作物を植えるとか、これまでの常識とはまるで違った。半信半疑でした」

だが雑草の抑制や、土壌の侵食防止ではすぐに効果がわかった。さらに耕す手間も減るのなら、と導入に踏み切った。

トラクターで近隣の農家の畑を耕す事業も手がける。最近では不耕起での種まきを頼まれることが増え、「応じきれないほどです」と言う。

カンボジアで見た不耕起栽培の試験畑の土。枯れた被覆作物が土に交じっていた
カンボジアで見た不耕起栽培の試験畑の土。枯れた被覆作物が土に交じっていた=2022年8月、カンボジア、西村宏治撮影

課題はコストだ。月の最低賃金が200ドル(約2万7200円)ほどのカンボジアだが、トラクターにつける不耕起用の農機具は、中古でも約9000ドル(約123万円)。通常の種まき機は新品が3000ドル(約41万円)で買える。耕す回数が減るほか、土にもいいと考えて導入したが、簡単な決断ではなかった。

1ヘクタール65~75ドル(約8900~1万300円)する被覆作物の種も、これまでにない出費だ。少しでも支出を減らそうと、自前の採種にも挑戦している。

中部コンポンチャム州にある農林水産省傘下のボスクノール研究ステーションでは、どの被覆作物が雑草を抑えたり、土に栄養を残したりするかを調べる実験栽培が行われている。

ただ、カンボジアでは米国などとは違って、化学肥料をまったく使わないといった取り組みはまだ少ない。

コーディネーターのカク・ブロスさん(27)は「被覆作物をうまく使うことで除草剤や肥料の量を抑えることはできる。これまで農家は化学肥料を使いすぎることが多かった。まずは適量を調べ、伝えていきたい」と言う。

カンボジアで不耕起を含む環境保全型農業の取り組みが始まったのは、2004年のことだった。フランスなどの協力のもとにボスクノールで試験プロジェクトが始まり、2014年にバッタンバンなどにCASCが設立された。カンボジア王立農業大などが中心となり、実験栽培や農家への普及が進められた。

実践が広がり始めたのは、ここ5年ほどだ。バッタンバン州での環境保全型農業の実践例は2019年の約500ヘクタールから、2021年に約1400ヘクタールに拡大。2022年は2000ヘクタール超を見込んでいる。

民間も動き始めた。2018年に設立された被覆作物の種を扱うベンチャー企業スマートアグロのアプローチマネジャー、ソン・ソバンダさん(29)は「農家は被覆作物などの追加の出費を敬遠しがち。それでも効果を知ってもらえれば、広がっていくだろう」と手応えを感じている。

さらに野心的な計画も進む。不耕起などの環境保全型農業は、炭素を土壌にため込むことで知られている。

そこで環境保全型農業への移行がどれほど炭素をため込むかを調査。もし効果がはっきりわかれば、環境保全型農業への移行を二酸化炭素などの排出権取引と結びつけ、投資を呼び込もうという取り組みだ。すでに基礎調査が終わっており、2年後に成果を調べる予定だという。

カンボジアでは、フランスのほか、米国やスイス、スウェーデン、日本など、各国の様々な機関が環境保全型農業をめぐる共同プロジェクトに携わっている。

スイスのNGOスイスコンタクトもそのひとつ。新たな農業の広がりには商用化が欠かせないとして、官民の関係者を巻き込んだ基盤づくりを支援している。

カントリーディレクター、ラジブ・プラダンさんは「これから発展していく国で先んじて環境保全型農業や環境再生型農業への転換ができれば、地球への貢献は大きい」と話す。