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「ガソリンスタンドを見れば北朝鮮の今がわかる」衛星写真で追い続ける研究者

北朝鮮インテリジェンス 更新日: 公開日:
北朝鮮のガソリンスタンド(2012年撮影)
北朝鮮・咸鏡南道咸興のガソリンスタンド=2012年撮影、Hans Lucas via Reuters Connect

北朝鮮の金正恩総書記が権力を継承して10年余り。経済は発展する様子を見せたが、最近は制裁や新型コロナウイルスの流行から景気は大きく減速していると言われる。米国で商業衛星の情報などを分析し、「AccessDPRK」で情報を公開している米国のジェイコブ・ボーグル氏は、ガソリンスタンドの数からも北朝鮮経済のトレンドがわかると指摘する。(牧野愛博)

――金正恩氏が政権を握った2011年末以降、衛星写真で確認できる北朝鮮の市場の数はどのように変化しているのでしょうか。

現在、北朝鮮には少なくとも477の市場があります。このうち457が当局公認のもので、残りの20はいわゆる闇市場です。

この国にはおそらく100以上もの闇市場が存在すると思われますが、それらを衛星画像で特定や識別することは極めて困難です。

正恩氏が権力を掌握した最初の10年間で34の公認市場が建設されました。年ごとにみると、12年(4)、13年(3)、14年(6)、15年未確認(ゼロ)、16年(4)、17年(4)、18年(4)、19年(6)、20年(2)、21年(1)です。

ただ、市場の数よりも、市民が利用できる市場面積の伸び率を調査する方がより重要です。使用面積がより広いほど、多くの商人が品物を販売できるからです。

12年から21年までに、新たに23万6320平方メートルの市場面積が増えました。15年から19年の間では、市場面積は一貫して増える傾向を示しました。15年には5490平方メートル、新型コロナが発生する前年の19年も2万3260平方メートルそれぞれ増えました。

ところが、新型コロナの流行後は、市場の成長規模が大きく鈍りました。20年は7450平方メートルでしたが、21年はたった630平方メートルしか増えませんでした。

市場面積の成長率の劇的な衰退は、新型コロナの流行が始まった20年1月、正恩氏が命じた国境閉鎖により、北朝鮮の経済が減速し始めたことを強く示唆しています。

中朝国境沿い、北朝鮮両岸道恵山市の市場=姜東完教授提供

――ガソリンスタンドの数はどうですか。

北朝鮮にあるガソリンスタンドの三分の二以上は金正恩時代に建設されたものです。

12年にはたった54カ所でしたが、現在では少なくとも157まで増えました。年ごとの建設数をみると、12年(6)、13年(7)、14年(11)、15年(15)、16年(20)、17年(22)、18年(7)、19年(7)、20年(2)となっています。

国連安全保障理事会が17年、北朝鮮に追加の経済制裁を科したことで、北朝鮮経済に悪影響が及んでいます。原油の密輸がより難しくなっています。

北朝鮮の地方都市にあるガソリンスタンド
北朝鮮の地方都市にあるガソリンスタンド=2019年撮影、北朝鮮関係筋提供

しかし、12年以降、これだけ多くのガソリンスタンドが建設されました。全ガソリンスタンドを稼働させるために必要な燃料の量は、北朝鮮が合法的に輸入できる量を超えていると推測できます。北朝鮮は依然、違法な石油製品の密輸を行っている状態にあることを示唆しています。

国連と米国も「北朝鮮は毎年、合法的に認められた量の3~4倍にもなる石油製品を輸入している可能性がある」と報告しています。

――北朝鮮経済の変化をどう分析しますか。

国連の制裁は、北朝鮮の経済、特に石油の瀬取りなどの違法貿易に影響を与えています。ただ、私は、制裁が多くの人が思っているような大きい影響を及ぼしているとは思いません。

17年以後も市場は拡大し、北朝鮮は弾道ミサイルやほかの兵器に何十億ドルも費やせる状態が続いています。国内各地で数多くの建設プロジェクトも進んでいます。

制裁を受けているにもかかわらず、17年以降に数万戸の住宅だけでなく、工場や食品加工施設も各地に建設されています。多くの軍事基地でも、新たな施設の建設が確認できます。

制裁の効果が限定的なのに対し、新型コロナが経済に与えた影響の方がはるかに大きいと思います。

北朝鮮ではエネルギー不足のため、今でも牛車があちこちで使われている
北朝鮮ではエネルギー不足のため、今でも牛車があちこちで使われている=2019年撮影、北朝鮮関係筋提供

パンデミックが始まってから市場の成長は明らかに停滞しています。北朝鮮市民からの情報でも、過去よりも購入できる商品が減っているようです。

新型コロナを防疫するための国境閉鎖措置は、大規模で手の込んだプロジェクトに必要な建設資材の輸入も制限しているため、主要プロジェクトの建設作業も停滞しています。

――北朝鮮の経済開発は平壌を優先し、高層ビルの建設などを優先する一方、鉄道や道路、水道などのインフラ整備が不十分だと言われています。

平壌は主に、常に新しい建設事業やインフラ整備の恩恵を受けてきました。平壌以外の地方の状況はやや微妙です。私の分析では、金正恩体制下で20万戸以上の住宅が建設されていますが、その半数が首都以外の地域に建設されました。多くの町に新しい文化施設や娯楽・休養施設が作られました。

リチュンヒさんらが入居した平壌の新しいアパート群
平壌の新しいアパート群=朝鮮中央通信ホームページから

一方で、いくつかの基本的なインフラ整備が追いついていません。ほとんどの都市で水処理施設が不足しているほか、電力網は老朽化して数十年間も大規模な修理が全く行われていません。道路網はほとんど未舗装のままです。平壌ですら例外ではありません。高層ビルが多く建設されていますが、エネルギー不足のためエレベーターが動かず、ビルの最上階に衛生的な水をくみ上げるための水圧も得られていません。

国内各地にある軍需工場の多くも近代化されていますが、一般大衆向けの製品を作る工場には同じレベルの配慮が行き届いていません。正恩氏は多くのプロジェクトを始めましたが、軍事に焦点を当てたもので、市民の生活水準を根本的に向上させるプロジェクトは実施していないようです。

ジェイコブ・ボーグル氏
ジェイコブ・ボーグル氏=本人提供

――そのほか、目立った変化はあるのでしょうか。

金正恩時代は1950年~60年代以降で、最も多くの建設事業を全国各地で行った時代と言えます。ただ、食糧やエネルギーの供給を体系的に改善するに至る組織的な動きはみられません。

軍事施設に関する事業もかなりの数に上ります。少なくとも127の軍事基地が新設、あるいは大規模な改修が実施されました。国内の全てのミサイル基地でも改修事業が実施されています。

政策の変更という点でみれば、人々に経済的な自由や可能性を与える試みが数多く見られました。ただ、北朝鮮が新たな試練に直面するたびに、当局はその自由を奪い、市民に対する支配を強め始めています。

今日、人々が脱北することがはるかに困難になっています。当局は、北朝鮮の若者の間で、衣服や娯楽、言語などに西側諸国の影響が拡散することを阻止する多くの手段を講じています。