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北朝鮮でドル値上がり コロナ、中ロでの出稼ぎ、ウクライナ侵攻…流通の「裏表」

北朝鮮インテリジェンス
米ドル札
米ドル札=gettyimages

北朝鮮通貨ウォンの現時点での公式レートは、最近は1ドル(約135円)あたり150~200ウォンで推移しているとされる。

このレートは、主に外国人に適用される。同時に国内の市場などでは実勢レートが適用されてきた。元幹部によれば、1ドルあたり8千300ウォン程度だった実勢レートが最近、同1万2千ウォンくらいまで上がっている。

理由の一つは、中朝貿易の再活性化だ。北朝鮮は新型コロナウイルス対策で2020年1月から国境を閉鎖していたが、今年1月に中国との鉄道貿易を再開した。中国でのコロナ再拡大を受け、4月から一時中断したが、8月半ばにも再開される見通しになった。

中朝貿易が中断している間、実勢レートが1ドルあたり5千ウォンくらいにまで下がっていた。貿易再開で外貨の需要が増えたことが、ドル高騰の原因の一つとみられる。

そして、元幹部によれば中国とロシア、北朝鮮3カ国による「ドル締めだし」の動きもみられると指摘する。

国連制裁決議は加盟国に対し、2019年12月までに北朝鮮労働者全員を本国に戻すよう義務づけているが、中ロ両国には依然、数千人から数万人の単位で北朝鮮労働者が働いている。

北朝鮮北東部に近い吉林省図們に出稼ぎに来た北朝鮮女性たち
北朝鮮北東部に近い吉林省図們に出稼ぎに来た北朝鮮女性たち。そろいの服を着て、集団で出勤する= 2013年4月、石田耕一郎撮影

元幹部によれば、中ロ両国は労働者に対し、中国人民元とロシア・ルーブルで賃金を支払い、ドル払いを拒否している。相対的に北朝鮮が保有するドルが減り、ドル高の現象が起きているという。

ロシアメディアによれば、ウクライナ東部で独立を宣言した「ドネツク人民共和国」の指導者を名乗るデニス・プシリン氏が8月9日、ロシア放送局に放送に出演し、「北朝鮮の労働者はすぐに到着するだろう」と語った。

朝鮮中央通信によれば、北朝鮮は7月、「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立承認を決め、崔善姫外相が「両国外相」に書簡を送った。

崔善姫氏
崔善姫氏(当時は第1外務次官)=2018年6月、シンガポール、ランハム裕子撮影

北朝鮮労働者はロシアとウクライナの戦闘で荒廃したウクライナ・ドンバス地方の再建に派遣される見通しだ。新たな外貨稼ぎで、支払いはロシア・ルーブルで行われるとみられている。米国などは国連制裁決議違反としているが、「ドネツク人民共和国」などは国連未加盟を理由に北朝鮮労働者の受け入れを強行する構えを崩していない。

ただ、韓国銀行が8月、脱北者289人への聞き取り調査を基に発表した資料「北朝鮮消費者支給手段の調査分析」によれば、北朝鮮内では現在、中朝国境地帯では中国人民元と北朝鮮ウォン、内陸都市部では米ドルと北朝鮮ウォン、内陸農村部では北朝鮮ウォンと穀物が、商品の対価として主に使われている。

例えば内陸都市部では、市民が一番使う通貨として、2000~2009年は北朝鮮ウォンが88.9%、米ドルが11.1%だったが、2015~2019年にはウォンが66.7%、ドルが25.6%、中国人民元が7.7%になったという。ロシア・ルーブルはほとんど流通していない。

2019年12月にロシア極東・ウラジオストクで取材した際、帰国する北朝鮮労働者らが、空港の両替所や闇両替商に群がり、ルーブルをドルに交換していた。労働者の一人は取材に「朝鮮ではルーブルは使えないから」と語っていた。

ロシア極東・ウラジオストクの空港で両替する北朝鮮の海外派遣労働者ら
ロシア極東・ウラジオストクの空港で両替する北朝鮮の海外派遣労働者ら=2019年12月、牧野愛博撮影

韓国銀行の資料や脱北者の証言などによれば、北朝鮮では1990年代、数十万人とも200万人とも言われる餓死者を出した「苦難の行軍」当時、中国で食糧を調達する人が現れ、外貨の流通が始まった。北朝鮮も2000年代に入り、一部市場経済を認め、市民が市場などで外貨を使い始めた事態を黙認した。

北朝鮮当局は、北朝鮮ウォンの価値が下落する事態を懸念し、2009年11月に貨幣改革(デノミネーション)を実施。同時に、住民が保有する外貨を全て北朝鮮の新しい貨幣と交換させようとした。

ところが、逆に市民の北朝鮮ウォンに対する信用が急落し、ドルや人民元との交換を求める人が激増したという。韓国銀行の資料によれば、同じように、1975年から1979年にかけて旧通貨全てを使えないようにしたカンボジアや、1987年に旧通貨の80%を使用不能にしたミャンマーでも、外貨主体の流通が続いているという。

脱北者の一人によれば、北朝鮮では偽ドル札も相当数、流通している。

2014年、カナダ・トロントで取材した46歳の脱北した男性は「ジルコニウム2.5キロを、北朝鮮・新義州まで持っていって、中国・丹東から来た朝鮮族の人物に売った。代金をドルで払うと言われたが偽札が多いので、小麦粉で代価をもらった」と語った。

金正恩総書記が目指す国家像のひとつに「経済強国」がある。祖父の金日成主席が「思想強国」を、父の金正日総書記が「軍事強国」をつくったとし、自らは北朝鮮を経済的に豊かな国にしていせると意気込んできた。

北朝鮮の人々が外貨を好んで使っている現象を見る限り、この目標の達成は依然、道のりが遠いと言えそうだ。