アメリカにおけるサル痘の危機と、それをさらに悪化させた過ちの内幕
Inside America’s monkeypox crisis — and the mistakes that made it worse
2022年8月16日付 ワシントン・ポスト
コロナウイルスのパンデミックが始まり2年以上が経過した。米国政府は次のパンデミックに対応する準備を整えていると期待したい。しかし、サル痘の蔓延に対する米国の対応は残念ながら、コロナウイルスから学び、教訓を生かしたというよりも、検査へのアクセスの制限、ワクチンの非効率的管理、治療を受けるための行政的roadblocks(障害)、国民へのコミュニケーションの悪さなど、おなじみの愚行を繰り返したものとなっている。そして、コロナウイルスの経験と同様に、米国では確実に感染者のsurge(急増)が発生し、現在15000人を超え、他のどの国よりも多くなっている。今回の連邦政府による対応の緊急性の乏しさは、エイズ初期のゲイやバイセクシュアル男性に与えた影響をhearkens back to(思い出させてしまう)。
今後数週間のうちに、行政が最初のstruggles(苦難)を乗り越えたのか、それとも時間が経ちすぎたからウイルスが国内に定着してしまうのか、明らかになるだろう。
■遅い初期対応、複雑な手続き
1958年に実験用のサルで初めて発見されたサル痘は、はるかに致死率の高い天然痘の親戚であり、激しい痛みとlesions(傷跡)が残り、長く続くcomplications(合併症)を引き起こす可能性がある。
5月中旬に最初の患者が米国で発見されたとき、当局は物流上の問題に直面した。それは、十分な量のワクチンを米国にどのように届けるか、そしてそれをどのように早く行うかということであった。米国の疾病対策予防センター(CDC)は、サル痘にかかった人の濃厚接触者やかかる可能性のある人に予防接種を勧めている。後者には、サル痘にかかった人の接触者として確認された人、過去14日間の性的パートナーがサル痘に診断されたことを知っている人、「サル痘感染が知られている」地域でその期間中に複数の性的パートナーがいた人などが含まれる。
バイデン政権は、5月中旬にこの病気が最初に表面化した後、すぐに使えるワクチンを製造元のデンマークから米国へと出荷するのが遅すぎたこと、バルク・ワクチンの在庫をバイアルに加工するよう指示するのが遅すぎたことで、批判のbarrage(嵐)にさらされている。このワクチン不足は、政権にとって政治的、公衆衛生的な問題へと発展していた。
初期には、サル痘の検査はすべて医師がまず市や州の疫学者から許可を得る必要があり、何度も電話や電子メールをする必要があり、何時間もかかることが多かった。CDCの指導に従い、地方当局は、目に見える病変がある患者や発疹がある患者など、感染の可能性がある人にのみ検査を実施するという厳しい条件を課した。
このような制限により、chokehold(息が詰まるような状況)が生まれた。6月初旬の時点では、全国で1日当たりわずか10数件の検査しか行われていなかったが、当局は、感染集団の発見で、大流行を食い止めるためには、毎日数百、数千件の検査が必要であると考えた。
さらに、医師は、この病気の治療に推奨される薬剤であるテコビリマットを患者に要求するために、byzantine(非常に複雑な)規則を乗り越えなければならない。
2年間にわたるコロナウイルスへの対応ですでにworn down(疲弊していた)国内の医療関係者の中には、まだ死者数に結びついていない新たなウイルスの脅威にどう優先順位をつけるか、頭を悩ませている人もいた。IV/AIDSの流行の初期に起こったようにゲイの人たちにstigmatize(汚名を着せ)たいとは思わないが、そのリスクをdownplay(軽視)したいとも思わない。
■ゲイ・コミュニティへの脅威
米国でサル痘に感染した人の99パーセント以上は、男性とセックスをする男性だ。このため、公衆衛生担当者は、この脅威について一般市民とコミュニケーションするにあたって、難しい作業を強いられている。しかし、その一方で、ゲイ特有の危険性を軽視することもできない。
ある医師は、「『性行為を制限しろ、セックスするな』とは言いにくいと思う」とコメントしている。
6月に入って感染者が増えた中、ホワイトハウスの高官たちは、事態のbeing handled(収拾に努めている)と国民に断言し続けた。ゲイの生活を祝うプライド月間のお祭りは、各地で予定通り行われ、その多くはコロナウイルスの大流行が始まって以来初めてとなった。
しかし、医師、専門家、患者は、検査や治療へのアクセスにますます遅れが生じ、それを解決する緊急性がほとんどない、という異なる現状を説明した。
ダンスパーティーやパレード、カジュアルなセックスで盛り上がったプライド月間が終わると、友人たちと祝杯をあげた何千人ものゲイ男性が、直腸や性器など体中に病変が起き、発熱や疲労感を覚え始めた。
■遅すぎたのだろうか?
8月4日、バイデン政権はついに公衆衛生上の緊急事態を宣言した。だが、政権を厳しく批判してきたゲイの権利活動家たちは、何週間も前から緊急事態宣言を要求していた。「これは遅すぎる」と、ある支援団体の創設者であるジェームズ・クレレンスタイン氏は言う。「なぜ数週間前にしなかったのか、本当に理解できない」と述べた。
一方、サル痘の症例は、一部のゲイやバイセクシャルのコミュニティで急激に増え続けており、当局が米国に永続的な足場を築く可能性を持つウイルスを迅速に制御できるという希望は薄れている。
ドナルド・トランプ大統領の下で食品医薬品局を率い、バイデン政権に公衆衛生上の集団発生への対応について助言してきたスコット・ゴットリーブ氏は、テレビ番組のインタビューで、「サル痘をget this back in the box(再び抑える)可能性はあると思うが、現時点では非常に難しいだろう」と述べた。
米国でのサル痘の症例数が他の場所に比べて多いことを挙げ、アトランタのエモリー大学の感染症専門医であるカルロス・デル・リオ博士は、こうコメントしている。「私にとっては、正直なところ、これは失敗です。私たちはcaught sleeping at the wheel(注意すべき時に注意していなかった)」
アメリカにおけるサル痘の危機と、それをさらに悪化させた過ちの内幕
Inside America’s monkeypox crisis — and the mistakes that made it worse
2022年8月16日付 ワシントン・ポスト
サル痘に対する米国の対応はうまくいっていない。それを解決する方法がここにある
The US response to monkeypox has not worked. Here’s how to fix it
2022年8月15日付 ボストン・グローブ
米国カリフォルニア州でサル痘患者数が急増し、制圧に向けた戦いに敗れる恐れ
Fears of losing battle to control monkeypox in California, U.S. as cases surge
2022年8月10日付 ロサンジェルス・タイムズ
米国がサル痘ワクチンの供給を引き延ばす動きを開始
U.S. Moves to Stretch Out Monkeypox Vaccine Supply
2022年8月8日付 ニューヨーク・タイムズ
サル痘の感染拡大に伴い、米国が健康上の緊急事態を宣言
As Monkeypox Spreads, U.S. Declares a Health Emergency
2022年8月4日付 ニューヨーク・タイムズ