北朝鮮が12月3日伝えた所では、最高指導者の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長がこの週、新たな山岳リゾートを開設し、そこを「現代文明の縮図」と呼んだ。孤立国家が国際的な制裁の痛みを和らげるためにより多くの外国人観光客を呼び込もうというわけだ。
北朝鮮の国営通信社、朝鮮中央通信(KCNA)が同日伝えたところによると、金正恩は中国との国境に近い三池淵(サムジョン)郡でのテープカットに姿を見せた。
長年の取り組みの極致として提示された型通りのプロパガンダ(政治的な宣伝)の瞬間を祝して、KCNAは空に浮かぶ風船や花火とともに、雪に覆われたリゾートタウンに集まった群衆の写真を掲載した。
金正恩は、父の金正日(キム・ジョンイル)が11年末に死去したことに伴って政権を継承して以来、より多くの市場活動を認め、首都の平壌などで建設ブームを始動させ、瀕死(ひんし)の状態にあった北朝鮮経済の再建を約束した。国連は北朝鮮に制裁を科し、石炭や鉄鉱石、水産物、繊維製品の輸出で外貨を稼ぐことを阻止してきたが、観光業は制裁対象から除外されている。
老朽化したリゾートだった三池淵をスキー場やスパ、ホテルを完備したモダンな複合リゾートにすることが、金正恩が長年温めてきたプロジェクトの一つだ。三池淵の町は中国との国境の山「白頭山(ペクトゥサン)」の山麓(さんろく)に位置する。白頭山は、多くのコリアンが自国の発祥の地とみなしており、歴史家たちは否定しているが、北朝鮮のプロパガンダでは金正恩の父の生誕の地とされる山である。
金正恩は19年、恒例の年頭演説で三池淵を「理想的な社会主義の里」とするよう呼びかけた。彼は近年、建設現場を何度か訪れている。
しかし、この事業は国連制裁で悪化した電力や建設資材などの不足に悩まされてきた。金正恩は、プロジェクトを進めるために軍隊を動員し、人民からの「忠誠の寄付」と呼ばれるものにも動員をかけた。この地域から逃亡した人たちの報告によると、当局は金正恩が設定した建設期限に間に合わせるために、周辺の町から電力や労働者を三池淵へと転用した。
観光業は今後数カ月間、北朝鮮経済にとってますます重要になりそうだ。国連制裁決議の下、中国とロシアを始めとする国々は19年12月末までに、それぞれの国内にいる北朝鮮人の労働者をすべて帰国させなくてはならない。そうした労働者は金正恩体制のもう一つの重要な資金源なのだ。
共産主義者の隣人が倒れてほしくない中国政府にとって、訪問客はライフラインを差し伸べる手段の一つである。中国の税関データを引用した韓国ソウルの大韓貿易投資振興公社(KOTRA)によると、18年には、中国人観光客は前年比50%増の120万人が北朝鮮を訪れ、平壌がぜひとも必要なキャッシュを提供した。
最近、平壌を訪れた人たちの話だと、中国人観光客の数は増えており、特に19年6月の中国国家主席・習近平(シー・チンピン)の平壌訪問以降の増加が目立つ。彼らによると、中国人観光客の集団を見つけるのはたやすく、北朝鮮と中国との間のフライトの予約や鉄道チケットの購入が困難になることがよくある。
金正恩は、シンガポールでの米大統領ドナルド・トランプとの会談2カ月前の18年4月、父親が掲げた先軍戦略、つまり軍事優先の戦略をひっこめ、経済を公式政策の最優先課題に位置付けた。先軍戦略とは国家資源を核兵器など武力開発に集中させる戦略だ。
トランプとの外交努力が揺らぐなか、金正恩はますます「自立」経済を強調するようになり、国内産業を強化し、諸プロジェクトの構築に軍隊の動員を図っている。
とりわけ、リゾートタウンの建設に焦点を置いてきた。その好みについて、アナリストのなかには、金正恩が10代のころ留学していたスイスで体得したものではないかとみる向きもある。
東海岸の町、元山(ウォンサン)では、金正恩は浜辺沿いのホテルやウォーターパーク、ゴルフコースなどを備えた大規模な夏季観光の複合施設を建設している。さる10月だけでも、三池淵と金剛山(クムガンサン)のリゾートタウン、陽徳(ヤンドク)の温泉リゾートを訪れ、リゾートプランナーたちを激励した。
金剛山で、金正恩は韓国系ホテルや南北朝鮮がかつて一緒に運営していた他の建物の解体を命じた。
彼は、韓国大統領の文在寅(ムン・ジェイン)と初めて会談した18年、複合施設の再開を迫り始めた。しかし、韓国側が動かなかった時、金正恩は北朝鮮が独自に町を再建するだろうと述べた。報道によると、北朝鮮は最近、金剛山でのハイキング旅行に中国やその他の国々から観光客を招待した。
金正恩は、すぐには制裁が解除されたり緩和されたりすることはないとみており、観光促進で苦境を切り抜けようとしている。アナリストたちの見方だ。(抄訳)
(Choe Sang―Hun)©2019 The New York Times
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