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北朝鮮がキリスト教を「アメリカ帝国主義」と同一視する理由

北朝鮮インテリジェンス
北朝鮮のプロテスタント教会
北朝鮮のプロテスタント教会(2008年配信)=Eric Lafforgue / Hans Lucas via Reuters Connect

国際宗教自由委の報告書によれば、北朝鮮では宗教活動は「迷信を信じる行為」として厳しく処罰される。住民はお互いに監視し合い、「聖書」「宗教」などの言葉も口に出せない。報告書は、北朝鮮の対応について「体系的で広範囲に及ぶ深刻な人権侵害」と指摘した。

米国務省が6月に発表した「信仰の自由に関する国際報告書」は、国連の推計として北朝鮮でのキリスト教信者は20万人から40万人と紹介。NGOの調査として5万人から7万人のキリスト教信者が拘禁されている状態にあると紹介した。

NKDBの資料によれば、07年から20年7月まで韓国に到着した脱北者などの証言として、北朝鮮当局による宗教的迫害事件が1411件にのぼるとした。うち、126件は関係者の殺害、94件は失踪に関する事件だという。

北朝鮮の平壌は日本統治時代、「東洋のエルサレム」と呼ばれるほど、キリスト教が盛んな場所で知られた。金日成主席の母親もキリスト教信者だったとされる。北朝鮮建国後もしばらくは、多くの宗教が認められていた。北朝鮮憲法68条は「宗教を外部勢力を引き入れたり、国家社会秩序を破壊したりすることに利用できない」という条件つきで、信教の自由を認めている。

尹所長によれば、1950年代から60年代にかけては、北朝鮮で信者を取り締まる事例が発生していたが、80年代になると宗教迫害の事例がまったく聞かれなくなった。尹氏は「北朝鮮が政策を変更したのではなく、この頃までに聖職者や信者が根絶やしにされたからだ」と語る。北朝鮮は67年、唯一思想体系を採択し、金日成の神格化を進めていた。

ところが、90年代になり、北朝鮮で再び、宗教迫害が始まった。大規模な食糧難による「苦難の行軍」で中国に逃れたり、食料を求めに出かけたりする北朝鮮住民が続出し、中国で宗教に触れたからだ。尹氏は「韓国人や韓国系の米国・カナダ人などの宗教関係者が、脱北者の支援をする傍らで布教していた」と語る。中国による取り締まりで、現在は中国朝鮮族が同じ役割を担っている。

韓国・北韓人権情報センター(NKDB)の尹汝常(ユン・ヨサン)所長
韓国・北韓人権情報センター(NKDB)の尹汝常(ユン・ヨサン)所長(本人提供)

これに対し、北朝鮮は厳しい処罰で臨んでいる。尹所長によれば、NKDBが集めた宗教迫害の事例の6割以上が公開処刑か政治犯収容所送りになった。残りも教化所(刑務所)に収容され、処罰されないケースはないという。2012年11月、北朝鮮に拘留された韓国系米国人ケネス・ベー氏も、北朝鮮当局から「キリスト教を広めて、北朝鮮の政権転覆を図った」と決めつけられた。

尹汝常所長は「北朝鮮で宗教を信じる人の大部分はプロテスタントの信者。北朝鮮はキリスト教を布教するのは米国人で、キリスト教は米帝国主義そのものだと考えている」と話す。

尹所長によれば、北朝鮮は「宗教は麻薬と同じだ」と宣伝し、他の犯罪よりも厳しく取り締まる。「北朝鮮は住民に金日成・金正日主義を強要している。外部世界の情報をもたらす重要な契機になるキリスト教を恐れている」という。

平壌には教会もあり、外国人に公開されている。金正恩総書記が2018年9月の南北首脳会談の際、ローマ教皇の訪朝に応じる考えを示したこともある。文在寅大統領(当時)は18年10月と21年10月、フランシスコ・ローマ教皇に訪朝を勧めた。

欧州歴訪で、ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王と会談した韓国の文在寅大統領
欧州歴訪で、ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王と会談した韓国の文在寅大統領=2018年10月、バチカン、韓国大統領府提供

尹所長は「北朝鮮の行動は、正常な国家であることをアピールするためで、信教の自由を認める考えなど全くない。教皇の訪朝を勧めても、問題は全く解決しない」と話す。

金正恩政権は2020年12月、反動思想文化排撃法を採択し、思想の取り締まりを強化している。NKDBが集めた資料によれば、宗教迫害の事例が増えている。脱北者の7~10%が「聖書を見たことがある」と答え、「非合法な宗教の集まりを見聞きした」という人も4%近くいる。「自ら集会に参加した」と答えた人も1%以上いるという。

尹所長は「反動思想文化排撃法を採択したのは、それだけ『精神汚染』された人が多いという意味だ。北朝鮮では韓国ドラマを視聴した人間のなかでも、特に宗教的な要素があるドラマを視聴した人が厳しい処罰を受ける傾向にある」と語る。宗教色のある音楽や絵画を鑑賞することも禁じられ、十字架などをあしらった服を着ることも許されないという。

NKDBは20年まで毎年、「北韓宗教自由白書」の韓国版と英語版を発行してきた。毎年、新たに入手した北朝鮮の宗教迫害事例を分析し、紹介する。国連や米国務省の「信仰の自由に関する国際報告書」でも紹介されてきたが、21年版から出版できない状態に陥っている。

文在寅政権が20年1月から、脱北者全員に対する聞き取り調査への協力を停止したためだ。韓国では今年5月、尹錫悦政権が発足。外交省は7月、5年間空席になっていた北朝鮮人権国際協力大使に李信和・高麗大教授を任命するなど、人権外交を活発化させている。

ただ、所管する統一省は8月現在、NKDBによる調査協力再開の申請を受け入れていない。尹所長は「尹政権は人権外交に努力しているが、まだ私たちは政権交代を実感できずにいる。一日も早く調査を再開したい」と語った。