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福島第一原発事故後、現地入りした国際原子力機関(IAEA)の専門家たちは何をしたのか

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福島第一原発事故の情報公開を求める市民たちが、国際原子力機関(IAEA)の担当者に要望書を手渡した
福島第一原発事故の情報公開を求める市民たちが、国際原子力機関(IAEA)の担当者に要望書を手渡した=2012年12月、福島県郡山市のビッグパレットふくしま

IAEAは福島第一原発事故後、日本政府の求めに応じて放射線計測や海洋汚染、原子炉などの専門家チームを次々と送り込んだ。

事故1週間後には地上の放射線を計測するチームが来日。1カ月滞在し、文部科学省と協力しつつ関東地方一円を計測して回った。計測値はインターネットで公開した。

3月末には食品の放射線計測チーム、4月初めからは海洋の放射線計測チームと原子炉の専門家が来日し、調査と助言にあたった。5月下旬には事故調査団を派遣。10月には除染の専門家チームが被災地を訪れた。

12人の除染専門家チームの一員として来日したフィンランド出身のテロ・ワルヨランタは1週間余り滞在し、福島県内の計画的避難区域を中心に除染を視察、日本政府に助言した。

国際原子力機関(IAEA)の専門家らが除染の実証試験の現場を視察し、日本原子力研究開発機構の担当者から森林の除染について説明を受けた
国際原子力機関(IAEA)の専門家らが除染の実証試験の現場を視察し、日本原子力研究開発機構の担当者から森林の除染について説明を受けた=2011年10月、福島県南相馬市原町区高倉のハートランドはらまち

ワルヨランタが驚いたのは、伊達市の小学校で視察した除染活動の様子だ。地元の親たちが大勢、校庭にしゃがみ込んでシャベルで黙々と表面の土を削り取っていた。

全員がボランティアで、芝生や草木もプロの手を借りることなく、丁寧に刈り取っていた。

地元の市長らに話を聞くと、除染に対する知識は専門家の域に達していた。「母国フィンランドで同じことが起きたら、ここまでできるだろうか。ぜひ見習いたい」

ただ、不安も感じた。除染対象の地域には、ふだん人があまり入らない森林が多く含まれている。そうした場所まで過剰に除染するのは、時間や費用の面で効率が悪いと思えた。除染で取り除いた土壌は多くなればなるほど、置き場に窮するからだ。

チェルノブイリ原発事故で汚染されたウクライナの除染活動に携わった経験がある。「除染は膨大な時間と忍耐を必要とする。ある程度状況が落ち着いてきたら、放射線量の高い場所にターゲットを絞るべきだ」と提言した。

IAEAの提言に強制力はない。今年1月のストレステストの視察についても、あくまで日本のテストの審査方法についての評価をするだけで、ストレステストの結果そのものには言及しない立場をとる。

視察団長のライオンズは大飯原発での記者会見で、このタイミングでの視察は再稼働に向けたPRではないのか、と問われ、「再稼働についてIAEAは責任を負う立場ではない」とかわした。

IAEAの「原子力安全」での役割は、事故への対応だけには限らない。各国の経験をもとにした標準的な「安全基準」を示し、強制力はないとはいえ、随時、各国のとりくみを審査し助言や勧告をしている。

原発や原子力関連施設を新たにつくろうとする国に対しては、安全策に関する支援のプログラムを持っている。現地で指導や、安全管理の専門家の養成や研修も続けている。

原子力安全策について、IAEA関係者は「原発の安全強化を推進しているのであって、原発推進ではない」と説明する。ただ、IAEA憲章も原子力の平和利用のための開発を援助するとうたっており、「原発推進の立場だ」と見なされることも少なくない。

「IAEAの安全基準や事故の評価は甘い」との批判も、しばしば出されてきた。その一例は2005年、IAEAやWHOなどの専門家グループがまとめたチェルノブイリ原発事故の被害に関する報告書だ。

将来にわたる死者数の予測を約4000人と結論づけたが、それまでは数万~数十万人との見方もあっただけに「事故の被害を過小評価している」との反発の声が被害者の周辺や環境保護団体などから上がった。

原発だけではない

IAEAは原発ばかりでなく、放射線利用全般の支援も担う。原発に縁遠い多くの途上国にとって、IAEAに期待するのもこの分野だ。

パキスタンで綿やサトウキビの畑の害虫駆除に携わったり、世界保健機関(WHO)などと共同で口蹄疫(こうていえき)対策を展開したり。モロッコでは、元素分析の技術を使った水源探しのプロジェクトにも乗り出している。