——昨年9月のIAEA総会で、原発の安全強化に向けた行動計画が承認されました。その後の進展は。
行動計画を着実に実施するため、専属チームを立ち上げました。IAEAが定める原発の安全基準を見直すよう専門家の委員会にも指示し、作業チームで具体的な協議が進んでいます。今春に中間報告、夏前にも最終報告が出る予定です。
——行動計画で、当初案にあった原発の安全検査の抜き打ち的な要素などが、修正の過程で薄められました。
原子力安全の面で、IAEAには強制力がありません。強制力を持たせるには現在の枠組みを変えなければなりませんが、条約改正が必要なうえ、151加盟国のコンセンサスを得て各国が批准するまで大変な時間とエネルギーを要します。
議論ばかりで原子力の安全強化がなされない事態に陥るよりも、実を取ろうと思いました。今ある枠組みの中で最大限できることをやろうとしています。
——IAEAは各国に自発性を促すのが精いっぱいということですか。
原発の安全対策は各国が責任を持つという枠組みは、今も変わりません。IAEAは全面的にそれに協力します。もし加盟国の安全にIAEAが責任を持つと、要員や技術、機材が膨大なものになります。IAEAは今と全く性格の異なる組織にならざるを得ません。
——今後、福島のような重大事故が起きても、それは各国の責任で、IAEAの責任はないのでしょうか?
責任が誰にあるのかを言ってもあまり意味はありません。そういう事態が起きないように最大限努力し、事故の時には被害を最小限に抑えることが重要です。
——IAEAは本来、中立的な国際機関ですが、イランや北朝鮮の核問題が注目されるなか、国際政治と無縁でいられません。
中立的、技術的な国際機関であることに間違いはありませんが、一方でIAEAは国際政治や安全保障の綱引きのまっただ中に置かれています。だからこそ関心がもたれ、発言も注目されます。
ただ、様々な判断を下す基準が政治的であってはなりません。あくまで技術的な視点優先で、「どこかの国が怒るから核拡散に関する情報があっても黙ろう」ということはありません。ためらわず警鐘を鳴らします。
——IAEAはしばしば「米国寄り」との批判を受けます。一昨年、ウィキリークスの暴露公電で、天野事務局長が「常に米国側に立つ」と示唆したと報道されました。
ウィキリークス問題にはコメントしないことにしています。ただ一般的に、米国はIAEAを支持しており、外から見れば両者の関係は非常に良く見えるかもしれません。
でも、中で意見が食い違うことは日常茶飯事です。国際政治のど真ん中にいるからこそ、ぶれない座標、原理原則を持たなければならないと肝に銘じています。
ヒロシマ、ナガサキの国から来た事務局長としても、核拡散防止のために断固たる立場を貫くというのが私の軸です。確かに、たとえばイランに厳しい立場をとれば「米国寄り」だといわれます。だからといって政治的に配慮したのでは、事務局長の名に値しないでしょう。